第79話 初めてのドーナツショップ②
ドーナツは各自三つまで。獣耳幼女たちにはちょっと多いかもだけど、余ったらサリアさんが食べてくれる。安心して好きなものを選んでほしい。
「わあ……サクタローさん、どれでもいいの?」
「そうだよ。エマは、どれが食べたい?」
「う~ん……あ、あのかわいいのがいい!」
エマがショーケースに目を奪われながらも、ふらふら俺の足元へやってきてズボンを掴む。続けてその小さな指先が、ある商品へ向けられた。
背中をそっと押して一緒に確認してみれば、どうやらピンクにコーティングされたポンポンリングが気になるらしい。
玉状の生地が連なったタイプで、もちもち食感が大人気。
エマが選んだのは、そのストロベリー味。
この子は可愛いものが大好きだから、色合いに心を引かれたのだろう。他にも、ストロベリー味のフレンチクルーラーなどが気になるみたい。
「本当だ。美味しそうだし、可愛くてエマにピッタリだね。でも、三つとも似た味だともったいなくない?」
「そうかなぁ……そうかも! もったいないかも!」
「そうでしょ。だから、これなんてどう? ほら、こっちも可愛いよ」
バリエーションが豊富になるようチョイスをそれとなく誘導する。せっかくだからストロベリー以外の味も楽しんで、ぜひお気に入りを見つけてもらいたい。
種類の違うドーナツを三つトレイに乗せたら、次は俺の足にひっつくルルの番。
サリアさんたちにも「軽く選んでおいて」と声をかけてから、ショーケースを一緒に眺めていく。
「ルルは、どれが美味しそうだと思う?」
「んぅ~……エマといっしょ!」
「あれ、三つとも同じでいいの?」
こくりと頷くルル。
どうやら、大好きなお姉ちゃんと一緒がいいらしい。
もっと時間がかかると思ったけど、案外あっさり決まった。スタッフさんと対面もしてないから、ハンバーガーショップのときみたいに人見知りを発症していないようだ。
サリアさんにいったんルルを任せ、続いてはリリと一緒にドーナツを選ぶ。
だが、あまりに突拍子もない選択をするものだから、俺はつい苦笑いを浮かべてしまう。
「サクタロー! リリはね、もうきまったよ! ぜんぶこれがいい!」
「え、これは……確かに好きなのって言ったけど、流石に量が多くない?」
リリが迷いなく指さしたのは、バラエティポップのビッグサイズ。
カラフルな球形の一口ドーナツの詰め合わせで、なんと二十四個も入っている。どう考えてもパーティー用だ。
しかもリリは、それを三つご所望である。
合計、七十二個……天才かな?
思わず感心してしまった。だけど、これはちょっと反則だね。
対象は普通のドーナツに絞ると伝え、一緒に選び直す。突然のルール変更のお詫びに、『バラエティポップはお土産として持ち帰る』と言ったらすぐに納得してくれた。
トレイをもう一つ用意したら、お待ちかねのサリアさんとフィーナさんの番。
二人は俺の意見を聞きながら、チョコ系を中心にバランスよく選んでいた。穏やかながらもワクワクと楽しそう。もちろんポンポンリングもオススメしておいた。
最後に俺の好きなオールドファッションを一つ追加し、お隣のカウンターへ。
ここでドリンクを注文する。獣耳幼女たちは、大好物のりんごジュースを選ぶ。サリアさんとフィーナさんは……おや、タピオカミルクティーがあるな。
「お二人とも、これなんてどう? 食感が面白いですよ」
「ほう。私はサクタロー殿のオススメに従おう。フィーナもそれでいいか?」
「ええ、構いません。どのような味か、とっても楽しみですね」
フィーナさんの同意も取れたので、俺のホットコーヒーを追加して注文確定。二人がタピオカにどんな反応をするか楽しみだ。
お支払いはクレジットカードのタッチ決済。その間に、女性スタッフさんが山盛りのドーナツをお皿に移してくれていた。
サリアさんと協力してトレイを持ち、隅のソファ席へ向かう。
少し騒がしくなりそうだから、できるだけ迷惑のかからない位置を選んだ。店内はガラガラとはいえ念の為だ。
ルルが離れたがらなかったので、膝の上に乗せて一緒に座る。その左右には、エマとリリが陣取った。これで食べさせてあげられるね。
対面のソファには、サリアさんとフィーナさん。
全員が席についたら、それぞれの選んだドーナツが乗ったお皿を配膳する。次いで食べ方の説明やタピオカで喉を詰まらせないよう注意し、いつも通り『いただきます』と声を合わせた。
