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短編集

冬の大三角の伝説~星降る夜に☆彡

作者: 夢月みつき

冬の南の空に輝く、オリオン座の赤い1等星ペテルギウス。

その左下の星空の中で1番明るい。おおいぬ座のシリウス。

そして、ベテルギウスの左にある。こいぬ座の1等星プロキオン。

この3つが作る三角形が、冬の大三角だ。



むかしむかしの大昔、天にあるとある村にベテルギウスという、狩人(かりうど)の若者がいた。

ベテルギウスは、年老いた父親と母親と住んでおり、狩りで生計をたてていた。

ある日ベテルギウスは、天の鹿を仕留めに行こうとした。

彼は2匹の犬を飼っていて、その日もお供に赤毛の大犬シリウスと、

仔犬のプロキオンと共に出かけた。



しばらく森の中を歩いていると水の匂いがしてきた。

視界が開けた先に天をへだてる。大河天の川が現れた。

鹿を仕留めに行くには、この川を渡らなければならなかった。

「うーん。まだ、小さいプロキオンは渡れないなあ。仕方ない。シリウスを連れて行こう!」

ベテルギウスは、プロキオンを岸へ置いていき

危ないので追って来られないように繋いで、たっぷり餌と水を置いた。



ベテルギウスとシリウスは、後ろ髪を引かれるように

プロキオンの様子を心配しながらも出発した。

しかしそれっきり、仔犬のプロキオンは主人のベテルギウスと、

父犬のシリウスとは会えなくなってしまった。

プロキオンはいつまでも、いつまでも2人を待ち続け寂しそうに鳴いていた。

今でもベテルギウス達は、冬の大三角のオリオン座。おおいぬ座、こいぬ座として

空で光り続けているという。




それから現代1月ここは、日本のとある公園。時刻は夜の20時30分。

17歳の(ほし)(わたり)うららは、星が好きで同級生の吉崎(よしざき)(さとし)と今日も夜空を見上げていた。

「うらら~? そんなに見上げて首が痛くならないか?」と聡が言うと

うららは軽く微笑み「大丈夫、星が大好きだし。なれているから!」と言った。

「寒み~…」聡はベンチに座る。

「聡、風邪引くから。もう、帰っていいよ?」

「ばか、こんな寒い夜に女1人残して帰れるか。」

「ありがと。」

「まあ、付き合ってやるよ。ほんとにお前は、ガキの頃から星が好きだからな」

うららは、寒そうに手をこすり合わせながら白い息を吐く。

「この時期は、(冬の大三角)が見えるのよ。私、その星座がなぜか1番好きなの」

「冬の大三角? 俺あんまり、星の事はわからんなあ。」

うららはふふっと、微笑を浮かべて星の伝説を話して聞かせた。

「ふ~ん…ちょっと、切ない伝説だな。その仔犬どうしたかな」と聞くと。



彼女は、ブランコをこぎながら「待っているだけじゃ、寂しいもの。

きっと、誰かが拾ってくれたわよ。」と少し切なそうに答えた。

そろそろ21時になろうかと言う時刻に。

うららと聡がコンビニで、暖かいお茶とたこ焼きを買って来て。

公園のベンチで食べていると、この辺りでは見かけない可愛らしい10歳位の女の子が

夜だと言うのに1人で公園の中に入って来た。

2人が見ていると女の子と目が合い、うららと聡に近づいて来てにこっと笑いかけた。



「お姉ちゃん、お兄ちゃん。こんばんは! 美味しそうなたこ焼きだね!」

聡は少し頭を下げ、うららはにこっと微笑み

「美味しそうでしょ。あなたも食べる?」と串にたこ焼きを1つ刺して、女の子に渡した。

「ありがとう。お姉ちゃん! おいし~!」

と女の子は喜び。「お姉ちゃん達の名前は?」と聞いて来た。



「私は星渡うららよ。」

「俺は吉崎聡だ。」と答えると女の子は、「あたしは赤井天子」と嬉しそうに答えた。

「天子ちゃんか~! ところでさ。何で、天子ちゃんはこんな夜に来たの?

