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青春を帰宅(させる)部  作者: 腐汁じゅるじゅる
『ダビデのスリングショット計画』

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13/19

13 横の部長は「右も左も膣圧を高めよるわ」といつもの調子で頷いている

現在時刻は17時20分。

(かえる)高校の完全下校時刻である19時まで、猶予は二時間弱しか残されていない。

部長は本日中に『万国(ばんこく)ニコの帰宅』という厄介な任務を畳むつもりで意気込んでいる。

しかし、この短い時間で対策を講じることができるのだろうか?


風紀委員の二人が去った教室で部長は宣言した。


「題は『ダビデのスリングショット計画』とする。6キュビト半のゴリアテを思わせる巨躯の万国ニコ。その眉間を言葉の弾丸で撃ち抜くのだ」


「……具体的には何をするんですか?」


「副部長は静観していてほしい」


「え? 見てるだけでいいんですか?」


「今回は私個人の雪辱戦(せつじょくせん)も兼ねているのだ」


「雪辱戦……。つまり、リベンジマッチってことですか?」


「うむ。私は万国ニコ含む女子バスケットボール部に敗北を期してしまった過去がある。五月下旬のことだった」


「負けたって、いったい何があったんですか……?」


「…………」


五月下旬といえば、部長がサッカー部に泣かされた時期もその頃だった。どうやら俺の知らないところで、サッカー部の他の部活動にも突撃していたらしい。

部長が校内きっての有名人である万国ニコの所属する女バス部へ遊撃を実施することは解釈通りとも言える行動だ。

しかし敗北、すなわち万国ニコを帰宅させられなかったという結果は意外に思えた。

どうせああいった人種は幼少期から褒めそやされ持て囃され、俺たちのようなジャンルとは一切関わることの無い光の道を歩み続けたはずだ。

部長が通常通りの遊撃を仕掛ければ、心を折ることなど容易であるように思えるが……。


決戦までは、まだしばらく時間がある。

部長は133件の苦情など忘却の彼方、肩慣らしと称し遊撃を再開した。

校内に残る連中に雷を落とすだけに留まらず、逃げ帰る背を追い掛けてまで追撃を加えた。

その様子はウォーミングアップとは真逆、普段の遊撃以上に激しい獅子奮迅の働きであった。


部長がこれほどまでの警戒心を抱く万国ニコとは、いったいどのような人間なのだろうか……。


部活動の生徒を除いた全ての生徒を帰宅させた頃には、時計の針は19時を回ろうとしていた。


肩慣らしを終えた部長は、全身から鬼気迫るオーラを発していた。隣に立つ俺はその貫禄に息を呑む。易々と声をかけることすら躊躇(ためら)われる雰囲気だった。


沈黙の中、二人で校舎から第一体育館へ移動する。

そして玄関ホールからアリーナを覗くと、そこには活気溢れる光景が広がっていた。


「集中!」


「ディフェンス!」


女子バスケ部がコートの全面を利用した試合形式の練習を行っていた。バスケットシューズの擦れる音とボールの弾む音が体育館中に響いている。

本来であれば、体育館は曜日ごとに使用できる部活動が定められている。しかしインターハイ出場を決定した女子バスケ部は、特例措置により毎日コート全面を使用することが認められていた。

また、最終下校時刻の三十分の延長も許されているという。

これらは風紀委員の会長から説明を受けた話だ。


練習用のバスケットウェアに身を包んだ十人がコート中を走り回る。

高身長の女子連中が揃うなか、頭一つ抜けて大きいプレイヤーが自然と目に止まる。その身長は175cmの俺とさほど変わらなかった。


あいつが万国ニコだ。

ダークブラウンの瞳とソフトブラックのポニーテールは、一見するとクォーターのようには見えない。しかしはっきりとした目鼻立ちからは異国の血が感じられた。


部長曰く、金髪や碧眼は潜性遺伝なのだという。両親の双方がその因子を持っていなければ、子に発現することは極めてまれらしい。


「そもそもベルギー人の髪質は黒髪または茶髪が大多数を占めている」


万国ニコはチームで一番の高身長に加えて、高い機動力までも兼ね備えていた。

ドリブルしたまま器用にディフェンスを一枚、二枚と抜き去りあっという間にゴール下。勢いそのまま左手一本でシュートを決める。

バスケどころかこの世の全てのスポーツが消失しても昨日と変わりない日常を送ることができる俺でさえ、そのテクニックには目を奪われてしまった。

横の部長は「右も左も膣圧を高めよるわ」といつもの調子で頷いている。


今回のターゲットはあくまでも万国ニコ一人だ。他の部員たちが自然に帰宅するまで、俺たちは陰から部活動の観察を続けた。無駄に体力を消費して互換性のない技術を身に付けるとは愚かな奴らだ。


そして最終下校時刻の五分前。顧問の男性が現れ本日の活動終了を告げる。

各々(おのおの)が帰宅の準備を進めるなか、コートに立ち続ける人物がいた。

万国ニコだ。ボールカゴを自身の隣に備え、独りシュート練習を始めた。

彼女に注意する部員はいなかった。みな別れの挨拶をして、体育館を後にする。

顧問でさえ「職員室にいるから。終わったら声をかけてくれよ」と声をかけて出ていってしまった。どうやら彼女の行為は黙認されているようだった。


時刻は19時41分。

万国ニコが完全下校時刻を越えても校内に居残っていることは肉眼で確認できた。


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