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青春を帰宅(させる)部  作者: 腐汁じゅるじゅる
『ソドムとゴモラ計画』

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17/19

17 三脚を立てて撮影した動画をインターネットに公開して、全世界の男を勃てるつもりだろ!

趣味や関心事に没頭する毎日はあっという間に時間が溶けていった。

ふとカレンダーに目をやると、『計画』の当日が訪れていた。

俺は慌てて身支度を進めた。『ソドムとゴモラ計画』は服装が指定されていた。


「私服で来ること。覆面は着用しないこと。持参も不要」


部長からのメッセージに従い、俺は適当なTシャツにチノパンという格好で八得(やどく)神社を訪れた。既に夜祭は開始されており、集う人々の活気に満ちている。

俺は待ち合わせ場所の鳥居の横で部長を待つ。

時刻は17時30分。既に日は傾きつつあるも、真夏の熱気を帯びた空気が肌にまとわりつく。棒立ちしているだけだというのに、汗がどっと噴き出した。

今日は今年の夏休みで初めての外出だった。自室にこもり続けていた俺の判断は正しかったようだ。自然の厳しさを一身に浴び、意識は既に限界寸前である。


更に、俺の気力を削ぐ存在がこの鳥居の周りには溢れていた。


「花子ちゃん……♡ 浴衣姿、とっても似合ってるよ……♡」


「ありがとう、太郎くん……♡」


この鳥居は俺たち以外の人間も待ち合わせに利用していた。

そこの男女は出会いがしらに容姿を褒め合い、「暑いねー」などと口に出しても出さなくても同じような当たり障りのない会話を交わし、性交渉への道のりを舗装している。


もし俺が覆面を被っていれば、間髪入れずに遊撃を開始していただろう。

この二人のみならずこの場の全員を、蜘蛛の子を散らすように逃走させることができたはずだ。

しかし今の俺では、舌打ちや貧乏ゆすりを繰り出して和やかな雰囲気に水を差すことが精一杯だった。

素顔のままで連中に噛みつける勇気はなかった。この心理状況では『ソドムとゴモラ計画』を成功させられるとは思えない。

部長は覆面で顔を隠さずとも、遊撃を実施できるのだろうか?


青嵜(あおさき)くん」


「……ど、どちら様ですか?」


声の方を見ると、浴衣姿の女性が立っていた。

その浴衣は濃紺の生地に、朝顔の文様が咲いている。

顔はお面で隠れていた。あの有名なゲームの代表的なマスコットキャラクターのお面だ。露になっている後頭部は黒髪が結われている。

そして足元は浴衣に合わせた足袋(たび)草履(ぞうり)

右手には風呂敷で包まれたお重を持っていた。


「私だ。師走(しわす)だ」


「え!? 部長!?」


想像もしない格好での登場に驚きを禁じ得ない。

メッセージには『私服で来ること』とあったが、部長は祭りの正装とも言える浴衣姿で登場した。

まさか私服が和服ということはあるまい。俺と同じインドア派だと勝手に思い込んでいたが、意外とお祭り女なのだろうか?


「もしかして私服と言いつつもちゃんとした格好で来ないといけなかった、みたいなやつですか?」


「案ずるな。潜入用の格好だ。

したらば祭に向かうぞ青嵜くん」


「そ、そうですね。師走さん」


カモフラージュとはいえ、部長を苗字で呼ぶと気恥ずかしさを感じる。

そしてそれは部長も同じらしかった。右手と右足を同時に出しながら歩き、あからさまに緊張している様子が窺えた。


鳥居を潜り境内(けいだい)に踏み入ると、そこには色鮮やかな夜祭の喧騒が広がっていた。

連なって吊るされた提灯(ちょうちん)、どこからか響く祭囃子、石畳を沿って開かれた出店の数々。行き交う人々は子どもから老人まで笑顔を浮かべている。


夜祭を訪れたのは小学生ぶりだったが、そこにはあの頃の記憶と少しも変わらない景色があった。


そして、遊撃の対象たる連中も散見された。

例えば往来のど真ん中に三脚を立てる若い女たち。

自身の存在が周囲の人々に害を振り撒いていることに気付いていないのか、気付いた上で敢えて無視しているのか、キレの無い踊りを何度も撮り直している。

例えば酔い潰れて地面に突っ伏す壮年男性。

その年齢になっても自身のアルコール許容量を分かっていない愚か者が、石畳の上で安らかに寝息を立てている。

地域の無礼者が各年代で勢揃いである。この状況、部長の目には食べ放題のバイキングのように映っているはずだ。

しかし部長は、何故か連中には目もくれなかった。


「この八得神社は、名の通り八つの御利益(ごりやく)があると言われている。まず最も有名なものが縁結びだ」


並んで歩きながら、ひたすらこの神社の歴史を俺に語ってくれている。

まさか部長が、この無礼者たちの存在に気が付かないはずがない。

いつもの部長なら「三脚を立てて撮影した動画をインターネットに公開して、全世界の男を勃てるつもりだろ!」とでも言い放ってくれるはずだ。

見て見ぬふりをするなんて、いったい何を企んでいるんだ?


部長は神社の全貌を語り終えると、続けて俺にこう言った。


「青嵜くん。腹が空かないか?」


「結構空いてますね……。一応、夕飯抜いてきたんで。

屋台でなにか買いますか?」


「その提案は承諾できない。

あの種のテキ屋はそのおおよそが反社会的勢力により運営されている。すなわち私たちが利用すればするほど、反社の資金源が充実してしまうというわけだ。

その点を踏まえて考えるならば、テキ屋とソープランドは同一のものと言える」


「いや普通に町内会の人がやってると思いますけど……。

じゃあ何を食べるんですか?」


部長は右手のお重を、俺に見せるように掲げた。


「用意がある。河川敷に向かうぞ」


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