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【仮免許試験(2)】

 その後はガーゴイルと遭遇することはなく、無事迷宮の出口に着いた。

 迷宮の外に出ると、うららかな日差しが私たちを出迎えた。空は快晴。心地よい風が頬を撫でる。

 迷宮の出口があるのはカレッジの敷地内だが林の中だ。それだけ、カレッジの敷地が広大だということなのだが。

 思いの外早く迷宮を出られたので、試験の残り時間的に余裕があった。すぐ校舎に戻る必要がないので、しばらくこの場所で涼むことにした。初夏とはいえ、晴れた日の日差しは強い。頬を伝った汗を拭いながら、近くにあった倒木の端に腰かける。他の三人も、切り株や倒木を見つけて思い思いに座った。

 今日の健闘を称えあい、そこから他愛のない雑談に移っていく。これまでの繰り返しの世界と違いシェルドがいるので、話の内容が異なっている。新鮮で、興味深かった。

 次第に、『なぜ魔法使いになろうと思ったか』が話題になった。

 思えば、動機について改まって話したことはこれまでない。

 本音を言えば……あのキスはどういう意味だったのとシェルドに訊ねたい。しかし、彼はあれから素知らぬ顔をしているし、私とて聞く勇気がない。

 本当にあれはなんだったのか。

 エドが魔法使いになろうと思ったのは兄の影響。

 彼自身は武器を使っての戦闘のほうが得意なのだが、兄であるリアンダー・ブラックウッドがエルストリン・カレッジで先生をしているので、自分も入学することにした。

 頭脳明晰で、優しい兄のことを、彼は尊敬しているのだという。普段は、結構憎まれ口を叩きあっている二人だが、やはりそこは兄弟なのだろう。

 プレアは、手に職をつけるため。

 プレアの実家はあまり裕福ではないらしく、また、母親は体が弱く病気がちなので、なるべく早く自立したかったとのこと。

 冒険者という職業は決して安定しているとは言い難いが、それでも、選択肢を多く持つのはいいことだろう。


「レイチェルが、魔法使いになろうと思ったのはどうしてなの?」


 話題は順番に巡って、私が話す番になった。シェルドの瞳がこちらに向いている。


「ほんとはね、魔法使いになんてなるつもりはなかったんだよ」

「そうなの?」


 驚いているのか、シェルドが目を丸くした。彼は瞳が大きいので、あどけなさが増して年齢より幼く見える。


「うん、最初はね。さまざまな一般教養を身に付けて、文官になるつもりでいたの。幼いながらに、そうなるのだとばかり思っていたの。でもね、ある日思った。魔法使いだったお母さんの意思を継いで、魔法使いになりたいと」

「魔法使い、だった?」


 言葉尻に違和感を見つけたのだろう。シェルドが質問を被せてくる。


「……うん。実のところ、私もお母さんのことあまりよく覚えていないんだけどね。お母さんは、私が幼い頃に亡くなってしまったから」

「ああ……」


 シェルドが沈痛な面持ちで頷いた。


「それからかな。次第に、魔法使いになりたいと思う気持ちが強くなっていったのは」


 私の母が亡くなったのは、私が五歳のときだった。母の姿は、すでにおぼろげにしか覚えていない。

 私の実家であるサリス家は、中流階級の貴族だ。父はそこの次男として生まれた。貴族にとって、もっとも重要なのは家を継ぐことだ。それは、上流だろうとうちのような中流であっても変わらない。むしろ上流ではないからこそ、家を継ぐ長男にあらゆる責任とリソースが集中する。家族総出で長男一人を立派に育て上げるという図式だ。

 次男である父は、いろいろ自由が利く反面、実家はほとんど面倒を見てくれない。であれば、家を出て自立するしか道はない。そう考えて父は冒険者になった。

 冒険者になって、旅の中で出会ったのが母だった。

 二人は、冒険者としてそれなりに名声を得ていたのだという。どういった活躍をしていたのか、あまり詳しく聞いたことはないが。

 ところが、ある日風向きが変わる。突然長男が他界したのだ。流行り病とやらに罹患したとかで、あっさりと亡くなってしまったのだ。大変だったのはそこからだ。急遽サリス家の跡取りとして父は呼び戻されることになり、あれよあれよと時期当主に祭り上げられた。

 そのとき、この人を妃にしたいと、父は母のことを両親に紹介した。

 当然、猛反対される。どこの馬の骨ともしれぬ冒険者上がりの女など、どこにも紹介できるものかと、両親は激高したのだという。

 それでも父は押し切った。この結婚が認められないなら、俺は家督を継がないぞと主張をして。

 ここまで言われたなら、渋々折れるしかない。父と母はこうして結婚をし、生まれたのが私だった。

 しかし、幸せな日々は長くは続かない。母が事故で死んだのだ。


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