チケット売り場
高速旅客船のチケット売り場に並んでいた。次にはもう順番が来る。列は大渋滞となっており、騒々しいくらいだった。係員に話しかけていると、後ろから押し合い圧し合いが始まった。困ってしまって、それでもどうにかチケットを購入しようとしていると、「キャー」と言う声の後に鈍い音がした。振り返ってみると一人の女子高生が倒れ込んでいた。列には他にも学生服姿が見受けられた。急いで、教師を呼んで来るようにと叫ぶと何人かが走って列を離れて行った。医療従事者でもないし、救急救命の知識もない。係員も状況には気が付いて向かってきている。手に負えないものは任せるしかない。
ふと気づくと高速旅客船の出航時間がもうそこまで迫っていた。急ぎ足で改札に向かうと、この混雑で出航が遅れており、どうにか間に合った。ところが、高速旅客船に向かったはずが、乗り込んだのは普通のフェリーで、ラウンジまであるし、大部屋もあるし、どうしたものかと思っていると、中央部に座席が背中合わせで設置されていた。とりあえず指定された座席に座った。普通のフェリーと言ったが、見たことのある内装ではなく、まるでデザイナーによって装飾された船内となっていた。それもすぐに見飽きたので、船内を歩くことにした。観光客らしい外国の人もいたし、子供たちもはしゃいでいた。高速旅客船だったはずなのに、どうしてフェリーなのか釈然といかないものの、乗り物に弱いはずが船酔いもせずに着船で来たので、大まかで納得するしかなかった。
用件をすませ、帰りは買ったチケット通りに高速旅客船だった。ただこれもまたいつもと違うのは、速度だった。かなり速いのは時化ている中を急いでいるようだった。ところで、船内に他に乗客が見受けられないのはどういう理由なのだろうか。二階にはいるのだろうか。それにしては物音の一つも聞こえてこない。まさかこの高速旅客船の乗客はたった一人なのだろうか。ちょっと落ち着かないまま、予定よりもかなり早く着船した。下船しようとすると、どこにいたのかと言うくらいに人込みで混雑していた。自分のペースで歩くことができないほどに制限された歩幅で下船し、帰途を進んだ。大勢の人々は各々のペースで改札口へ向かっていた。おかげでヨチヨチ歩きは、マイペースでの徒歩になり、人波をかいくぐって改札を抜けた。
ふとチケット売り場が頭をよぎって、そちらを見ると倒れ込む女子高生と、慌てふためく教師がいた。