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余生、もう一度  作者: 金雀枝
第2章:芽吹きの輪郭、記録という名の種
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閑話:見えざる波紋

「この記録――『S』の署名でまとめられているものについて、改めて確認しておく。流通経路はクライネル侯爵家から。だが製作者については不明のままだな?」


神殿記録局の一室。棚に積まれた配合書と処方記録を前に、初老の神官が声を低くした。


「はい。提出元はすべて“屋敷関係者”とのことで、筆記者本人とは直接面識がありません。ただ、形式も語彙も統一されており、単一の人物による記録とみて間違いないかと」


「ふむ……“誰にでも理解できる配合”でありながら、“読み手を信用していない慎重さ”がある」


「この組み合わせは、あまり見ないな」


一方、王家の記録顧問室にも、似たような報告が届いていた。

こちらは文官の若者たちが記録を読み解きながら、ある共通点に気づき始めていた。


「このSの記録って、最初は保湿剤から始まってるんだけど――後続の軟膏、冷却剤、湿布系の調整法にも“同じ手癖”があるんだよな」


「設計思想に無駄がないというか、“生産・流通・使用者すべての手間を減らすように調整されてる”感じ」


「……つまり、“現場の人間が書いたんじゃないか”ってことか?」


「でも書式は高度だし、成分の相性も専門家レベル。“現場出身の学者”って感じかな」


「何者だよ、いったい」


“誰が作ったか”は、まだ分からない。

だが、“無視できない記録”であることだけは、関係者すべてが同意していた。

神殿では「有用者記録」の仮登録として保管され、

王家の知識部では「要観察技術提供者」として、暗黙のリストに追加された。

そして、その報告がごく少数の上位者のもとに届いたとき、

一人の男が記録を閉じ、静かに呟いた。


「まだ……動かすには早すぎる。本人の意思を見定めるまでは」


その言葉が誰に向けられたものかは、記録には残されていない。

けれど確かに、“誰か”は見ていた。

まだ名も知らぬ灯のひとつが、やがて大きな光となる可能性を。

──これは、そんな波紋が生まれた一日の、誰にも知られぬ断章である。

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