第10話
「王都? 王都に行くの?!」
「うん…」
「すごいじゃない、王都に行けるなんて!」
リリエラはそう、眼を輝かせた。しかしマリアベルは口ごもる。
地方の小城主の娘であるマリアベルにとって、王都など、もしかしたら一生縁がなかったかもしれない場所だ。王都、と言えば、この国で最も栄えている都市だ。文化、経済、流行の中心地。その王都に行くというのは、一種の夢であり、憧れだった。
王都に行けるとなれば、普段なら、おおいに喜べただろう。けれど。いまのマリアベルにそれを楽しむような余裕など、ない。物見遊山で行くわけではないのだ。いまのマリアベルは厄介な問題を抱えている。
王都に行けば、シオンのことは問題解決する、らしい。無理にでも解決させると、レイトアルシュはそうマリアベルに約束した。シオンの従兄弟だという彼が、シオンを力ずくで王都に連れ戻すということができないのは、何か理由があるようだ。しかし。はじめて行く大都市に、マリアベルの頼る相手はいない。出発は明日。あまりに急で、とてもではないが、何も準備できなかった。
と。心細さゆえの不安を隠せないマリアベルの肩を、リリエラがたたく。
「ねぇ、マリアベル。まさか王都までの道を、女の子ひとりで殿方たちと一緒に行くつもり?」
「え?」
リリエラは、マリアベルを見て、笑う。にこり、というよりは、にやりと。
「あのおふたりから、もう許可はもらってあるの。わたしとリチャードも、あなたと一緒に行くわ」
マリアベルはまばたきをして、リリエラを見る。その言葉を理解した瞬間、いままで血の気のなかった頬に、赤みが差した。
「――――――リリエラ!」
思わず、名を呼んだ。マリアベルはこのとき、はじめて泣きそうになった。