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前編

本作の主人公、遂に気づいたら『転生していた』と雑な転生をし始めました。

いや、これってもしかしたら『転移』の方かな?

 俺は相馬ユウト。

 ある日気が付いたら知らない世界に立っていた。

 そう、流行りの『異世界転生』という奴なのだが何というか雑な転生の仕方をしたものだ。

 例えば子どもを庇ってトラックに轢かれるとかもう少しドラマがある転生をしたかったものだ。

 

 前世では飛びぬけて高い能力とかは無かった俺なのだが転生にあたって基礎的な身体能力はアップしていた。

 もしかしたら記憶にないだけで神様みたいな存在とのやり取りとかがあったのかもしれない。


 こうして俺はこの中世ヨーロッパ風の異世界で『冒険者』として生きることになった。

 中世ヨーロッパと言ってもあくまで『風』である。

 何せ上下水道は結構きちんと整備されており流通もしっかりとしている。

 どうも転生者というのは結構多いらしく、様々な文化が輸入されていた。

 この前なんか、高級住宅街の一角で壁に大根っぽい野菜を干している謎の家があった。

 多分あそこには日本人が住んでいるが今の所、接点はない。

 

 スマホなどの電子製品などは無いので多少の不便さはあったがそれなりに生活は出来ている。

 こうして俺は冒険者となり仲間を集め、ダンジョンなんかに潜り素材やお宝を集め売る事で生計を立てている毎日を送っていた。

 そんなある日の事である。


「おいおい、これって……」


 とあるダンジョンの宝箱を開いた時、奇妙なものを見つけた。

 何か茶色でごつごつした……その、ジャガイモ的な物体。


「ユウト、知らないのか?これは『ジャガイモ』って農作物だぞ?」


 リーダーである男性剣士が教えてくれた。

 どうやら思った通り、『ジャガイモ』らしい。


「いや、知ってたけど……何でジャガイモがこんな所にあるんだ?」


「さあな。だけどそれ遺産(レリック)アイテムだからな」


 ジャガイモがレアアイテム扱いの遺産(レリック)

 前世じゃあスーパーとかで袋200円程で売られているのに? 

 それにしても、『ジャガイモ』かぁ。

 ファンタジー世界に登場すると論争の的となるという物質だ。

 命名についてだとか文化的にどうだとか色々とツッコむところがあるらしい。


「まあ、遺産アイテムとは言えランクは最低クラスのEだ。特殊な効果とかも無いからな。だが、どうも宝箱とかからしか出て来ないらしい」


 非常に謎である。そもそもダンジョンで定期的に復活する宝箱システムも中々に謎なものがあるのだが、周囲の人に聞くと『そういうもの』らしい。何て雑な!!


「使い道と言えば換金するとちょっとした小遣い稼ぎになるくらいかな?それはお前にやるよ」


「そ、そうなのか……」


 ジャガイモが換金アイテムで小遣い稼ぎになる?

 異世界っていうのはわからないものだな。



 ダンジョンから戻った俺はジュラスさんに教えてもらった場所を訪れた。

 郊外にある『リーゼ商会農業研究所』という建物であった。

 『リーゼ商会』はこの国で様々な事業展開を行っている商会で冒険者御用達のお店にも大体が絡んでいる。

 取り扱っている商品には『あんぱん』とかもあるのでここにも俺みたいな転生者が内部に居るのではないかと考えている。

 ある程度冒険者としての実績を積んだらそっちに就職とかできないだろうか?

 

