第91話 第三回目の炊き出しは大賑わい
第三回目の炊き出しの開催日がやってきた。
日本と同様、異世界の方の気温も一段と低くなってきているらしいから、うんと温かい格好をしていかないとね。
サリアさんとフィーナさんの服はまた新たに頼んだ。獣耳幼女たちも、俺の準備したセットをご機嫌で着てくれた。出かける前にお揃いのマフラーを巻けば、みんなニッコリご機嫌だ。防寒対策もバッチリ。
「きょうね、ラビットサンドたべたらなわとびみせるの! たくさんとぶよ!」
「サクタローもみて! リリね、あやとびする!」
「んっ。キラキラシールもっとほしい!」
特にエマとリリは、タリクくんや元の孤児院のお友達と遊べるのが嬉しいらしく、尻尾をぶんぶん振って大興奮。ずっと縄跳びをすると張り切っていたので、他の子にも貸し出しができるよう予備を買っておいた。
ルルは……すっかりシールに夢中で、我が家のあちこちにペタペタと張りまくっている。中でもキラキラタイプが大のお気に入り。帰ったら一緒にネットで選ぼうね。
嬉しいことに、最近は三人とも本当に元気いっぱい。暇があれば居間や和室を駆け回ったり、トランポリンクッションで延々と飛び跳ねている。近くの公園で遊びたいとおねだりされたので、今度連れていく約束もした。
他にもシールをはじめ、お絵かき、塗り絵、すみっこ生活のアニメなどを揃って楽しんでいる。不動の一番は、やはりフェアリープリンセスだけど。
相変わらず食欲も旺盛だし、小さな体ながらパワーが有り余っている様子。これも獣人の特性の一つなのだとか。
「私が幼い頃は、山を駆け回るか大人を叩きのめして暇を潰していたな」
と、サリアさんは酒のツマミに思い出を語ってくれた。熊みたいな肉食動物を素手で狩っていたらしい……流石は無双の餓狼だ。規格外にも程がある。
獣耳幼女たちについて言えば、炊き出し中に体を動かすとぐっすりお昼寝してくれるので、山を駆け回るほどパワフルではない。
正直なところ、お昼寝の間は休憩できて助かる。アラサーだからね、俺も。もはや体力が追いつかないことも珍しくなく……子育て中の世のご家庭を尊敬してやみません。
もっとも、サリアさんとフィーナさんがフォローしてくれるのでだいぶマシだ。
というわけで、準備も整ったし異世界へ向かうとしますか。
「お待ちしていました、フィーナ様、サクタロー殿。サリア様にエマ様方もご一緒のようで」
手分けして荷物を持ち、地下通路の神の抜け道(虹色ゲート)をくぐって廃聖堂へ移動する。そしてフロアに足を踏み入れると、カーティスさんを始めとする護衛の面々がお出迎えしてくれた。
本日は銀ピカの鎧ではなく、厚手の布の衣類に身を包んでいる。近隣住民を威圧しないように配慮してくれたらしい。
それはさておき、いつもなら出入り口付近で待機しているのに……となれば、何か異変があったと考えるのが自然だ。
「こんにちは、カーティスさん。もしや問題でも起きました?」
「ええ、お察しの通り。前回顔を合わせた獣人の夫婦らを覚えておられますか? 彼らが広めたラビットサンドの評判に釣られ、多くの近隣住民が集まっています。ご希望でしたら、すぐに追い払うことも可能ですが」
カーティスさんが言うには、ちょっとした祭りに比類する混雑ぶりらしい。
とにかくこの目で状況を確かめてみよう、とみんなを連れて広場へ向かう。すると報告通り、かなり多くの人が集まっていた。生憎の曇り空を吹き飛ばしそうな賑わいだ。
孤児たちは前回の倍ほどいる。何より大人の姿が目立つ。前回ラビットサンドに大興奮していた獣人ご夫婦たちの姿を見つけ、つい頬が緩む。早くもリピーターの登場だ。
他にも、こちらでいう『普通の人間』の大人をちらほら確認できる。
人種関係なく連れ立っているあたり、庶民レベルではそこまで確執はないのだろう。いつの世も、線を引きたがるのはお偉方なのかもね。
