【幕間】
窓の外では雪が降っていた。
日はとうに落ちていて、漆黒の空から舞い落ちる雪が、暖炉の火に照らされていた。
季節はまだ冬の始まりのころだ。本降りになるにはまだ早い。明日の朝には多少雪が積もって、雪だるまを作れるくらいにはなるかもしれないが、昼には全部溶けてしまうかもしれない。
明日が良い天気にならなければいいなと、そんなことをふと彼は思った。
「雪、積もるかなー」
窓の外に目を向けた彼の隣に、母親が来て言った。
「たぶん、積もるわよ」と。
この地方はあまり雪が降らない。ゆえにそれはおそらく方便だった。息子を落胆させたくなくて、母親が話を合わせてくれたのだろう。
窓に付着した雪が溶けて消える。じわっとガラスの表面を濡らしている雪を彼が見ていると、母親がリビングの端に置いてある机のほうに向かった。引き出しから青い宝石箱を取り出して戻ってくる。
「そうだ。これをあなたにあげましょう」
母親は、彼の目の前で宝石箱を開いた。中には、親指の爪ほどの大きさの水晶が嵌められたリングが入っていた。表面には傷があるが、原石ならではの独特の味わいがある。
「これは?」
「あなたを守ってくれるお守りみたいな物かしらね」
「ぼくを? これを付けていたら、立派な冒険者になれるかな?」
「冒険者になりたいの?」
「うん! お母さんみたいな立派な冒険者になりたいの!」
「そっかあ。うん、きっとなれるわよ」
母親は、孫の右手の人差し指に指環を嵌めてくれた。人差し指に指輪を嵌めるのは、説得力や自立する心を象徴しているのだという。自信を持つことによって、信頼を得ることができるのだという。
「ぼく、絶対に冒険者になるよ!」
「ふふ。あなたは私に似て魔法の才能があるみたいだから、きっとなれるわ」
「……だったらいいな」
母親の言葉に彼は顔を輝かせた。彼は気付かなかったが、母親の顔にわずかに陰が差していた。彼の右手に嵌められた指輪は、暖炉の光を反射して煌めいていた。
* * *