危ないよ。お父さんか。お母さんは?」

と心配した聡がズバリと聞いた。



「あたしね…お母さん。ずっと、前に死んじゃって。

お父さんもお友達もどっか行っちゃったの」と天子は泣き始めた。

「天子ちゃん…」

「天子ちゃん、ごめんな。変なこと言って。」とうららと聡は、天子を抱きしめて慰めた。



天子は、しばらくして落ち着くと微笑みを浮かべた。

「聡お兄ちゃんとうららお姉ちゃん。優しいね!

まるで、あたしのお父さんとお友達みたいだよ。」

うららと聡はこの子を警察に届けて、児童相談所に保護してもらわなくてはと思った。

「そろそろお家に帰ろっか! 送るよ。天子ちゃんお家どこ?」

とうららが優しく聞くと、天子は空を指さした。

「お家はあそこ!」

うららと聡は顔を見合わせ笑った。

「まさか~っ! 天子ちゃんは天使?」

「まだ、分からない?」と天子はべそをかきはじめた。



その瞬間、うららと聡、天子は星空に浮いていた。

「うわっ! 何だコレー!? 俺達浮いてる!!」聡が混乱する。

「本当にびっくり! だけど。凄くキレイ…」

「これ、天子ちゃんがしてるの?」とうららが聞くと、天子はうなずいた。

「行っくよ~っ!」



びゅわーん!



3人は夜空を飛んで天の川に着いた。

サラサラと無数の星くずが川のように流れている。

「――これは夢」とうららが問うと。

「夢じゃないよ! 思い出して。ベテルギウス! おっ()ちゃん!!」

と天子が両手を組んで祈った。

その刹那、星くずがキラキラとうららと聡の周りを飛び。2人を包んだ。



「きゃあ~っ!」

「うわあ~!」

2人は驚き慌てふためいて、顔をおおうと突如知らない記憶が脳内に押し寄せて来た。

そこには大昔、狩人ベテルギウスだった頃のうららと、

大犬シリウスだった頃の聡の情景が浮かんだ。



そして、一匹の仔犬の姿が脳裏に浮かんだ。

「そうよ。私は…」

「俺は…!」

「狩人ベテルギウス!」

「プロキオンの父、シリウス!」

一気に思い出したせいでうららと聡は、腰の力が抜けてヘナヘナと座りこんでしまった。



「やっと、思い出した? ベテルギウス! おっ父ちゃん!」

天子はホッとしたように微笑むと、身体がキラキラと光り始めて。

赤毛の仔犬の姿に変わった。

「ああっ! その姿は、プロキオン!」

「プロキオンちゃん!」

と2人は驚いて、プロキオンの小さな身体をやんわり抱きしめた。

「おいら、ずっと、ず~っと。2人を待ってた。拾われて何かないよ!

ずっと待って、天の川も渡れずに。力尽きたんだよ。」

「ベテルギウス! おっ父ちゃん! 寂しかったよぉ~」

3人は抱き合いしばらく泣いていた。



そのうちにプロキオンの身体が、キラキラとまばゆく光り始めた。

「なんだよ。これ…」聡が言うと、プロキオンは。

「うららと聡が思い出すまで、神様に力をもらったんだ。

思い出して力を失ったから、この身体はもうじき消える。」

「消えないで! プロキオン」

「消えるな! プロキオン。俺達せっかく、会えたのに!!」

と泣いて抱きしめるうららと聡に、プロキオンは頬にキスをして微笑んだ。



「大丈夫。おいらいつでも、うららと聡の側にいるから!」

と言い終わると、星くずになってサアッと流れて消えた。




―――それからしばらく経ち……



うららと聡は大人になり、結婚した。

2人の間には、可愛い女の子が生まれ名を天子と名づけた。

「天子~」

「天子ちゃん。こっち向いて~」

ベビーベッドに寝かされた、天子をうららと聡が呼ぶと。

天子は、小さなもみじのような手でうららと聡の指を握って、嬉しそうににこーっと笑った。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こいぬ座の神話は、切ないですよね。鹿狩りに行くところ、主人を待ち続けるところなど、神話を意識しつつアレンジされていると感じました。 その物語と、現代の登場人物とを重ね合わせながら描かれて…
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