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我が家と異世界がつながり、獣耳幼女たちのお世話をすることになった件 【書籍化決定!】  作者: 木ノ花 
第二章

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第52話 日本での初めてのお買い物①

 空いているパーキングスペースに車を止めると、俺は振り返って『スーパーで買い物をしよう』と提案した。あの建物の中はまるごとラクスジット(異世界の街)にもあった市場みたいになっているんだよ、というできるだけ噛み砕いた説明を添えて。


 たちまち、賛成を示す明るい声が車内を飛び交う。

 特に『市場』という単語に強く反応していた。


 以前のラクスジット観光を思い出したようだ。魔物の干し肉とか、いっぱい買い食いしたもんね。しかし両手をあげてアピールするリリだけは、かなり正確に意味を把握していたので驚く。


「リリしってる! カゴもっておかいものするの! テレビでスーパーみた!」


「おお、すごい! よく覚えていたね。俺たちもカゴを使って買い物するから、楽しみにしてて。ところで、みんな夜はなにが食べたい?」


 リリを褒めてから全員に問いかければ、ハンバーグやらカレーやらテリヤキやらマヨネーズやら、それぞれの好きなメニューが返ってくる。サリアさんだけは調味料だったけど。


 すっかり日本の食事を気に入ったみたい……けれど、どれもわりと最近作ったばかり。せっかくだし、また違った味を体験してほしい。食材を見て、何か喜んでもらえるメニューがないか考えてみよう。


 だが、その前に。

 後部座席に移動した俺は、リリとルルをジュニアシートから降ろしつつ大切なお願いを口にする。


「スーパーには、たくさんの人が買い物に来ているんだよ。だから、大騒ぎして迷惑をかけないようにしてね」


 他にも、急に走り出さない、商品を勝手にいじらない、お金を払うまで食べない、などいくつかの注意点を告げた。


 うちの子たちは素直なので、揃って元気いっぱいに『はーい!』とお返事してくれる。ニコニコと笑顔で、大変可愛らしい。


 とはいえ、エマたちはまだ幼いからね。興奮したら感情の制御がきかなくなっても仕方ない。大人がちゃんと見守っておく必要がある。


 だが、サリアさん……ちゃっかり返事をしているけど、今回は俺と一緒に大人側ですよ。協力して、しっかり監督役を務めてもらいます。そのために、ちょっとしたご褒美だって用意したんだから。


「サリアさん、エマたちが迷子になったりしないよう協力を頼むよ。言葉の問題も覚えてるよね? 俺が不審な気配を感じたらすぐ車に戻る、ってやつ。そのときは合図を出すから、対応をお願い」


 彼女は『言葉の問題』を明確に理解してくれている。なので、外でトラブルがあった場合の対応を事前に協議しておいた。その際、仕事をするだけだと可哀想に思えて、『我が家で楽しむお酒のバリエーションを増やす』と約束した。これがご褒美だ。


「うむ、任せてくれ。新しい酒は、確か果物の味がするんだったか?」


「そうそう。レモンサワーって言って、サリアさんの好きな炭酸も入ってるよ」


 それは待ちきれんな、と目をギラつかせるサリアさん。

 ビールを飲んでから炭酸の喉越しに魅了されたようで、かなり期待しているみたい。


 どうせなら、グレープフルーツサワーも追加してあげようかな。銘柄は檸檬堂と本搾りにしよう。市販だとこの二つがダントツに美味しいからね。こればっかりは、異論は認めないぞ。


 そうこうしているうちに、全員のシートベルトを外し終える。他にも準備はあるが、楽しく買い物できたらいいな、なんて軽く祈りながらいったん車を降りる――と、その直後。


 見知らぬ老夫婦が、手を繋いで立つ俺とエマの前を通り過ぎようとしていた。そしてこちらに気づくなり足を止め、笑顔で声をかけてくる。


「あらまあ、なんて可愛らしい。外国のお嬢さんかしら。こんにちは、日本語はわかる?」


「近ごろはグローバル社会だからねえ。日本の生まれかな?」


 エマの愛らしさに、純粋に目を引かれたようだ。

 西洋風の顔立ちにきれいな亜麻色の髪がとりわけ印象的なので、外国の子と判断したのも無理はない……が、やにわに高まる緊張感。


「こ、こんにちは……わたし、エマです! 六さいです!」


 しかも我が家きってのお利口さんであるエマは、止める間もなく素直に挨拶を返してしまう。


 図らずも、唐突に『言葉の問題』の答え合わせをする機会が訪れた。もし今の言葉に違和感を抱かれるようだったら――遅れて車から降りてきたサリアさんに、俺は目配せを送る。


