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我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件 【書籍化決定!】  作者: 木ノ花 
第二章

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第66話 初めてのハンバーガーショップ

 車内に飛び交う明るい声を聞きながら街道を進むこと、およそ十分。ロゴの『M』が印象的なポール看板が間近に見えてきた。

 ハンドルを切り、その脇から駐車場へ入って車を止める。


「よし、到着。じゃあみんな、いい子にするって約束は覚えてるかな? お店で走り回ったりするのもダメだよ」


 俺は振り返り、改めて注意を促す。

 今回は食事するだけの予定なので、迷子防止ハーネスを持参していない。しっかり手を握って対処するつもりだ。


 幸い、あまり混雑もしていなさそう。駐車場には空きが多く、ガラス越しに見える店内も人の気配はまばら。昼時ではあるが、平日という影響もあるだろう。


 獣耳幼女たちとサリアさんは、元気いっぱいに『はーい!』とお返事してくれた

 本当にわかっているのかな……と首を傾げそうになったが、先日のスーパーでのお利口さんぶりを思い出す。


 賑やかではあったが、ちゃんと言いつけを守ってくれていた。

 ならば、今回もきっと大丈夫。美味しいハンバーガーをお腹いっぱい食べて、楽しい思い出を作ろうね。スマホで写真もいっぱい取っちゃうぞ。


「さあ、いこうか」


「サクタロー! リリね、ばーってうごくやつやりたい!」


 獣耳幼女たちをシートから下ろして車外へ出ると、リリが服を引っ張りながらおねだりしてくる。どうやら、自動ドアを開けたいらしい。

 

 この子は、スーパーでも興味をもっていたもんな。それと、日本のお店のドアはあれがデフォルトだと思っているようだ。確かに、このマルクナルドもそうだったな……他のお客さんに迷惑が掛からないようならいいか、と俺は笑顔で頷く。


 そのままリリの小さな手を握り、反対の手をルルと繋ぐ。エマはサリアさんとペアを組んでもらった。


 それでは、店内へ移動しよう。

 周囲に気をつけて駐車場を横断し、正面入口へ。他のお客さんがいないのを確認し、いったん立ち止まる。


 建物はさほど大きくはなかったので、みんなあまり驚いていなかった。前回のお出かけでちょっと慣れたのかも。


 続いて、ぴょんっと。

 俺が「扉にぶつからないようにね」と合図すれば、わくわく顔のリリが小さく飛び跳ねて自動ドアの前に進み出た。


 ところが、次の瞬間。

 揃って『ひゃあっ!?』と悲鳴を上げ、足にへばりついてくる獣耳幼女たち。


 対面型のカウンターには女性スタッフさんが数人立っており、一斉に『いらっしゃいませ』と歓迎してくれたのだが、その声にびっくりしたみたい。サリアさんは、なぜか「出迎えご苦労」と満足げだ。


 とりあえず三人の頭を撫でて落ち着かせ、今度こそ店内へ足を踏み入れる。

 たちまち漂ってくるホクホクと香ばしい匂い。カウンターの奥から聞こえてくるジューシーなパティを焼く音。


 上部モニターでは、期間限定メニューの宣伝が繰り返し流れている。具材が降り積もり、ボリューミーなハンバーガーを完成させていた。


『ふわぁぁあああああああ~!?』


 エマたちとサリアさんは思わずといった様子で立ち止まり、瞳を輝かせて店内を見回していた。忙しなく動く獣耳と尻尾の幻影がうっすら見える。


 さらに、微笑ましそうにこちらを見ていたスタッフさんたちが声を揃え、再び『いらっしゃいませ』と歓迎してくれた。海外からの旅行者とでも思っているに違いない。


 ちょうど他のお客さんがはけたところだったので、カウンター前まで足を進める。

 モバイルオーダーの方が楽だけど、みんなにとっては初めてのハンバーガーショップだ。せっかくなので一通り体験させてあげたい。


 というか、獣耳幼女たちがぱたぱた足踏みしながら『みせてみせて!』と騒ぎだしちゃったからね。俺がカウンターの上を覗き込んだのが気になったみたい。

 

