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妄想異世界短編集

魔王と勇者 3020年

作者: 王烈夏

 勇者とは、魔王の欲望を滅する者である。

魔王を殺す者ではない。


 魔王とは、他者の不幸を悦び、己の欲望にしか興味の無い者である。

その欲望は世の中を変えるほどの欲望であり、その為の苦痛には耐えることもある。

魔王は、己の欲望が潰えたと知ったときに消えるのだ。

今代の魔王は、神託が映像球で報道された以降は情報が無く、何もしていない様だ。


 今代の勇者は人見知りだった。

山の麓に埋もれた聖剣を見つけ抜くことに成功していたが、それを周りに言ったりはしていない。

修行の末に意思ある聖剣との会話が可能に成り、魔王の気配をたどって魔王討伐の一人旅に出て、今はある都に来ていた。


「なあ聖剣、魔王の位置もっと詳しく分からないの?」

「無理だな、首都に入った辺りから気配が濃すぎて方向さえ分からない。目の前の建物で寝ていても気付けんよ。」

勇者と聖剣の会話は、声を使わないので周りの人には聞こえない。


「一度帰ろうか。」

「遮蔽物が無くて近くに居れば分かる、屋外で探す方が良い。」

出直した方が良いと判断した勇者を聖剣が止める。


「こんなに人が居たら、見つけても聖剣抜けないよ。」

各国首脳が集まるため、警備の都合でいくつかの通りが封鎖されていて、普段よりも多い観光客と合わさり、多くの人が通りにあふれていた。


「人類は増えすぎたな、少し減らすべきではないか?」

「お前が魔王か?」

勇者は歩みを止めて、腰に有る聖剣を睨み付けるが、すぐに笑顔に成って歩き始める。


「んな訳ないか。分かってるけど、その冗談は笑えないよ。」

「いや、本気だけど、ワシ人類じゃないし、目的は魔王の消滅だけだから。」

「え、勝手に動いて皆殺しとかしないよね。」

会話が可能になってから初めて聞く聖剣の倫理観に戸惑う勇者。


「ワシが自力で動けたらそうしておる。」

「急にお前捨てたくなった。」

腰の聖剣を外そうとする勇者。


「まあ落ち着け。ここで何かを企む魔王であれば人型の魔王であろう、先に見つけて魔王だけ刺せば良い。周りに被害は出んよ。」

「それって私が通り魔で捕まるのでは?」

見た目が人類ではない魔王との物語の様な決戦を想像していた勇者は、実際の戦闘は人との戦闘になる可能性が高いことに気付いた。


 勇者とは、国の権力の様なものではない、己の使命として行動した結果、勇者として称えられるのだ。

魔王が強大な武力を持つ場合、行動の過程で勇者として認定されてきたという歴史が有るが、今回は魔王が何もしていない為、勇者は端から見れば只の観光客だ。


「大きな事を起こすなら、多分王宮に居ると思うけど、ちょっと焦り過ぎたかな、今日は買い物して帰ろう。」

王宮に向かう通りかを外れて市場に向かう勇者。


「フハハハハハ、よく来たな勇者!」

という展開を想定していた勇者は急に恥ずかしくなって、聖剣にその思念が伝わらないように注意しながら歩いていた。


 今、首都では聖獣の肉を卸すという店の噂がある。勇者はそこで肉を買って帰るつもりだった。

旅の途中で教えてもらった合図を店員に示すと店の裏に案内されて、順番待ちの列に並ぶことになったが、突然聖剣からの思念が飛んできた。

「そいつだ!後ろ!」

 聖剣の言葉で振り向くと、開いた扉から出てくる男と目が合った。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ、、、」

 男は虹色の光に包まれて崩れ落ちる。

「???」

勇者が警戒しながら聖剣を抜き近づくと、魔王はボロボロと崩れる手を勇者に向け、小さく呟いて消えた。

その声は勇者に届くことはなかった。


 魔王の欲望は各国首脳の暗殺による世界の混乱だった、そしてその欲望は潰えた。別の欲望に上書きされたのだ。魔王の最後の言葉は


「一目惚れです。貴方を幸せにしたい。」

一目惚れってしたことありますか?

私はあります。

あの衝撃を文章で表す能力が欲しいです。

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