「あらあら……とっても日本語がお上手ね! 可愛らしいお嬢さん、飴ちゃん食べる? イチゴ味は嫌いじゃない?」


「こらこら、アレルギーとかあったら困るだろ。うちの妻がすみませんね」


 カバンをごそごそし始めた奥さんを窘めつつ、旦那さんが軽く謝罪を口にした。その視線はこちらへ向けられている。


 これは……どうやら、問題ないらしい。まるで違和感を抱いた様子はなく、ごく自然に会話が成立していた。期待通りの結果となったのが嬉しくて、俺は笑顔を浮かべて「ご親切にありがとうございます」と返事をする。


「なにくれるの? リリはダメ?」


「まあっ、こちらにも可愛らしいお嬢さんがいたのね。それも二人もだなんて、おばあちゃん驚いちゃった。三人は姉妹なのかしら? 飴ちゃんだったら、いくらでも差し上げますからね」


 安堵する俺の足の後ろから、リリがひょこっと顔を出しておねだりする。反対からはルルが、エマの体に隠れながら覗き込んでいる。


 この可愛らしい光景を前に、老夫婦の目尻は一層緩む。

 ちゃんと二人にも挨拶をさせると、それぞれに飴ちゃんを配ってくれた。


 有名な『いちごミルク味』のやつだ。食べ方がわからないだろうから、いったん預かって後で説明するね。


 もちろんサリアさんも受け取っていた。ついでに美人だと褒めちぎられて自慢げだ。それから老夫婦は、微笑みながら去っていった。 

 俺たちも笑顔でお礼を告げ、手を振って見送る。


「サクタロー殿。言葉は、問題なさそうだな」


「そうだね、大丈夫みたい。本当によかった」


 老夫婦の姿が他の車の影に消えるのを待ち、サリアさんが改めて口を開く。

 いま答えた通り、懸念が払拭されてかなりホッとした。これで心置きなく買い物ができる……おっと、忘れるところだった。まだ最後の準備が終わっていない。


 俺は助手席に置きっぱなしだったトートバックの中から、『迷子防止ハーネス』を三つ取り出す。お互いの手首を繋ぐタイプで、これも先日ネットで購入しておいた。


 ついでにネットで色々検索したら、ハーネスの使用には賛否あるみたいだったが……異世界人であるうちの獣耳幼女たちが迷子になったら相当マズい。そこで、ひとまず使用に踏み切った。


 当然きちんと気を配るが、念の為だ。なにせ日本では初めてのお買い物だしね。

 俺はエマと手を繋ぐ。サリアさんには、リリとルルをお願いする。ハーネスの長さと荷物を考慮すれば、この組み合わせがベスト。


 ルルがダダをこねないか心配したけど、リリと一緒にワクワクと楽しげだ。揃って今にも駆け出していきそう。でも、それは絶対にダメ。


「さあ、行こうか。駐車場は本当に危ないから、絶対に走っちゃダメね。約束だよ」


『はーい!』


 みんなの元気な返事を聞いたら、ゆっくりと店内へ向かう。けれど、スーパーの大きな外観が目前にまで迫ったところで、俺以外が自然と足を止めるのだった。


『ふわぁぁああああ~!?』


 四人とも感嘆の声をこぼしながら、建物をじっと凝視していた。

 食料品をメインに扱う一般的な店舗だけど、大型だから迫力があるよね。モダンなデザインやガラス張りの壁なんかも、異世界ではまず見かけないだろうし。


 すれ違う他の買い物客も、獣耳幼女たちのリアクションに思わず表情を和らげる。

 気持ちはよくわかる。とてもほんわかした光景だもの。


「あ、みて! なんかうごいたっ!」


 リリの小さな指は、ひとりでに開閉する店舗の自動ドアへ向けられていた。そして次の瞬間、お約束かのごとく駆け出す。つられたルルも、弾むようにスタートを切る――寸前でサリアさんが二人の腰に手を回し、さっと両脇に抱え上げた。


 多分、お仕置きがてらあえての体勢だ。やる気あるバージョンの彼女が見逃すはずもない。なんだかんだ、頼りになる人だよね。


 エマも走り出しそうになったが、用心してぎゅっと手を握っていたので未然に阻止できた。注意すべく俺が顔を横へ向けると、ちょっと誤魔化すように「えへへ……」とはにかむ。可愛らしくてつい頬が緩む。


「まったく、走るなと言っただろ。まあ、興奮するのもわかるが」


「サリア、ごめん~!」


「むぅっ! あるく!」


 リリとルルはジタバタと抵抗するも、サリアさんは微動だにしない。ちょうどいい機会だし、そのまま反省してもらおう。

 続けて俺たちは自動ドアをくぐり、ようやく店内へと足を踏み入れた。

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