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【見えた尻尾】

 寮対抗魔法合戦がある日の一週間くらい前に、カレッジでは期末考査が行われる。魔法の実技ではなく、文学や数学といった五教科で行われる学科試験だ。一定の点数を取れないと赤点となり再試験が行われる。再試験の結果次第では進級に影響することがあるので、気が抜けない。

 そして、私はこの学科試験があまり得意ではなかった。笑いごとではないが。

 それはさておき、期末考査が迫ってくると、先生たちは試験問題を作るために職員室にこもりがちになる。逆に生徒は勉強のために早く帰宅する。

 ようは、校舎の中が全体に閑散となるのだ。

「この機会を逃す手はないと思うんだ?」とシェルドは言った。

 全体に人の目がなくなるので、ここで間隙をぬって違法な実験に手を染めるのではないかと。そういうことだ。

 また、理由はもうひとつあった。

 禁断の魔法書は、実は二冊あったのだ。

 そして、残りの一冊は、まだ見つかっていない。

 それを、モンテ導師が隠し持っているのではないかと。モンテ導師が本当に魔法書を持っているとしたら、一週間以内に実験を行うだろうと、シェルドはそう睨んでいるのだ。

 魔法書の貸し出し期限は一週間だ。シェルドの予測通りであるなら、その期間内になんらかの動きがある可能性は高い。学園長が戻ってきた後では、証拠隠滅が難しくなるのだから。

 動きが慌ただしくなる。そういった予感が確かにあった――。



 それから、私たちは談話室に集まって勉強をする傍ら、実験棟の周辺を監視していた。といっても、全員で見張っているわけではない。中央棟の正面入口が見える談話室に二人。実験棟の入口が見える談話室に二人。二人一組になって、二手に分かれて見張っていた。

 モンテ導師の動きをすべて監視するのは無理だ。職員室からの出入りと、実験棟への出入りを押さえておけば大丈夫だろうとの、シェルドの提案によるものだ。

 窓から各々の建物の出入口が見える談話室があったのは幸運だった。

 窓際の席をごく自然に陣取って監視するのだが、ずっと監視の目を光らせていたのではメンタルが死ぬ。ついでに言うと、勉強がはかどらない。私らだって期末考査を受けなくてはならないのだから。

 そこで、二人で交代しながら監視をしていた。

 談話室には時として他の生徒の目があるわけだから、監視はなるべく不自然にならないようにして行った。


「何も起こらないな……」


 エドが、談話室にかかっている大時計を見やる。針は午後四時を指していた。今日ももう二時間監視を続けている。

 監視を続けてから六日目。これまで目立った動きは見られていない。

 昨日のことだ。「このまま杞憂に終わるかも」とプレアがため息交じりに言ったとき、「いや、それはない。必ず動くよ」とシェルドは確信めいた口調で言った。彼の笑顔はどこか不敵だった。


「もうすぐ交代の時間ね」


 私が言うと、エドがうんざりとした顔をした。みんな集中力はとうの昔に切れているのだ。


「そろそろ何か起きてほしいもんだぜ」


 エドのぼやきに思わず笑った。

 窓際に座っていたエドがトイレに立つ。――なお、これはフリだ。その間に監視役を交代するのだ。私は窓際へと席を詰めると、教科書を開いたまま視線だけを窓の外に向けた。

 午後六時前。日は山間に身をひそめて、辺りが薄暗くなってきた頃合いのことだった。実験棟の入口に向かって歩いているモンテ導師の姿が見えた。「あれ」とひそめた声で隣のエドに告げる。彼も窓の外を見た。


「シェルド」


 魔法で通話できる携帯用端末で、別室にいるシェルドに話しかけた。一対一の通話しかできないが、ポケットサイズの便利なものだ。


「モンテ導師の姿が見えた。いま、実験棟のほうに向かって歩いているところ。正面入口を出るところは確認できていて?」

『ほんとに? ……いや、こっちでは確認できていなかった。見逃したわけではないと思う』


 中央棟には出入口が三ヶ所ある。通常であれば、一般開放されている正面入口を使うはず。そこから出ずに非常口を使ったとするなら、やましいことがありますと言っているようなものだ。


『動くかもしれないね』とシェルドが言った。

「今すぐこっちに来られる?」

『もちろん。実験棟の前で落ち合おう』


 私とエドは、頷き合うと荷物を持ってすぐ談話室をあとにした。


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