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青春を帰宅(させる)部  作者: 腐汁じゅるじゅる
『ノアの方舟計画』

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04 ボールをぶつけあうだけの原始的で野蛮な競技なんて、これからの未来を作る十代がすべきことではない

「じゃあー、球技大会の種目を決めていこうと思いまーす」


クラス委員の締まりの無い号令を合図にホームルームが開始された。

黒板の両端にクラス委員の男女が立ち、黒板には競技が箇条書きされている。

クラスメイトたちはどの競技に出場しようか、うぇいうぇいと盛り上がっていた。たかが学校の一行事ごときに五輪級の熱量を注げるとは、よほど日常に娯楽がないらしい。


俺は競技どころか、大会自体に毛の先ほどの興味もない。もとよりスポーツ、体育に関わりたくない。何が反復横跳びだ。あの動きが人生においてなんの役に立つ。

そもそも(かえる)高校では、十月に体育祭が開催されるのだ。更に冬にはマラソン大会。

それでいて六月に球技大会まで催すとは、これは文化系生徒への人権侵害と断言できる。


俺はここに、文化系行事の増量を提言したい。

ちなみに文化祭は文化系行事に当てはまらない。名前に"文化"を冠しているが、盛り上がる人種は主に体育会系であるためだ。

そして合唱コンクール。これは9:1で体育会系の要素がはるかに強いため文化系行事ではない。


俺が提案する新たなる行事は、静かに本を読み続ける『黙読大会』だ。とにかく黙って本を読むのだ。例え咳払い一つだろうと、声を発した瞬間に退室かつ二週間の補習を受けてもらう。これで連中の顔をしばらく拝まずにすむというものだ。


……下らない妄想はともかく、球技大会への参加は断固として拒否する。

そして俺は、師走さんの『計画』に協力するつもりもなかった。


「球技大会に参加する生徒を全員帰宅させる!!!」


高らかに宣言した師走さんは、その後計画の詳細を語ってくれた。

てっきり開会式をジャックしてお得意の支離滅裂をマイクに乗せでもするのかと思っていたが、聞けば彼女は緻密な作戦を立てていた。

蝦蟇がま高専レベルの知能があれば、あの迷信も現実に実行できるようだ。


師走さんの計画の成否自体には興味があった。

しかし自ら進んで大会に水を差そうとは思えなかった。連中は純粋にスポーツを楽しみたいだけだ。そこに俺が害を(こうむ)る要素はない。


このことから、師走さんの勧誘は保留とさせてもらった。


ただし、球技大会に参加するつもりもなかった。

当日には仮病を使い学校を欠席することにする。計画の結果は、後日師走さんに教えてもらおう。


青嵜(あおさき)くんは何やりたいー?」


「あ、て、適当に空いてるところで……」


突然クラス委員の女子から声をかけられ、思わず言葉が詰まってしまった。

どうせ休むのだからゲートボールでもミートボールでも段ボールでも、空いているところの数合わせに俺の名前を記入すればいい。


「おい青嵜」


次に声をかけてきたのは担任だった。

平成の不良ドラマに憧れて教職を目指したと語る、無駄に熱血が溢れる男だ。

担任は教員用の椅子に足を組んで座ったまま、俺に問いかけてきた。


「青嵜は去年も球技大会を休んでたそうだな」


「……」


担任の言うように、俺は去年の球技大会、さらに体育祭、合唱コンクール、マラソン大会、全て仮病で欠席している。不真面目な態度で行事に臨むくらいなら、いっそのこと参加しない方がお互いのためなのだ。

担任の問いかけに、俺は肯定も否定もできなかった。 その口振りから、なにか嫌な予感を嗅ぎ取っていた。


「今回もサボったら、体育祭では実行委員をやってもらうからな」


「は!?」


思わず大声をあげてしまう。クラス中の「こいつこんなに声出せたのか」という視線が全身に突き刺さる。


「嫌なことからは逃げればいいっていう考えはよくないぞ~」


この上なく大きなお世話だ……。

担任(アイツ)からしてみれば、クラスに馴染んでいないネクラに一歩を踏み出すきっかけを与えたとでも思っているのだろう。スポーツを通じてクラスメイトたちと交流し、クラスが一丸になるという青写真を描いているのだろう。

勘違いも甚だしい。このような荒療治では俺は心を開かない。むしろ今の発言を受けて俺の心の扉の鍵はより強固なものとなった。お前には今後、好きな食べ物さえ教えてやらないことをここに宣言する。


「そんな……。本当に体調不良になったらどうするんですか!」


そもそも理由も関係なしに『サボったら実行委員』など職権乱用だろう。


「本当に、ってことは去年はズル休みだったんだな」


「…………」


「やってみたら意外と楽しいかもしれないぞ?」


なんだこいつ……過干渉してきやがって……。


黒板を見る。

今回の種目はフットサル、テニス、そしてドッジボールの三つ。

俺の名前は、ドッジボールの下に書かれていた。


なぜ高校生にもなってドッジボールなんざやらないといけないんだ。

「人に向かってものを投げてはいけない」という未就学児でも教わる社会規則が何故かあのコート内では無効化されるのだ。

ボールをぶつけあうだけの原始的で野蛮な競技なんて、これからの未来を作る十代がすべきことではない。


教室のどこからか声が聞こえる。


「仮病はエグいてw」

「あいつめっちゃ上手かったらどうする?w」

「それはさすがにおもろいw」


俺をイジるんじゃない……クズどもが……。


球技大会をサボると、体育祭の実行委員をやらされてしまう。

しかし仮に競技に参加したとしても、標的にされ連中にイジられ俺の心身が傷付くことは確定している。


俺が成すべきことは、球技大会に出席しつつ、競技には参加しないこと。


ホームルーム終了と同時に、俺は師走さんにメッセージを送信していた。

「昨日の勧誘の返事をさせてください」

昨日、連絡先を交換しておいたのだ。


そして放課後。

昨日の非常階段に向かうと、覆面を被った師走さんが待っていた。


挨拶を交わしたのち、俺は師走さんに頭を下げる。

  

 「師走さん……いえ、部長。

やっぱり『帰宅 (させる)部』に協力させてください!」


「その言葉を待っていた」


師走さんに肩を叩かれ、俺は頭を上げる。


「これからよろしくお願いします! 絶対に『計画』を成功させましょう!」


「こちらこそよろしく頼むぞ、副部長」


「……副部長? 俺が?」


「ああ。青嵜くんは『帰宅 (させる)部』二人目の部員だ。自動的に副部長ということになる」


部とか言っておいて、二人だけかよ……。

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