「さて、三人はどれから食べてみたい?」
「わたしはこれっ、このかわいいの!」
どれが食べたいか尋ねると、真っ先にエマがピンクのポンポンリングへ手を伸ばす。さらに俺の合図を待ってから、パクリ。
リリとルルも、同じドーナツを手にとって小さく齧る。
すると、その直後。
『ほわあぁぁあああ~!?』
三人は揃って、斜め上に顔を向けつつユーモラスな奇声を響かせる。
かなり美味しかったらしく、すぐに夢中になって頬張り始めた。
誰も取ったりしないから、ゆっくり噛んで食べましょうね。ほら、喉に詰まらせないようジュースも飲んで。
獣耳幼女たちのお世話をしながら対面に目を向ければ、サリアさんとフィーナさんからも絶賛の声が溢れてくる。
「ドーナツの味わいは素晴らしい! だが、タピオカとやらは妙な噛み心地だな」
「ええ、私も初めて口にしました。お茶の味わいは素晴らしいのですが、この粒は少し調和していないような……ドーナツに関しては期待以上ですね。ああ、なんて幸せな時間なのでしょう」
二人にはストローの使い方を軽くレクチャーしたのだが、すぐに慣れて器用にタピオカミルクティーを味わっている。しかしもちもち食感の衝撃が強すぎて、あまりピンときてない感じだ。
ドーナツの方は大好評。サリアさんなど、瞬く間に平らげてしまった。
もちろん獣耳幼女たちも気に入ったみたいで、俺のマネをして『もちもち!』と繰り返しながら食べ進めている。
「よかったね、もちもちだね。どうかな、三人とも。ポンポンリング美味しい?」
「んっ! ぽんぽんすき!」
「リリもこれすき! ねぇ、たくさんもってかえろ!」
「わたしも、おうちでたべたい! よるごはんドーナツがいい!」
お膝の上のルル、左右のエマとリリ。三人揃って大満足のご様子。
でも、夜ごはんにドーナツはちょっとね……デザートにしても重いから、お土産はまた明日のおやつに取っておこう。
テーブルの上からドーナツが消えるまでは、さほど時間もかからない。獣耳幼女たちもペロリと平らげてしまった。いつにもまして食欲旺盛である。
「サクタロー、これなぁに?」
「ん? ああ、これはシールだね。お店のサービスかな」
名残惜しげに指をぺろぺろ舐めていたリリが、トレイを覗き込みながら尋ねてくる。見れば、ドーナツをデフォルメしたシールが置かれていた。皿の影に隠れて気づかなかった。
前に買ったフェアリープリンセスのウエハースにもシール付きだったけど、あれは宝物として大事にしまってある。だから、三人とも初見に等しい。
それだったら、と俺は実演してみせることにした。口で説明するよりも何倍も早い。
ポンポンリングのシールを台紙から剥がし、ルルのおでこにペタリ。すると間髪入れず、『きゃあっ!』と無邪気なはしゃぎ声が響く。
「エマとリリのおでこにも貼れば……ほら、三人ともおそろいだよ」
顔を向け合って、きゃっきゃと喜ぶ獣耳幼女たち。
楽しそうで何より。そうだ、大好きなフェアリープリンセスのシールでも注文しようかな。飛び跳ねて大騒ぎする姿が目に浮かぶ。
それから、自分もとおねだりしてきたサリアさんのおでこにもシールを貼り、大満足のうちにお店を後にする。もちろんお土産のバラエティポップ(二十四個セット)を買うのを忘れない。
会計する間、フィーナさんが残りのシールをみんなに貼られていた。対応してくれた女性スタッフさんもニッコリである。
のんびり運転しながら、冬晴の帰路をたどる。
車内は暖房でぽかぽかだ。お腹いっぱいになった獣耳幼女たちは、すぐに寝息をたて始めた……いや、サリアさんもだね。バックミラーで確認してみたらスヤスヤだった。
唯一起きてくれている助手席のフィーナさんは、お土産のドーナツの箱を手に謎の呟きをこぼしていた。
「巫女たる私とドーナツを引き合わせ、我が国やラクスジットにこの美味なる菓子を広める……それこそが、女神ミレイシュの思し召しかもしれません」
うーん……たぶん違うかなあ。
でも、もし真剣に広めたくなったらお手伝いするので言ってくださいね。
赤信号が、ぱっと青に変わる。
そうだ、今度はアイスでも食べに行こうか――そんなことを考えながら、俺はゆっくりアクセルを踏み込むのだった。
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