第11話
ごとごとと単調なリズムで、馬車は揺れていた。はじめは慣れなかったこの揺れだが、三日も経てば、マリアベルは慣れてしまった。
アイリス城を出て、今日で四日目。山をひとつ越えた途端、馬車の窓から見える風景はがらりと変わった。そして、王都が近づくにつれ、街並みもあきらかに変わる。
人が多い。リールの城下でも見たことがないくらい。一目見て分かるくらい、さまざまな身分の人間がいて――――――そのなかには、他国人も珍しくなかった。西国人は肌が白く、東国人は髪や目の色が濃い。北国人は独特な衣装を着ていて、それぞれすぐに見分けがつく。これが、同じ国の中なのだろうか。リールの城下とは、あまりにも違う街をいくつも馬車のなかから見てきた。
そして。その長い馬車旅にも、終わりがきた。
「マリアベル、ほら、見て!」
ふいに立ち上がったかと思うと、馬車の窓に顔を近づけ、シオンは声をあげる。なんだろう、とマリアベルはそちらに視線を向ける。
そして。
「――――――これ、が、王都」
つぶやいたきり、マリアベルは絶句した。同じものを見たリリエラとリチャードも同じ反応を示す。
彼らの眼下に広がるのは、不自然なほどきれいに区画整備された門下街と、まさに天にも届きそうな大きさの王城。その城の第一の正門まで、関所を兼ねた巨大な門から、大人の背丈十人分ほども幅のある太い路がまっすぐ通っている。
王の道、と呼ばれる有名な大通りだ。
「ここが王都だよ」
嬉しそうにシオンは告げた。マリアベルはまともな答えも返さず、ぽかんとした表情でうなずいた。
一度停車した馬車が、ゆっくりと動き出す。アルディーンたちの乗った馬車が先行して、その大通りを進んだ。
「すごい……」
マリアベルの声を聞いたシオンは、嬉しそうに笑う。
王都。マリアベルはつぶやいた。果たしてこの大都市で、どんな運命が、マリアベルを待っているのだろう。