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白い春

作者: 丹羽 優

無機質で、静かで、孤独。

この病院に入院して1週間が経つ。


19歳、夏。

私の体に病気が見つかった。

急性白血病というらしい。

退院できるまでに最低でも半年かかると先生は言った。

専門学校に入学して夢を追う私に、半年は大きすぎた。

周りの同級生と差がついていく焦り、不安。

怒りも、辛さも、寂しさも。

私は誰にもぶつけることが出来なかった。

きっとみんな一生懸命に毎日を生きていて、それに精一杯だから。

みんなの辛さを分かれないこと、

私の辛さを分かってもらえないことは少しだけ。

ほんの少しだけさみしかった。



入院して1ヶ月。

入院生活は想像よりずっと辛かった。

毎晩怖い夢を見て、朝起きると涙が溢れる。


でも、

辛いことばかりではなかった。

隣の部屋のお姉さん。

たまたま同じ病気で仲良くなった。励ましあった。

何度も助けてもらった。

「退院したら飲み行こうね!」

そう言ってくれたお姉さん。


2週間後、お姉さんは静かに息を引き取った。

人間案外、呆気なく死ぬんだ。

怖かった。きっと次は自分なんだって。



入院して2ヶ月。

入院前に短く切った髪。

随分軽くなったなと思っていたけど、気がつけばほとんど抜け落ちていた。


入院して3ヶ月。外は随分秋らしくなってきていた。

検査の結果が思わしくないらしい。

体重は8キロ落ちた。


入院して4ヶ月。

思うように起きられないことが増えた。

食欲も湧かない。

そんなある日、親と一緒に先生に呼び出された。

ー余命3ヶ月ー

頭が真っ白だった。

隣で母は泣いている。


20歳になれないまま死ぬんだ。


小さい頃からの夢だった水族館の飼育員。

海外に行ってみたいとか、あの人に会いたいとか。

私の夢は全部夢のまま終わる。


入院して5ヶ月が経とうとしていた。

ある日、私のスマホに1件のメールが届いた。

その男は木山良平と言った。

初恋の人だった。

フレンドリーでいつも明るくて、優しくて。

「元気してる?久しぶりに話したい。」

飛び跳ねるほど嬉しかった。

病気のことはきっと知らないだろう。


その日の夕方。

彼と電話をした。

家族や先生以外と話すのは久しぶりでどきどきした。

「友達から病気のこと、聞いた。」

胸がきゅっと苦しくなる。

「そうなんだ。ぜんっぜん大丈夫だよ!」

強がる私に

「今度、お見舞い行ってもいい?」

彼はそう言った。

誰とも会いたくないはずだった。

「時間あったら遊びに来て!」

気づいたらそう言っていた。


それから彼は何度もお見舞いに来てくれた。

もうすっかり冬になっている。

病室に来てくれる度、体調が良くなっているような気がした。

余命なんて、絶対嘘だ。



でも私の体はどんどん病気に侵された。

目を開けて、息をするだけで精一杯だった。

今日も彼は病室に来てくれる。

「じゃあ、また明日来るね」

病室を出る時、彼はいつも悲しそうに笑う。

私が無理をさせている。


入院して6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月。

死ぬまでのカウントダウンをしているようで辛かった。




初めて彼と会ったのは小学生の時。

中学も高校も同じで。彼はどんな時も笑顔だった。

そんな彼を見て私も、いつも笑っていたいと思うようになった。

きっと気づかないうちに何度も彼に助けられていたんだろうな。

また会うことが出来て良かった。

幸せだった。


彼の手が暖かい。

「出会えて幸せだったよ」

ー好きでしたー

心の中でそう呟いて目を閉じる。

桜の芽はまだ開きそうにない。


今日は珍しく雪が降っている。


白い春、私はそっと目を閉じた。


現実の私は恋をすることができないまま終わってしまうと思います。

次はもっと素敵な恋が出来ますように。

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