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第58話 特使団の来訪理由

本作の書籍化が決定しました。読者の皆さまが応援してくださったおかげです。本当にありがとうございます。

「おお、やっときおった。姫さんがなかなか戻らんから、何かあったのかと気を揉んだわい」


 俺たちが廃聖堂のフロアへ到着すると、三人の男性が出迎えてくれた。


 笹の葉のような細長い耳と結った金の髪を持つ、美しい顔立ちの男性がまず一人。スラリとした体格に……すごい、銀ピカの軽装の鎧を着用している。剣こそ佩いてないが、もしやエルフの騎士なのでは?


 あとの二人は、やや小柄なもののゴリゴリマッチョな男性おっさん

 揃って髪と同色の焦げ茶色の豊かな髭を蓄えている。このうちの片方が最初に声をかけてきた。

 服装はこの街で見る一般的な組み合わせだが、かなり質が良く見える。


「もじゃもじゃー!」


「こら、リリ……うちの子が申し訳ございません」


 謝ってはいるけど、俺も同じ言葉をうっかり口に仕掛けた……そう。リリが小さな人差し指を向けて口走った内容は、実に正鵠を射ていた。


 顔の下半分を髭がおおっているとなれば、『もじゃもじゃ』と表現するのがピッタリ。こんなのもう半分映画の中の住人だ。


「なあに、構わんぞ! この髭は、我らドワーフの誇りよ!」


 ガッハッハ、と笑い飛ばすゴリマッチョな男性二人。

 おいおい、いまドワーフって……やっぱり存在したんだ。獣人、エルフ、ドワーフ、とますますファンタジー色が濃くなっていく。さすが異世界、そうこなくっちゃ。


 などと、俺が密かに感動していたら。

 目の前のドワーフの一人が、右手を差し出してくる。


「ワシはガンドール・マルカム、レーデリメニアで工房を営んでおる」


「オレはグレンディル・マルカム。このガンドールの弟で、同じ工房で職人を生業にしている」


「どうも、伊海朔太郎と申します。お気軽に、サクタローとお呼びください」


 二人と握手を交わしたら、お兄さんの方から「ワシらも名前で構わん」と返事をもらう。


 続いてエルフの男性に挨拶をしようと向き直ったところで、「彼は護衛の騎士なのでお気になさらず」とフィーナさんから声がかかる。


「わ、わたしは、エマです! 六さいです!」


「リリはリリ! おじさんたち、なんでここにいるの?」


「ん、ぬりえしたい」


 エマとリリも、順番に自己紹介してくれた……ルルだけは、俺のズボンを引っ張って塗り絵をご所望だ。いいけど、ちゃんとご挨拶してからね。


「さて、皆さんどうぞあちらの椅子にお座りください。すぐにお茶を淹れますので」


 サリアさんの自己紹介は不要みたいなので、フィーナさんたちをセッティングしたガーデンチェアの方へ誘導する。


 獣耳幼女たちもお隣にテーブルの椅子に座ってもらい、暇つぶしグッズをトートバッグから取り出して手渡す。これで、しばらくは大人しく遊んでいてくれるはず。


 それから俺は、カセットコンロでお湯を沸かしてお茶を淹れていく。ドワーフの兄弟がやたら興味深げにこちらの様子をうかがっていたのが印象的だった。


「フィーナさん。外で待機されている皆さんに差し入れをお配りしてもいいですか?」


「ええ、構いません。連れの者たちの分まで、お心遣いありがとうございます」


 おそらく相手方のトップであるお姫様の承諾を得たので、紅茶を注いだ紙コップとお菓子をお盆に並べていく。配るのは、エルフの護衛騎士さんが担当してくれた。


 最後に、自分たちの分を淹れて席につく。すると対面に座るフィーナさんが、個別に用意したお高い白磁のティーカップを手に持って賞賛の声を上げる。


「まあ、なんと美しい……これほど素敵な器は初めて拝見いたしました。王宮での茶会に相応しいほどの逸品ですね」


「そうなんですか。もしよろしければ、差し上げますので――」


「なんと!? ワシらも譲ってもらえるのか!」


 フィーナさんに言ったつもりが、ドワーフの兄弟が興奮気味に口を挟んでくる。これには、隣のテーブルで塗り絵を楽しんでいた獣耳幼女たちやサリアさんもビックリだ。


 さらに彼らは、その塗り絵やクレヨンにまで興味を示していた。

 明らかに物欲しげな空気を漂わせていたので、『同種の製品でいいなら商談の機会を設ける』と約束し、ひとまず納得してもらった。


「ところで、フィーナさん。そろそろお伺いしたいのですが――例の『女神ミレイシュのお導き』とは?」


「ええ、そうですね……では、私たち特使団がこの街を訪れた理由からお伝えしましょう」


 この聖堂のこと、サリアさんのこと、神の抜け道のこと、話すべき内容は他にも多くある。そこで特使団の目的を軸に、順序立てて事情を説明してくれるそうだ。


 ややあって彼女は、王女という立場に相応しい気品を纏いつつ改めて口を開く。

 俺は思わず背筋を正し、その言葉に耳を傾ける。


「ラクスジット来訪の目的――それは、海神の涙を捜索するためです」


「海神の涙……いったい、どのようなモノなのですか?」


「レーデリメニアでは国宝に指定されている宝物です。極めて重要な祭具に欠かせぬ『装飾』として、長らく珍重されてきました……ところが、不慮の事故により破損してしまったのです」


 フィーナさん曰く、王位継承にすら関わってくる貴重な祭具が破損してしまったらしい。


 もちろんすぐに修繕が施されたが、肝心の海神の涙だけは替えがきかず、新しい物と交換する以外に手立てがなかった。しかも折悪しく、その祭具を使った大事な典礼がこの先控えているのだとか。 


「それは、なんとも災難でしたね。そのうえ間が悪かったようで」


「ええ、本当に間が悪くて……私はただ、耳飾りにしたら素敵だと思い、海神の涙をたった二つ取り外そうとしただけなのですよ?」 


「え、国宝を耳飾りに……なんで?」


「少し拝借したら、ちゃんと返すつもりでもいました。それなのに、お兄様が背後から大声で咎めてくるものですから、驚きのあまり祭具が手からすっぽ抜けてしまったのです」


 海神の涙とは宝石のようなものらしく、フィーナさんはイヤリングとして付けてみたくなったという。それでこっそり拝借しようとするも、王太子のお兄さんに見つかってしまう。おまけに、注意された拍子に祭具ごと取り落とし、壊してしまったそうだ。


 おや、話の雲行きが変わってきたぞ……この人、わりとダメな王女様なのでは?

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