 そんな事を考えながら研究所に入ると金色の髪を青いリボンで束ねた若い女性が鈍器の様なもので何かを一心不乱に砕いていた。

 ただ顔にはガスマスクの様なものをつけていて明らかに普通ではない。

 来るところを間違えた感がある。マズイ。絶対ヤバイ人じゃんこれ。

 後ずさりをして逃げようとすると女性がこちらに気づき振り返る。


「ひっ!?」


「何か御用でしょうか?もしや強盗様?そうでしたらきっちりと歓迎してさしあげなければなりませんわね」


 出来れば歓迎して欲しくない。

 手には持つ鈍器はよく見るとごついメイスだ。


「あ、いえ何というか……ご、強盗では無いんです。はい。本当です。本当ですから!!」


 焦っているとメイスをぶんぶん振りながらガスマスク女がこちらに近づいてくる。

 ヤバイ、これは命を取られるパターンだ。冒険者として多少は腕に覚えがあるものの……勝てる気がしない。


「あら、あなた様が手に持っているその袋……中身はもしや」


 女性は俺が持っている袋に気づくとメイスを降ろしガスマスクを外す。

 ガスマスクの下から出て来た女性は思わず見惚れてしまう程の美人であった。


「もしや『ジャガイモ』の換金に来られたのでしょうか?」


「え?あ、ああ。そうです。ダンジョンで見つけまして……」


 女性の顔がぱーっと明るくなる。うん、ちょっとかわいい。

 彼女の態度は一気に軟化し俺は奥の部屋へと通されることとなった。

 渡された名刺には『リーゼ商会農作物研究員 レム・ミアガラッハ・リュシトーエ』と書かれていた。

 確かこの世界では日本と同じく姓+名前の順に読むので彼女はレムという家のリュシトーエさんというわけか。


「家族は『リム』と呼んでおります。そちらでお呼びいただいて構いませんわ」


 そして女性は俺が持ってきたジャガイモをしげしげと眺め、臭いをかいだり軽く叩いてみたりしている。


「まぁ、これは見事なジャガイモですね。そうですね、3個で……6000ゴルトで買い取らせていただきましょうか」


「えぇ!?ろ、ろくせんっ!?」


 この国の通貨単位は『ゴルト』。レート的には1ゴルトはほぼ1円くらいの価値である。

 つまりジャガイモなのに1個が2000円程度の価値がつけられたことになる。。


「あら、安過ぎましたでしょうか?」


「い、いや逆なんだけど……」


 どうしよう。何だか詐欺を働いている気分だ。


「そうなんですの?ジャガイモはダンジョンでしか取れない希少な遺産(レリック)ですからこれくらいは相場ですわよ?」


 まさかの希少化。

 『ジャガイモ、異世界行ったらレアアイテムになったってよ』と大出世である。


「あのさ、ちょっと興味本位で聞くんだけど。このジャガイモを買い取って君はどうするの?」


「あら、興味がおありなんですね。換金される方々は皆、お金さえ貰ったら後は知らないと帰っていくものなので実に杜松らしい。ええ、いいでしょう。実は私、ジャガイモを研究し栽培を夢見ているのです」


「はい?」


「ジャガイモというのは栄養価も高く栽培が成功すれば食文化に新たな革命を巻き起こすことは間違いありません」


「いや、伝承って……ジャガイモなんて簡単に栽培できるものじゃないのか?」


 確か小学校の時に栽培した気がする。栽培難易度は決して高いものではないはずだ。

 するとこれまで穏やかだったリムの眉が急に吊り上がり目に怒りの炎が灯る。


「簡単!?何と無知な!簡単だというのならば幼少より研究を重ねてきた私が未だに栽培の成功に至っていないのはおかしいでは無いですか!!」


 ヤバイ、どうやら触れてはいけない所に触れてしまったらしい。


「ご、ごめ……」


「そこまで言うならお見せしましょう!!」


 リムは棚へと走るとそこから何かを取り出し持ってきた。

 表面が真っ白なジャガイモだ。いや、こんなジャガイモは見たことが無いな。


「これは?」


「手に入れたジャガイモを埋めて栽培した結果ですわ。様々な肥料を試してみたのですが結局はこの『ジャロタ芋』に変異してしまうのです」


「ジャロタ芋?」


「ご存じないのですか?ジャロタ芋はこの世界で採れる根菜ですわ。ただし、ジャガイモと違って病気に弱いし、それ程美味しくないのが欠点なのです。だから一般にはあまり出回っていませんでしょう?」


 この世界に来て2年になるが確かに飲食店でもジャロタ芋料理とかは見たことが無い。


「美味しくないって事は食用に適していないのかい?」


「正確には『特定の条件』を持つ人間には美味な食べ物ですの。その条件とは『魔力が高い』こと。なのでジャロタ芋は魔法使いの好物ですの。ウチの姉もよくフライにして食べています。ですが魔力が低い一般の方にとってはもさもさした食感で好まれるような食材ではありません」


 食べる人の魔力量によって味が変わる食材というのは面白いな。

 

「あれ?そう言えば君ってさっき『この世界で』って言ってたよね?それはつまり『別の世界』を知っていることになるのかな?」


「ええ。私の父親は『転生者』ですのでね」


「ああ、なるほど」


 転生者と現地女性の間に生まれたハーフという事か。


「私の父は野菜が好きでしてね。幼い頃から異世界の野菜文化について色々教えてくれたのです。ラディヴァナを干して作ったタクワーンなんかは作り方の特許も取っていますのよ?」


 ラディヴァナとは大根みたいな形をした野菜である。

 そしてタクワーンは当然、『たくあん』。どうもこの世界の人達が聞き間違えてそれが定着した様子だ。

 

「我が家では昔から家の壁にラディヴァナを吊るして自家製のタクワーンを作っているのです。父様の趣味ですわ」


 壁に大根を吊るしている?

 もしかして高級住宅街に建ってるあの『変な家』の事か!?

 なるほど。あの家の娘か……

 

「幼い頃、ダンジョンで見つけたジャガイモを父様が料理して食べさせてくれた事があります。その芳醇な味に私は心を奪われてしまいました」


 ジャガイモが芳醇な味?

 考えた事も無かったが初めて食べた彼女の感想はそうなのだろう。


「土いじりが趣味で会った私は決心しました。このジャガイモを栽培しより多くの人々に味を知って貰おうと。そこで様々な野菜の品種改良をする傍、ジャガイモの栽培を長年試みてきたわけですが……」


「どう栽培しようとジャロタ芋に変異してしまうって事か」


 リムはため息をつきながら頷く。


「色々試したのですがいつも失敗するのです。次はドラゴンの骨を砕いて肥料にしようとしていたのですが正直上手くいく自信はありません」


 ドラゴンの骨をメイスで砕くとか色々とツッコミたいところはあるがそうか、彼女はジャガイモに対し真剣に向き合っているという事か。

 ジャガイモと真剣に向き合うとか冷静に考えたら妙な気がするが彼女の真剣な表情を見ているとその気持ちが伝わってきた。

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