第二話 「出会いと話」
目を覚ますと、見知らぬ天井があった。
「ジル!!!!」
勢いよく起き上がると、ベッドの脇に見知らぬ女性が座っていた。女性は突然起き上がった俺に一瞬驚いた顔をしたが、すぐ嬉しそうに微笑んだ。
「あ、あの!妹を..助けてください!!お願いします、男に連れ去られたんです!」
「落ち着いて、妹さんは無事よ」
「え、どうゆうことですか...!」
「今はリビングにいるはずよ。ちょっと待っててね」
そういうと、女性は部屋を出て行った。
一人残された俺は震えるように息を吐いた。
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勢いよく扉が開けられた。
「お兄ちゃんっ!!!」
「ジル!!!」
妹が俺のいるベッドに飛び乗り、抱きつく。
「よかった...本当に....お兄ちゃんが死んじゃうかと思った...」
「それはジルの方だ、どうやって助かったんだ?さっきの女性が助けてくれたのか...?」
「ん、いや違うよ。私を助けてくれたのはあの人」
扉の奥から見知らぬ男がひょこっと顔を出す。
「やあ」
白いタキシードのような服を身に着けた身長の高い男が現れた。体格はよく見るとしっかりしており、20代後半のイメージを持つ。
「あ、あなたが妹を助けてくれたんですか。本当にありがとうござます!」
「ナハハハ、そんなかしこまらなくていいよ」
「いえ..自分の事も看病してもらったみたいで....」
「あーそれは彼女のおかげだ。そのお礼ならこっちに」
さっき部屋に居た女性が扉の奥で微笑んでいた。
「あ、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
「うし、じゃあそろそろ話し合いを始めようか」
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俺たちは居間に移動し、テーブルを囲んで座った。彼は話し合 いと言っていたが、会ってすぐの俺たちに何を話すのだろうか。おおむね、助けた報酬についてなどだろう。ジルは俺が眠っている間に何か聞いているみたいだが、その顔は神妙だ。
「まずは自己紹介からだな。私はレッシュ。で、彼女はセレスティーヌ」
「よろしくお願いします」
「まずは、すまないギリギリになってしまって」
「ギリギリ...いえ、改めて助けていただき本当にありがとうございます」
「じゃあ本題に入ろうか」
「なんで君たちが襲われたかわかるか?」
「え、いえ突然アイツらが現れて、妹を殺しにかかってきました...」
「そう、奴らの狙いは君の妹だ」
「な、なぜ妹が!なにも恨みを買うようなことはしていないのに」
「その理由は君の妹の能力にある」
「能力...?」
「ロドルフ、襲われていた時君の身に何か妙な現象が起きなかったか?」
あの時、妹をなんとしても助けようともがいた時、妙な液体が俺の体から噴出された。そのあと男に殴られそうになったときも液体が俺を守った。
「黒い液体が体から出てきました。それが関係しているんですか?」
「黒い液体?ほー、そんな感じなのか。その液体は君の能力だ。能力は危機的状況下で発現することが多い。妹を助けようとした時に発現したんじゃないか?」
「たしかに...そうですね」
聞いたことがある。世界には普通の人にはできない、いわゆる魔法みたいなことができる人間がいると。それは冒険者に多いらしく、ある日突然開花するのだとか。冒険者は仕事柄、危機的状況下になりやすい。彼の話と合わせると能力とはそれのことだろう。俺はそんな人間に会ったことがなかったから信じてはいなかったが、実際俺自身に発現している。
するとレッシュは語り始めた
「この世界は元々一つの世界だった。そこである日、ジンシャという人間が世界をバラバラにしてしまったんだ。人々はバラバラになる前の記憶をなくし、あたかも自分は以前からこの世界にいたと考えるようになってしまったんだ」
「な、今の世界も一つですよ?」
「その認識だ。その認識は別々の世界になった後のものだ。自分では気づくことができない。一度でもここ以外の世界ってあるんだろうか。なんて考えたことはあるか?」
「いや...言われてみればしたことないですね」
「そう、疑問にも思わないんだ。絶対的な常識、考える必要もない事実。そうやって認識を操作されているんだ。ジンシャによって」
「その話が本当ならこの世界にいるあなたはなんでそれについて知っているんですか?」
「それはだね、君のお父さん達のおかげなんだ」
「俺たちの父を知っているんですか?!」
「ああ、君たちの父とは友人でね、君たちの両親は、世界をバラバラにしようとするジンシャを止めようとして戦ったんだ。だが、結局、負けてしまった。そうして君達の父は亡くなってしまったが、君たちの母は逃げることに成功して、この世界で君たちを育てたんだ」
「そうだったん...ですね...」
「本当に...残念に思う....」
母は父の死についてはなにも喋らなかった。父についてはかっこよくていつも笑っていて楽しい人。そう聞いていた。が、母は父のことを話し終えるといつも空を見上げて寂しそうな顔をしていた。
「まあ、それでだ。彼らは死ぬ前にいくつかものを未来に託した。その一つとして以前あった世界の存在を私は知っているんだ」
「いくつかのもの?」
「ロドルフ。ジル。君たちのその能力も彼らが託してくれたものなんだ。それで、特にジル、君の能力はもっと特別なものなのかもしれない」
「私の能力...ですか」
「私も知らない。だがジンシャは今まで無視していたのに今更になって君を襲わせたんだ。おそらくジンシャにとってかなりヤバいなにかなんだろう。と私は考えている」
「なるほど...」
「だから多分、これからも刺客が送られてくるはずだ」
ちらりとジルの方を見ると、手が震えていた。今の状況、亡くなった両親について。そして自身の能力と危険性について。頭の整理も追いつかないだろう。なぜ両親はジルにそんな能力を...
「今回は初めてで予測ができなかったが、幸い間一髪助けられた。これからは私達が守ってあげられる」
レッシュさん達は信用できるだろう。戦う術も知っている。また妹を殺そうとしてくる輩が現れても追い返すことは可能だろう。
だが毎回必ず守り切ることはできるのだろうか。人間は完璧じゃない。イレギュラーなことだってあるはずだ。レッシュさん達と離れた瞬間を狙われたら?ギルさん達でも太刀打ちできない刺客が送られてきたら?
ジルはこれからいつ殺しに来るかもわからない存在に怯え続けなければならないのか。肉体的には助けられるかもしれない。だが、精神はすり減っていくだろう。そんな時に一番そばで支えてあげられるのは家族である俺だけだ。
俺が強くならなければならない。何もできずにまた妹を失いかけるのは嫌なんだ!
「あの!!俺を...俺を鍛えてくれませんか!!俺は妹を守りたい!!そのジンシャとかいうやつのせいでずっと妹が危険な状態だっていうならそいつを倒します!!見ているだけなんて嫌です!家族を守るのは俺の役目なんです!お願いします!!!」
そう叫ぶと、レッシュはニカッと笑った。
「よぉし!!そう言ってくれると思ったぜ!!」
彼は立ち上がったと思ったら俺の肩に手をまわし、手を取り、宙に掲げる。
「打倒!ジンシャだぁ!!!!!」