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【禁断の魔法書(2)】

 禁断の魔法書を始め、禁忌の品を管理している司書担当の導師の息子と、エドは友人だった。彼から聞いた話によると、禁断の魔法書の持ち出し請求をしていたのは、モンテ導師なのだという。


「モンテ導師?」


 新しい名前が出てきたことで、シェルドがびっくりしたような反応を見せた。


「モンテ導師は、いつも難しそうな本ばかり読んでいる人だよね?」


 私の声にエドが頷く。モンテ導師は、歴史書や哲学書などを好んで読み、私が実験でうまくいかなかったとき、優しく教えてもらったことがある。やせぎすの老人といった風貌で、これまた野心家には見えない人物だ。そして、彼はリアンダー先生の上司に当たる。


「どうしてまた、そんな人が禁断の魔法書を持ち出したいって言ってきたんだろう?」とシェルドが首をひねった。

「……俺にもわからない」


 エドの返答は、歯切れが悪かった。


「でもさ。それだったら、どうして爆発の現場にいたのはモンテ導師じゃなくてリアンダー先生だったのかな? おかしくない?」


 プレアの問いは核心をついていた。ゆえに、みんな押し黙るしかない。

 頭の中で情報を整理していく。

 確定情報ではないが――魔法書の持ち出しを要求したのはモンテ導師。禁断の実験を行ったのはリアンダー先生。魔法書を持っていたのも、リアンダー先生。状況証拠から見て、リアンダー先生が一番怪しい。だが、魔法書の持ち出しを要求したのがモンテ導師であるなら、この話は根底からひっくり返る。


「……もしかして、だけど。リアンダー先生が、モンテ導師にそそのかされた、ということはないの? 実験の内容を知らないままモンテ導師に手伝いをさせられていたとか?」

「……なるほどね。それで、実験を失敗したそのあとで、全責任をリアンダー先生になすりつけようとしていると」


 シェルドの意見に、難色を示したのはプレアだ。


「でも、おかしくない? 先生がそそのかされたのだとしたら、やっていないと申し開きをすればいいんじゃなくて?」


 プレアは頭の回転が速い。すぐ違和感に気付いたようだ。「うーん」とこれには腕組みをして思案にくれてしまう。実際、その通りなんだよね。


「それで? リアンダー先生はなんと言っているの?」


 それが、とプレアの声にエドは歯切れ悪く答えた。


「ずっと、黙秘を続けているらしいんだ。俺が面会に行ったところで、身内だからと合わせてもらえないし」

「そう……。どうしてかしら」

「……どうすればいいと思う?」


 エドがすがるような目をして言った。彼にしてみれば、藁にもすがりたい気持ちなのだろう。私がエドの立場だったらやはりそうだったかもしれない。


「それで? モンテ導師の扱いはどうなっているの? 現場にいなかったとはいえ、先生の上司なんだから、査察部からの取り調べは受けたのでしょう?」


 先生の無実を証明するには、モンテ導師が一枚かんでいる事実をつかむほかない。


「いや、それが……。爆発があったとき、モンテ導師は実験棟の中にいたんだよ」

「はあ!?」


 これにはエド以外の三人の声が揃った。


「実験棟の中にはいたけれど、別の部屋で違う実験をしていたので無関係なのだとか。ちゃんと、それを証明する書類もあるらしい。だから、モンテ導師は関係ないと言われてしまったんだ」


 実験棟を利用するときには、なんの目的で誰がいつ利用するのかを、届け出るよう義務付けられている。書類がある以上、話はひっくり返らない。


「関係なくはないと思うんだけど……。モンテ導師が、魔法書の持ち出しを要求していたって話はしたの?」


 プレアの問いに、「したよ!」とエドが少々ヒステリックに答えた。


「けど……。そのような事実はないからって、まったく取り合ってくれなかったんだ。禁断の魔法書の持ち出しにも、書類は必要なのだから、それを見たらすぐわかるはずなんだが」

「見せてはもらえなかったと。そういうことなのね?」


 エドが無言で頷いた。


「きな臭いな……。こんなにきな臭いんだったら、学園長が放っておかないだろうに。なあに、そのうち」

「強制捜査のメスが入る。……そうなったら、いいけどね」


 シェルドの声を、遮ったのはプレアだった。


「どういうことだ?」

「寮対抗魔法合戦の準備で、今、学園長はカレッジにいないからね」

「ああ、そうか。まるでこのタイミングを狙って騒ぎを起こしたようですらあるね。……ますますきな臭い」


 シェルドの声を聞きながら考える。この時期、学園長は隣国へと視察に出ていて、一週間先まで戻ってこない。寮対抗魔法合戦の際に、必要となる物資の援助をお願いするためだ。それはいつものことなのだが、この爆発騒ぎは『今回初めて起きた』。

 ここが解せない。

 世界の流れが変わっているということは、私以外の何者かの意思が働いているということなのだ。

 それは、誰なの?

 私の命を狙っている勢力と関係があるの?

 それとも、実験で失敗が起きたのが今回初めてなだけで、実験自体はいつも行われていた? もしそうだとしたら、この実験で呼び出される(あるいは呼び出された?)魔族が私の生死に関与している可能性だってある。


「実験は、本当に失敗していたのかな?」


 私と同じことを考えていたのか、シェルドがぼそりと言った。


「いや、失敗はしているでしょう? 魔族が現れた痕跡はなかったし、失敗による爆発も起きているんだし」

「そうだな。じゃあ、これでこの事件は終わりになると思うか?」

「どういうこと?」


 反応したのはプレアだ。


「この際、実験をしていたのが誰だったのかは置いておこう」

「いや、そこが一番大事なところだろう?」


 待てよ、と言わんばかりにエドが憤った。


「話を最後まで聞いてくれ。……魔族の召喚に失敗した。リアンダー先生は魔族の召喚をしようとしていなかった。この二つが共に真実だったとしたら、次に起こるイベントはなんだ?」

「あっ……」


 言われてみるとそうだ。その視点は完全になかった。


「魔族の召喚は言うまでもなく禁止カードだ。これだけの騒ぎになるリスクを犯してまで実験を行った人間が、このままあっさりと諦めると思うかい?」

「そうか、モンテ導師がもう一度実験をするかもしれないってことだな! ……よおし、相手の動きがわかっているなら話は早い。現場を押さえて、今度こそとっちめてやるぜ!」


 いささか思い込みもあるのだろう。真相は見えたとばかりにエドが息まいた。


「いやいや、ちょっと待って! ちょっと話が飛躍しすぎじゃないの? 仮にだよ? モンテ導師が裏で糸を引いていたとしても、今このタイミングで動くわけがない。あれだけ派手な爆発騒ぎがあったあとで、また実験をしたらいくらなんでも悪目立ちするでしょう?」


 普通に考えてありえない。動くとしても、リアンダー先生の罪が確定してからだろう。


「そう思うだろう? だが、案外とこれがそうでもないんだな? 必ずなんらかの動きがあるよ。おそらく、一週間以内にね」


 シェルドが、悪い顔をしていると思った。最近わかったことだが、彼がこのような顔をしているときは簡単には引き下がらない。


   * * *


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