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青春を帰宅(させる)部  作者: 腐汁じゅるじゅる
『ノアの方舟計画』

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05 男はピストン運動を高速化、女は膣内を高圧化させるために取り組んでいるに過ぎない

「副部長にはこれを被る資格がある」


部長はスカートのポケットから黒い布を引っ張り出した。

受け取って広げてみる。その布は部長が被っているものと同じ三角覆面だった。正面に当たる部分には、平仮名(ひらがな)の"き"がラバープリントされている。


「じゃあ失礼します……」


頭に被ってみると、布はすっぽりと俺の頭全体を覆った。

布の向こう側の景色がうっすら透けて見える。今の俺の視界には、満足げに頷く部長の姿が映っていた。

そしてどれだけの時間ポケットに入っていたのか、ほのかな温もりを感じる。


「よく似合っているぞ」


「あ、ありがとうございます……?」


で合っているのか分からないが、とりあえず感謝しておく。


「では早速『計画』の準備を始める。もちろん副部長にも協力してもらうぞ」


「え、入部届とか書かなくてもいいんですか?」


「その必要はない。我々は非公式な部活動ゆえ」


「それって大丈夫なんですか?」


「そもそも活動内容からして、『帰宅 (させる)部』が学校組織に属すれば様々な支障が生じることは想像に難くない。これは合理的な判断だ」


「はぁ……」


さも「敢えて非公認にしている」というような言い分であったが、そもそもこのような活動が正式に認められるはずもない。

むしろ教師にバレたら指導の対象になることは間違いない。

なんとも危なっかしい部活だが、俺は正式にここに身を置くこととなった。

全ては球技大会を中止させるため。この目的のためなら、俺は多少のリスクには目を瞑ることができる。ドッジボールで晒し者になるくらいなら、指導でも反省文でも受け入れてやる。

俺にとってスポーツとは、それほどまでに避けたい存在だった。


「それで、『計画』の準備って何をするんですか?」


「遊撃と部員のリクルートを並行する。まだまだ頭数が足りないのだ」


部長が語った『計画』のことを思い出す。

「……以上の内容を完璧に実行する場合、協力者の数は最低でも三十人は必要だ」と部長は語っていた。

その語り口があまりにも自信満々だったため、既に半分以上の人員は確保できているものだと勘違いしていた。

しかし現実は、俺と部長の二人だけ。

俺たちの思想に共感してくれるまだ見ぬ仲間たちが、あと何人この高校にいるのだろうか?


不安を抱きつつ、部長と共に放課後の校内を放浪する。

連中を嫌うものと青春を恨むもの。その二人が肩を並んで歩けば、出てくる話題は当然こういった内容だった。


「体育祭なんてまるで校内の体育全体を包括しているかのような名前なのに、別枠として球技大会やマラソン大会が設けられているのはおかしいと思うんですよ」


「なるほど。ならば文化祭も同じように、別枠としてお化け屋敷大会やメイド喫茶大会を開催せねば不平等というもの」


「それはそれで連中が盛り上がりそうで不快ですけどね。文化系の冷遇には首を傾げますよ」


「その原因は『スポーツ経験がある=偉い』というような風潮が国内に浸透しているためだ。

所詮スポーツなんてものは、男はピストン運動を高速化、女は膣内を高圧化させるために取り組んでいるに過ぎないというのに」


あ、なんか話がズレてきた……。

というか、この人はいつもこんなことを考えているんだろうか…… 。


話題を転換させるために、俺は今回の『計画』における部長の原動力について聞いてみた。


「そもそも部長は、どうして球技大会の参加者を帰宅させたいんですか?」


「球技大会にもまた、忌まわしい思い出があるのだ」


「……よければ、何があったのか聞かせてくれませんか?」


「あれは二年前のことだった……」


今から二年前……すなわち部長が一年生だった頃の話だ。

自己紹介が不発に終わった影響は長く尾を引いていた。入学から二ヶ月が経っても、未だにクラスに馴染めていない状況が続いていたという。


しかし部長は、未だ青春を楽しみたい気持ちを失っていなかった。そんな彼女にとって球技大会は絶好の機会だった。

スポーツには苦手意識があった。中学校時代は部活動もせずに勉強に打ち込んでいたためだ。

運動ができない自分が、球技大会で青春を取り戻す方法……。

蝦蟇(がま)高専レベルの知能をフル回転させた結果、辿り着いた答えは……。


「クラス全員分の差し入れを用意した」


「差し入れって……レモンの蜂蜜漬けとかですか?」


「いや、羊羮(ようかん)だ。

低脂質かつ低カロリー。小豆(あずき)に含まれるビタミンB1は運動後の疲労回復に適している」


「羊羮を手作りしたんですか……? クラス全員分……?」


その斜め上の発想を、俺は素直に呑み込むことができなかった。

そもそも羊羹って個人の家庭で作れるものなのか……?


「しかし手をつける者は皆無だった……」


「そ、それは残念でしたね……」


慰めの言葉を口にしてはいるが、部長のクラスメイトの立場になって考えてみれば、俺だって手を伸ばせなかったかもしれない。

クラスで浮いているアルカポネが、ある日突然持ってきた手作り羊羮……。疲労回復に適していたとしても、警戒心を拭いきることはできないだろう。


「その反省点を踏まえて、二年次の大会では全員分のミサンガを編んだ」


「ミサンガって、切れると願いが叶うと言われているやつですよね」


「エモさを狙ったのだ、(やから)はエモりたがりゆえ。しかしやはり、受け取る者は皆無だった……」


「…………」


羊羮とかミサンガとか、部長のセンスは微妙にずれている気がする。


「私の無念を晴らすために、協力を頼むぞ副部長」


「はい。こちらこそよろしくお願いします」


「ところで、副部長は何故協力してくれる気になったのだ?」


「あ、俺は別に単純な理由で。球技大会をやりたくないってだけです」


「うむ。結構結構」


その後俺たちは、再び連中やスポーツの悪口で盛り上がった。

他人とこんなに長く会話が続いたのは、高校生活で初めてのことだった。


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