第30話 小悪党はお友だち?
「サリアさん、お知り合い?」
距離を置いて対峙する薄汚い男性集団の反応から察するに、互いに面識があることは明らか。そもそも名前を呼ばれていたしね。なので、俺は幼女たちをかばいつつ尋ねてみたわけだ。
すると案の定、「ああ、顔見知りだ」と返答があった。
「サクタロー殿、コイツラには近づかないほうがいい。素行の悪い探索者として有名な連中だ」
「お前が言うんじゃねえっ!」
素行が悪いのはどっちだ、と口々に反論してくる男性集団。
まあまあ、そう興奮しないで……双方ともにいったん落ち着いてもらい、俺はさらなる詳細情報を求めた。
かくして、サリアさんは過去を振り返るように語る。
この男たちとは、それなりに縁があるそうだ――出会いは、探索者としてギルドに登録した初日のこと。
ひとりで探索者ギルドへやって来た見目麗しい新顔に、たまたま居合わせた彼らはちょっかいを出した……が、あっさり返り討ちにされる。
当時、彼女はすでに規格外の実力を備えており、ギルドの本部内で大騒動を巻き起こしたそうだ。この男たちはそれ以来、出くわす度に酒や飯を延々と奢らされ続けているのだとか。
なるほど、荒くれ者たちの弱肉強食エピソードって感じだ……とはいえ、サリアさんはちょっとやり過ぎじゃない?
「サクタロー殿、騙されてはいかんぞ。この小悪党どもは、右も左もわからない新人探索者などをいびり倒して喜んでいる連中だ。私たちに声をかけてきたのだって、ろくでもない魂胆があったに違いない」
探索者は荒くれ者揃い。ゆえに、多少のトラブルはつきもの。むしろ対抗できるだけの武力や後ろ盾を持ち合わせていなければ、仕事として続けていくことは難しいという。元締めのギルドも多少のトラブルなら我関せずみたい。
その点、急にトーンダウンした男性集団は、あまり問題視されないレベルの悪事の常習犯。まさに『小悪党』と表現するのがピッタリだ。
「そうなんだ……じゃあ、お引き取り願った方がいいのかな?」
「うむ。私に任せてくれ」
「わかった。ちなみに、サリアさんはどうするつもり?」
「ぶん殴る。痛い目に遭えば、今後ちょっかいをかけてくることもあるまい」
そっか、殴るんだ……どう対応するのか気になって尋ねてみれば、普通に鉄拳制裁との返答を得る。どうやら、異世界は予想以上に野蛮らしい。
というか、サリアさんに怯えているみたいだし、このまま放置しても問題なさそうだけど。
「この手のアホどもは、力ずくで黙らせるのが一番だ――貴様ら、順番に殴るからそこを動くなよ。ムダな抵抗はやめろ。私から逃げられないことも理解しているな?」
『ヒエっ!?』
サリアさんが右肩をぐるりと回すのを目にし、男性集団は一斉に震え上がる。もはやヘビに睨まれたカエル状態だ。
ここまでくると、いくら小悪党が相手でも哀れに感じてくる……と俺が同情心を掻き立てられた、そのとき。
「だめ、サリア! お友だちをたたいちゃいけないんだよ! フェアリープリンセスもいってたでしょ!」
エマが珍しく大きな声を出し、俺の足にしがみつきながらも懸命に人道を説く。その立派な姿は、純真な天使もかくやである。心優しく、あまりにも尊い。
感動して、ついその頭を撫でてしまった。ふにふに動く犬っぽい獣耳の手触りにやみつきだ。続いてなんとなくリリとルルの頭を撫でてみれば、逆にこっちの手を掴もうとする遊びが始まった。三人とも可愛くて仕方がない。
一方、振り返ったサリアさんはあまりピンときていなさそう。どこかぼんやりした表情を浮かべ、小首を傾げている。
「エマ、ダメなのか?」
「ダメ! だって、お友だち……じゃないの?」
「わからん。ちょっと聞いてみる――おい、貴様らは私のお友だちなのか?」
エマに問われたサリアさんは、なんとも答えづらい質問を男たちへ投げかける。
どう考えても答えは『ノー』だ。しかし選択次第で鉄拳制裁を回避できるのであれば、返事はひとつしかない。
「も、もちろんっ!」
「俺たちゃ初めて会ったときから、ずっとお友だちだ……!」
「一緒にメシ食って酒のんだ仲だろ!?」
流れを読み、全力で乗っかる男たち。
エマの優しさのおかげで難を逃れたな。これに懲りたら、今後は素行を改めるようにね。
なんにせよ、これで一件落着。楽しい観光を続けよう……と思ったのだが、サリアさんから予期せぬ提案が飛んでくる。
「そうか、お友だちだったのか。ではサクタロー殿、そろそろいい頃合いだから昼飯にしよう。コイツラが店に案内してくれるそうだ。代金も持ってくれるらしい」
『えっ!?』
もちろん彼らは何も言ってない……が、サリアさん的には決定事項らしい。続けて彼女は、「サクタロー殿とエマたちにおかしなマネをしたら胴体を真っ二つに引きちぎる」と脅していた。不審な素振りだけでもアウトだそうだ。
男たちは逆らう気力もないようで、壊れたおもちゃみたいに首をガクガク縦に振っている。
ちょっと可哀想になってきた……けれど、今回はバチが当たったと思って諦めてくれ。食べ終わったら、こっちで代金を払うようサリアさんを説得してあげるからさ。
というわけで、しぶしぶ歩き出した薄汚い男たちの先導で食事処へ向かう。
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