16 食欲や肉欲、多種多様な欲にまみれる夜祭は正にソドムの都市のごとし。
宣言通り、部長は次の日からすかさず遊撃を再開した。
覆面を被った俺たちを見ただけで逃げ出す連中も少なくなかった。『帰宅 (させる)部』の存在は徐々に校内に浸透しつつあるようだ。
部長は一喝の機会の減少にどこか物足りなさそうでもあったが、俺としては学校の治安が改善されたことを喜びたい。
風紀委員たちは、あちこちで暴れる部長の姿を見て苦虫を噛み潰したような顔を浮かべていた。まさか即日で任務を完了させるとは思っていなかったはずだ。
俺たちはあいつらの求める結果を出したのだ。『帰宅 (させる)部』は堂々と活動を続ける権利がある。
しかし、俺は未だに万国ニコの練習に付き合い続けていた。
遊撃を終えると森青運動公園に移動し、日が沈むまで彼女の壁役を務めている。
彼女の気遣いもあり時間は大幅に短縮されたが、インターハイ直前ということもあり練習は熱が籠っていた。
ただ幸いにも、明日からインターハイの会場へ向けて遠征合宿に出発するらしい。これで正真正銘、任務は終了だ。
ちなみに練習には部長も同行していた。しかし決してコートの線を跨ぐことはなかった。ベンチに腰掛け、口を挟むことなく黙々と参考書に向き合っていた。
このように時は進んでいき、夏休み前日。
終業式も終わり、来る長期休暇にクラスの連中は声を弾ませている。海だのプールだの祭りだの。どこに行ってなにをしようが、終着点は性交渉一択であることは明白だ。
俺に声をかけてくる人間はいない。名前も知らない連中と外出などこちらから願い下げである。
俺は盛り上がりを背に、校舎裏の非常階段へ向かった。
待ち合わせの連絡をせずとも部長は其処にいた。
もはやこの場所は『帰宅 (させる)部』の部室と言ってもよかった。
どこから持ってきたのか、部長はパイプ椅子に腰かけて声を弾ませていた。
「しばらく輩と顔を合わせずに済む。心の平穏が訪れるぞ」
性格が歪んでいる俺でも、クリスマスを待つ幼稚園児のように夏休みは心待ちにしていた。
昼夜逆転しようが、吐くまでゲームを遊ぼうが、これらの行為を咎める者はいない。
そして毎日の勉学から、何よりも部長の言うように、連中の顔を拝まずに済む。溢れんばかりに心の充電ができるというわけだ。
ただ、『顔を合わせない』。これは部長にも当てはまる。
今や俺と部長は気の置けない仲だったが、部活動以外で会うことはなかった。恐らくこの夏休み中、一度も顔を合わせることはないだろう。
俺は休日には一歩も外に出たくない人間だ。しかし一か月強もの長い期間、部長に会えないことを考えると少しの寂しさがあった。
「さて、夏季休暇中の活動日について説明する」
「え……? 夏休み中の活動? 学校には誰もいないですよ?」
「『帰宅 (させる)部』初となる校外活動だ。
今週土曜日の七月二十六日に催される、八得神社の夜祭りにて遊撃を実施する!」
部長は勢いよく椅子から立ち上がると、右の拳を天に掲げた。
そんな部長とは正反対に、俺はいまいち乗り気になれない。
「学校の外での行いを注意するのは、さすがに俺たちの役割ではないような気が……」
「長期休暇に突入し、我々の目から離れた輩共が増長することは火を見るより明らか。
今回の『ソドムとゴモラ計画』を通じて、『我々は常に貴様らを監視している』ことを輩の心身に叩き込む」
「……誰ですか? ソドムとゴモラって」
「都市名だ。
食欲や肉欲、多種多様な欲にまみれる夜祭は正にソドムの都市のごとし。我々の怒りの業火で愚民を粛清するぞ」
八得神社の夜祭はそんなスラム街の路地裏のような雰囲気ではない。
地域の方々に愛されている、由緒正しい伝統的なお祭りだ。
蛙高校の生徒だけでなく、他の高校の生徒を含めた地域の老若男女が集うのだ。
そんな場所で遊撃を行ったら、むしろ俺たちが補導されそうだが……。