 ちょうど他にお客さんもいないし、少しだけ自由にさせていただこう。

 店員さんに断りを入れてから、まずエマを抱き上げる。


「わあっ、すごい! あ……あの、わたしはエマです! 六さいです!」


「あら~、いらっしゃいませ。とっても可愛らしくて、おばちゃんびっくりだわ。日本語もお上手ね」


 エマはいったんメニュー表に興味を示すも、すぐに対応してくれた経験豊富そうな女性スタッフさんにご挨拶する。さすが我が家きってのお利口さん。

 さて、どれが食べたいかな?


「う~ん……ぜんぶおいしそう!」


「全部かあ。それはちょっと多いから、これなんてどう? おもちゃがついてくるよ」


 目移りして選べなさそうだったので、俺はミラクルセットを勧める。期間限定のおまけが付いてくる子どもに大人気のメニューだ。


 今は『すみっこ生活』というシリーズのキャラクターケースが対象みたい。いくつかの種類から選べて、本体の中に数枚のシールが入っている。


「エマ、見てごらん。ここに犬さんのキャラがいるよ?」


「あっ、これかわいい!」


 おもちゃの一覧を見れば、少し耳の垂れた可愛らしい犬のキャラクターが目に付く。

 この子にぴったりだ。本人も気に入ったようだし、これに決まりだね。セットはポテトとドリンク付きで、りんごジュースを頼む。


 エマを下ろしたら、次はリリの番。

 抱っこして、一緒にカウンターのメニューを眺める。


「リリはどれが食べたい?」


「ぜんぶがいい! ここからここまでぜんぶ! サクタロー、だめ?」


 リリはメニュー表の左から右まで小さな指を動かし、可愛らしく全部とおねだりしてくる。これにはスタッフさんもニッコニコだ。

 

 けれど、流石にね……物足りなかったら追加で注文すると約束して、ここはミラクルセットで納得してもらう。おもちゃは、狐のキャラを選んだ。飲み物も、エマと一緒でりんごジュースをチョイス。


 最後は、ルルだ。

 メニューが見えるよう抱っこすると……なぜか俺の胸元に顔をうずめてグリグリしてくる。知らないスタッフさんたちに注目され、急に恥ずかしくなっちゃったのかな。


 みんなと一緒でいいか尋ねると、ルルはコクリと頷く。おまけは、黒ネコをモチーフにしたキャラにする。これもぴったりだね。


 サリアさんも、同じくミラクルセット。おもちゃは狼のキャラを選ぶ。それに加え、ビッグマルクセットを追加でもう一つ。

 彼女の場合は本気で全部食べかねないから、ひとまずはこれで手を打ってもらう。


 俺は、何にしようか……少し迷って、テリヤキバーガーのセットにした。

 きっと獣耳幼女たちが『ひと口ちょうだい』してくるから、好きそうな味を選んだ。ナゲットも忘れずに。ソースは追加料金を払って、マスタードとバーベキューの両方をいただく。


 注文はこれでいったん終了。追加分はモバイルオーダーで頼むとする。

 カウンターの横にズレて、商品が出てくるのを待つ。スタッフさんが『席までお運びします』と声をかけてくれたが、丁重にお断りした。あまりご迷惑をおかけするのも悪いからね。


