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天使の妃  作者: 観月 あき
第一章  夢
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第10話

「王都? 王都に行くの?!」

「うん…」

「すごいじゃない、王都に行けるなんて!」

 リリエラはそう、眼を輝かせた。しかしマリアベルは口ごもる。

 地方の小城主の娘であるマリアベルにとって、王都など、もしかしたら一生縁がなかったかもしれない場所だ。王都、と言えば、この国で最も栄えている都市だ。文化、経済、流行の中心地。その王都に行くというのは、一種の夢であり、憧れだった。

 王都に行けるとなれば、普段なら、おおいに喜べただろう。けれど。いまのマリアベルにそれを楽しむような余裕など、ない。物見遊山で行くわけではないのだ。いまのマリアベルは厄介な問題を抱えている。

 王都に行けば、シオンのことは問題解決する、らしい。無理にでも解決させると、レイトアルシュはそうマリアベルに約束した。シオンの従兄弟だという彼が、シオンを力ずくで王都に連れ戻すということができないのは、何か理由があるようだ。しかし。はじめて行く大都市に、マリアベルの頼る相手はいない。出発は明日。あまりに急で、とてもではないが、何も準備できなかった。

 と。心細さゆえの不安を隠せないマリアベルの肩を、リリエラがたたく。

「ねぇ、マリアベル。まさか王都までの道を、女の子ひとりで殿方たちと一緒に行くつもり?」

「え?」

 リリエラは、マリアベルを見て、笑う。にこり、というよりは、にやりと。

「あのおふたりから、もう許可はもらってあるの。わたしとリチャードも、あなたと一緒に行くわ」

 マリアベルはまばたきをして、リリエラを見る。その言葉を理解した瞬間、いままで血の気のなかった頬に、赤みが差した。

「――――――リリエラ!」

 思わず、名を呼んだ。マリアベルはこのとき、はじめて泣きそうになった。

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