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なあ

 「オタク」に「メタボ」、「ガリ勉」と「悪戯小僧」。

人から痛い目で見られる僕達は皆それぞれ、その属性に属している。

―――――――――そして僕達は、唯一無二の親友同士。おっさんになった今でも。




~~~~~~~~~~~~~


 僕たちの出会いを語るため、23年程、時を遡る。


 あれは高校入学のとき。僕達は新しい学校、クラスに馴染めていなかった。

何故か? それもこれも全て、自己紹介がきっかけだった。

担任が 「自分の趣味を絶対言うように」 とかほざいたせいだ。

きっと普通の人には容易いことだろう。

でも、僕の趣味は…二次元全般。 こんなことを公にしては、オタクだ、気持ち悪! とドン引きされるに違いない。

それに、僕(後の「オタク」)はとにかく人付き合いが悪い。コミュ障ではなく、単に苦手なのだ。

そんな僕にとって、自己紹介は最大級の難関。もう東大レベルと言っても過言ではない。

名前を言って、よろしくお願いします。この鉄板でどうにかしてきたのに、なにこれ。

周りの奴らは「○○です。趣味は○○で、部活は○○でした。」

とか言いやがるしよぉ! これで言わないとか無理すぎんだろぉぉ!

それに部活入ってなかったしよおぉぉぉ!

ブラックホールに吸い込まれるように気が遠のく。最悪の高校スタート…。そんな予感しかしない。

延々と心で嘆いていると、前席の奴(後のデブ)の声が聞こえてくる。

って、次僕じゃん! ど、どうしよう… 

まず、現時点で自己紹介を失敗している人はいない。

こいつに望みを賭けるしか無い…

そう思った矢先、気が付くと前席の奴がしくじっていた。

あ、僕の運ここで使い切ったな。


「木村龍太郎です。趣味は、クーポン券集めです…。 よろしくお願いします…」


 周りからクスクス笑いが聞こえる。それも無理はない。

龍太郎とかいう名前で、めちゃくちゃデブなんだもん。こいつ。それにクーポン集め…。

よく言えたな、そんなアホなこと。まさに最高のミスマッチ。

でも、僕は笑わないぜ。紳士だからな。

そして、僕が龍太郎を見ていると、ふと目があった。

太陽光や蛍光灯の光が反射する目、雫が滴っているかの如し。カッコつけ過ぎたか。

でも真面目な話、龍太郎は涙目だった…。

それも無理もない。痛すぎるよな。僕と同じタイプな気がする。ていうか次、僕だよな。くそっ早いっ!ていうか、みんな僕の方見てる!

その眼差しを止めろ! あぁぁっ!おかしくなる! も~~~!!!龍太郎!

闇雲に突っ走るように僕は椅子を引き、みんなの方を向いて、口を開く。



「僕は、佐山壮大です。趣味はアニメ鑑賞で、好きなアニメはアイ○○マスター、あとゲームも好きです。 ラブプラスとか、ドラクエとか。よろしくお願いします。」


クラスのみんなの顔が、血の気が引くように青ざめていくが、僕の顔は燃えるように赤く染まっていく。


 う…… うわぁああああぁああああぁああああああああああぁ!!!!!

何やってんだ僕! 衝動に駆られて理性失ってんじゃねえよ!

明らかに根暗そうな僕が、アニメとか趣味だって言ったらそりゃダメだろ!

でも、やっちまった…!。くそっ!龍太郎があんな目するから!ドン引きじゃねえか!

ていうか龍太郎まだ僕の方見てるし!

四方八方グルグル回っていた目が、龍太郎に移る。

何だか彼の目は明るさを取り戻しているように見える。

ていうか、なんだその目。嬉しそうだなおい!

はぁ…。結果オーライ、オーライ…。 ぐすん。


…そして流れるように自己紹介という刑罰は続き、気がつけば終わってしまっていた。



~~~~~~~~~~



 地獄の刑罰から1週間。僕と、龍太郎、それに他の2人(後の「ガリ勉」と「悪戯小僧」)

は荒海の中の孤島に化していた。登下校中は明らかに避けられ、席を立つだけで噂が立つ。

もちろん自己紹介が原因。他の2人が何をやらかしたかは分からないが。

それぞれに付けられた仇名は「オタク」、「デブ」、「ガリ勉」、「悪戯小僧」。

確かに特徴を射ていることは認めよう。でも、人権を無視している。

少し趣味が違うだけでこんな扱い…。下衆どもめ。


「え~? マジ~? 最悪ぅぅ~。 オタクがあたしのこと好きなの~?」

「うっわ~、マジどんまい~。 あんたツイてないね~」


 気が付くと、周りの女子生徒が有りもしないことを出しゃばっていた。

聞きたくなくても自然に耳に入ってくる。そして、それに反応して僕の眉間にシワが寄る。

そういえば最近、そういう類の言葉をよく聞く気がする。

しかも、それが段々エスカレートしてきているようにも感じる。

なんだと? お前みたいな女誰が好きになるか。考えただけで寒気がするわ。

また女子生徒が何かをほざく。


「もう存在価値を探すのが無理だよね~」

「まさにその通り!死んじゃったほうが楽だよ~」

「ハハハ! やめなって~ 泣いちゃうよ~」


 僕の眉間のしわがさらに深くなる。

誰が泣くか。ふざけんなよ。死ぬとか存在価値がないとか…。

お前らの方が存在価値ないじゃないか。人権を無視して、虐めて。


…プッツン。


 きっとこの言葉が相応しい。「堪忍袋の緒が切れた」だ。

僕だって嫌なことはあるんだ。それにもう、僕の怒りは最高潮だ。

確かに、人付き合いは悪いし、オタクだし。でも。今までこんな事をされたことはなかった。

何なんだよ……。あいつらに教えてやる。正しいコミュニケーションを。

それで例え、嫌われても最初から嫌われてたんだし、構わない。

それに僕の方が正しいじゃないか。どこが間違っている?