 ハンバーガーを乗せたトレイが出揃ったら、手分けして客席の多い二階へ運ぶ。サリアさんが驚くべきパワーと体幹を発揮し、往復なしで運べた。


 陣取ったのは、窓際のソファ席。

 それぞれ腰を落ち着け、『いただきます』をしてランチタイムのスタート。


 みんなはまず、付属のおもちゃが入った小箱へ手を伸ばす……が、それは後回しにするよう説得する。冷めたポテトなんて俺は許せない。


 ハンバーガーの包みの外し方なども教え、さっそく食べ始める。

 サリアさん、エマ、リリ。三人は口もとを汚しながら『美味しい!』と大絶賛。たちまち夢中になって頬張っていた。


 ルルも頬を膨らませていたが、こちらはただの不満顔。包みを上手く剥がせないらしい。

 可哀想なので、俺の膝にのせて食べさせてあげる。ハンバーガーをひと口かじると、足をバタつかせながら輝くような笑顔を見せてくれた。こっちまで嬉しくなる。


 もちろん、羨ましがるエマとリリにも順番で食べさせてあげる。テリヤキバーガーも大好評だ。さらにポテトを勧めたりしながら、楽しく食事を続けた。


 と、そこで。

 ポケットの中のスマホが震え、メッセージの受信を告げる。


 取り出して確認すれば、ここで落ち合う予定の相手からだった――実は昨日、ある人物と待ち合わせの約束を交わしていた。マルクナルドへ行くと決めた時点で、こちらからメッセージを送ったのだ。


 そうしたら、快く承諾していただけた。

 少し遅れるかもしれないから先に食べていてください、という言葉を添えて。


「あ、いた! エマちゃん!」


「うん……? わあ、サナちゃん!」


「リリちゃん、ルルちゃん! サリアちゃんもいる!」


 ややあって、黒髪にパッチリした瞳が印象的な幼女が小走りでやってくる。

 その途端、エマたちは食事の手を止めて弾かれるように立ち上がった。まさか会えると思っていなかったようで、かなり驚いている。サプライズ大成功。


 満面の笑みを携えてやってきたこの子の名は、サナちゃん。この前、スーパーで出会った日本人の幼女だ。あのとき連絡先を交換したお母さんもトレイを手に、少し遅れて階段から姿を現した。


「こんにちは。お待ちしていました。今日はわざわざすみません」


「いえいえ、誘ってくださってありがとうございます。サナもすごく楽しみにしていたんですよ。最近は家にこもりがちでしたから、本当に助かりました」


 メッセージをやり取りする中で、サナちゃんは小学一年生だと伺った。それゆえ、平日にお昼をご一緒するのは難しいと思っていた。

 

 しかし、近頃は学校へ行ってない……いわゆる『不登校』である。

 元々サナちゃんは喘息持ちらしく、それが原因でクラスに馴染めなかったそうだ。以降、自宅学習が続いているという。


「スーパーでお会いしてからは、『エマちゃんたちと遊びたい』とずっと言っていたんです。元気が出てきたみたいで、私も嬉しくて……」


「そうですか。ご迷惑じゃなければ、こちらも嬉しいです。さあ、どうぞお座りください」


 俺は隣のテーブルを寄せて席を作り、座るよう促す。

 微笑みながら腰掛けるサナちゃんママの瞳は、うっすら潤んでいるように見えた。お世辞ではなく、本当に嬉しそうでホッとした。


 でも、喘息か……異世界の魔法の薬を使えば、間違いなく一発で治る。

 エマたちと同じ年頃の子が苦しんでいるのを見ると、どうにかしてあげたいと強く思ってしまう。実際に手段があるぶん、葛藤も大きい。


 そういえば、異世界の孤児たちの現状を嘆いたばかりだっけ……世界は関係ない。どんな子どもでも、心身ともに健やかであってほしい。


 獣耳幼女たち、サリアさん、サナちゃん。みんなはハンバーガーを手に、フェアリープリンセスの話題で大盛りあがりしている。


 その微笑ましい光景を眺めながら、俺はつい考え込んでしまう。

 こんな自分にも、きっと何かできることがあるはず――せめて身近にいる人たちくらいは、と心に留め置くのだった。

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― 新着の感想 ―
オイラも5年振りくらい?でMの店に行って驚いた。頭上のメニューが全部ディスプレイなのな、前はスタッフが手動でガチャガチャ切り替えてたのにな~
みんな、ニッコニッコでええの〜 サナちゃんも元気になりますように
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