孤児たちもこちらに気づき、わっと集まってくる……けれど、タリクくんやお手伝いの女神教の面々が穏便に押し留めてくれた。
「サクタロー殿、本日もお元気のようで何より。早速で申し訳ないが、食材の追加を手配すべきと具申いたす。許可をいただければ、すぐにでも遣いを出そう」
ゴルドさんとケネトさんがやってきて、挨拶も早々に相談が始まる。
食材が足りなくなる恐れあり、とのこと。もちろんすぐに発注した。
「フィーナ様、サクタロー様。皆さまもご機嫌よう。集まった大人たちに、先ほど『ラビットサンドは銅貨六枚』と伝えてまいりました。私共も、すぐ調理に取りかかれます。何なりとお申し付けくださいませ」
次にやってきたのは、フィーナさん付きの侍女さんたち。姿勢正しくご挨拶から、中心に立つ侍女頭さんが簡潔に報告してくれた。
本当に助かります。おかげで、説明する手間が省けた。
とはいえ、このままだと子どもたちに行き渡るまで時間がかかりそうだ……そこで俺は、ホットプレートを分けることにした。無料の子ども用、有料の大人用。
調理も、侍女さんや女神教の方々に交代で担当してもらおう。手が空いている人は、これ以上混乱しないよう列の整理などをお任せする。文句を言う人がいれば、悪いがご退場いただく。
すでに、設置された椅子やテーブルの半分以上が埋まっているのも気になる……そうだ。我が家からブルーシートを持ってきて広げよう。
少しでも人手が欲しいので、地べたに座って下品な笑い声を上げている小悪党スクワッドにも助力を依頼(強制)するか。
「サクタロー殿、どうぞ指示をお出しください。集まった孤児らもラビットサンドを待ちわびております」
カーティスさんの求めに応じ、俺は手早く協力者の皆さんに指示を出していく。それが済み次第、小走りで我が家から持ってきたブルーシートを敷く。
続いて、うちの獣耳幼女たちの頭を念入りに撫で回してからサリアさんとフィーナさんに託し、調理開始。
まずは侍女さんたちと手分けして肉を焼いていく。熱が通りジュウジュウと音を立て始めたら、さっと焼き肉のタレで味付けする。たちまち香ばしい匂いが広場を満たし、期待や驚嘆の声があちこちから上がった。
「はい、次の子どうぞ。熱いから、ゆっくり噛んで食べてね」
「大人の方は、銅貨6枚を準備してお待ち下さいませ。釣り銭の用意がございませんので、大銅貨の使用はお控えください」
俺と侍女さんたちは、次々と待機の列を消化していく。
驚くほど賑やかだ……まさか三回目にして、ここまで盛況となるなんて予想もしなかった。
記憶にある大学時代の模擬店と光景が重なり、俺は小さく笑みを浮かべる。けれど、愉快な気持ちでいられたのもそう長くない。
「サクタローの兄ちゃん、ちょっと来てくれ!」
ちょうど調理番を交代するタイミングで、タリクくんが慌てた様子で駆け寄ってくる。
服を引っ張られながら移動しつつ何事か尋ねるも、「早く早く!」と要領を得ない。しかし広場の出入り口が近づいたところで、俺は用件を察した。
人間の子どもが二人、ぽつんと立っていた――少女と小さな男児。
やや年の離れた姉弟だろう。揃って、辛うじて形を保っているだけのボロ布の衣服を纏っている。
何より、他の孤児たちと比較しても酷く痩せ細っている体躯が気になった。今にも倒れてしまいそうだ。
ついとほっそりした顔が持ち上がる。目が合う。姉らしき少女は小さく息をのみ、足にすがりつく男児の手を握りしめながら懇願してくる。
「私たちは獣人ではありません。けど、どうか食事を恵んでください……」
「もちろん! 食べ終わったら、味の感想をきかせてくれるかな?」
俺は迷わず笑みを浮かべ、応じながら手招きした。
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