 怒りに身を任せ、机をドン、と殴る。漫画みたいな音は出ずに、ただ手が痛い。

それに、周りは一切、見向きもしない。無駄だったというのか。ちっ…。

やむを得ず、大きな音を出して席を立ち、女子生徒の方に向かう。


……

 女子生徒共が僕を見上げる。いい気味だ。

嗚呼、一刻も早く自分の席に帰りたい。でも、教えなければならないのだ。協調性ってやつを。

それこそ我が天命なのだ。神よ、我に力を!

感情に身を任せ、口を開く。


「やめろ… そんな事思ってないし… 勝手に言うな…」


これが僕の精一杯。十分すぎる。

女子生徒共は互いに顔を見合い、一気に吹き出す。


「アハハハハ!!! なにオタクちょーキモいんですけど~~!!」

「マジ納得ー! 中2病すぎるんですけど~!」


 僕の拳に力が入り、さらに目つきが険悪になる。

そして再び、クソ女共に口を開こうとする。

今度こそ納得させてやる。僕が正しいんだ! ってあれ…? 暗くない?

気が付けば、僕の体を覆うように影がかかっている。

顔を上げると、一目瞭然。身長の高い金髪のイケメンが1人、僕の前に立ちはだかっていたからだ。

や、やばい…。


「おいオタク野郎! てめー何俺の女汚そうとしてんだ! ゴラァ!」

「キャー!! カッコイイー!!」


 男が怒鳴った瞬間、女子が騒ぎ出す。こいつの何が良いんだか、全く分からない。

僕は愕然とし、その場に立ち尽くす。膝が揺れてんのは怖いからじゃないし。準備運動だし。

反抗しようと口を開いた途端、顔を潰され、鼻めがけてパンチを入れられる。何発も、何発も。

男に一切の躊躇は見られない。

 

「ゲボッ グゥゥ」

「うっわーキッもー!」

「ってサイアク! 唾飛んできたー!」


僕は後方に大きくぶっ飛ぶ。そんな僕を追い、男が腹にケリを何発も入れる。


「おらっおらっ!」

「や…めて…」

「『下さい』だろぉ!」


 男による暴行は10分間にも及んだ。

僕の顔には青タンができ、鼻があらぬ方向へ曲がってしまい、

腹には蹴られた痣が浮かんでいた。

とてつもなく辛い。息をすることすら辛い…。生き地獄とはこういうことなのか。

ていうか何でこんなことになってんだよ。間違ってんのはあっちなのに。

屈辱に暮れる僕の頬を、幾度となく涙が伝う。


「フン。二度と俺の女に近づくなよ、オタク。お前ら、行こーぜ」


 男が最後に言ったセリフを潮時に、女共も他の男も教室から抜け出す。

僕は依然、床にへばりついたまま。

辺りに響き渡る沈黙。クラスにいるのは僕を含めた嫌われ者4人だけ。

終いには、その3人すら席を立ち、移動し始めた。

え……。こいつらグループだったのかよ。なんだよ、こいつらにも嫌われてたのかよ。

僕だけじゃないってのが励みだったのに…。何で僕だけが孤独なんだよ…。


――――――――――――違った。

確かに3人は移動したが、教室から出た訳じゃなかった。

床を見てて気がつかなかったが、3人は僕の周りに集まっていたのだ。

そしてそのまま、2人は僕の肩に手を回し、1人は僕に話しかけてくる。龍太郎だ。


「あ、あの… 壮大くん大丈夫?」


続くように、悪戯小僧とガリ勉が話しかけてくる。


「お前すげえな。俺たちにあんな勇気ないよ。」

「たしかに、君は勇気あるよ。でも、いくらこのままでは気が済まないよね。

 放課後、僕たちと一緒に来てくれない? 提案があるんだけど、迷惑?」


突然の出来事に困惑する。それも良い意味で。

漫画みたいだ。一瞬で僕の周りに人が集まった。

僕の心を理解してくれる人が。今までこんなことは無かった。

でも……信じていいのか? 僕なんかに優しくしてきて。


「あ…あの…さ、な、なに考えてるの?」


思わず口が滑ってしまった。

失礼だったかな……。でも、ちょっとぐらい聞いても……。


「ん?んーー…… まぁ、それ俺ら以外に聞かれたら作戦失敗なんだよね。

 今は君が必要だからぶっちゃけてるんだけど。もしかして、からかってるとか思ってる?」

「ううん!そ、そんなことない!」


 きっとこの人達の言葉は本音だ。そう信じられる。いや、信じよう。嬉しい。人生で初めてだ…!

僕みたいな奴にも優しくしてくれる人がいるんだ! 

涙が嬉し涙に変わる。そして、笑みを浮かべつつ、口を開く。


「全然迷惑じゃない! 一緒に行こう!」

「ははっ! 凄い変わりようじゃん。お前のこと根暗だと思ってたけど違ったわ。すまん!」


 漫画みたいな僕たちの出会い。

そして、僕の人付き合いの悪さとの別れ。




~~~~~~~~~~~





そう

 悪戯小僧がオタクとメタボ、ガリ勉に言い放つ。は?なにこいつ、中2病??

と思われるのが普通だろうが、僕たちはそれに共感し結託した。

 ーーーあれは高校入学から3ヶ月。僕達は新しい学校、クラスに馴染めてーーーーーーいなかった。




 

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