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【完結】そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?  作者: 氷雨そら
望まれない結婚ではないのですか。旦那様?
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第六話 弱体化しちゃいます。旦那様?



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 リーフェン公爵は夜遅くに帰ってきた。私は先に食事を済ませて、でも起きて待っていた。


 ――――あの頃みたいに、一緒に食事ができたらいいのに。


「ただいま。起きて待っていたのか」


 出迎えると、初日のように冷たい印象に戻ってしまったリーフェン公爵が開口一番そう言った。


「迷惑でしたか……」


 ――――そうよね。お飾りの夫婦なのに、出しゃばってしまったかもしれない。シュンとしてしまった私を見たリーフェン公爵が「いや、うれしいよ」と言った。気を遣わせてしまったらしい。そういうところは、幼馴染だったころから変わることなく律儀だと思う。


「――――食事、食べたのか」


「ええ、先に頂きました。旦那様も召し上がってください」


「奥様がお作りになったんですよ」


 執事長のフォードが余計なことを言う。だって、暇だったから。リーフェン公爵のために、料理するのが楽しくて、一品だけのつもりがついたくさん作ってしまったのはヒミツだ。


 それに、少しなら私も生活魔法が使える。私のせいで、便利な魔法の恩恵を受けられない従業員のために、手伝うのは当然のことだと思う。


「お風呂の用意も奥様がされました」


「ちょ、それは言わないでって言ったのに!」


 さすがに、公爵家の夫人が使用人みたいなことをしているなんて、絶対よく思われないだろう。それなのにフォードったら口が軽いのかしら。


 あまり目を見ないようにしていたのに、ついついリーフェン公爵の顔を窺い見てしまった。なぜか、リーフェン公爵はさも楽しいとでもいうような笑顔だった。


「――――らしいな」


「え?」


「そういうところ、君らしくて変わってない」


 思わず見つめてしまった。また、魔力が私の方に流れてくるのを感じて焦る。でも、その魔力はいつもに比べるととても少ないものだった。


「――――大丈夫。陛下から強奪してきた魔力を抑える魔道具をつけているから少しぐらいなら問題ないから」


「……え?」


 ――――それって、魔力の強い犯罪者に着ける魔道具じゃないのですか? 自分ですぐ外せないはず。焦った私は、思わずリーフェン公爵の腕に縋りつく。


「ど、どうして! すぐに外してきてもらってください! 襲われたりしたら、実力出しきれないんですよ?」


「――――もっと早く、こうすれば良かった。こんな方法だってあったんだ……それなのに」


 なぜか責めるようにリーフェン公爵が私を見つめた。たしかに、魔力を抑えていれば私の魔眼の影響は最小限に出来るのかもしれない。


「大丈夫。俺は剣だけだって誰にも負けない。ルティアはそのこと良く知っているはずだけれど?」


 確かに、幼馴染は剣だけでも誰よりも強かった。リーフェン公爵としてだって魔法を使わない王国の大会で優勝したことがある。それでも、力は強いほどいい。何が起こるかなんて、だれにもわからないんだから。


 ――――幼馴染がこちらを見て微笑んだ。あの、絶望的な瞬間を思い出す。


「でも、すぐ外せないなんて……危ないです」


「そうだね。ルティアの傍にいる時だけつけておくと約束する」


 嬉しそうな様子のリーフェン公爵を見て、私はそれ以上何も言えなくなってしまった。嬉しさと、もしかしたら、こんな方法を選べたのかもしれないという前世への後悔とで私の胸は押しつぶされそうになった。


 それに、どちらにしても私がそばにいる間、条件を満たさない限りはリーフェン公爵の魔力を吸い続けてしまうのだ。


 魔道具であれば、外しさえすれば自由に魔法を使うことができる。その方が良いかもしれないと私は思い直すことにした。


「――――食事を食べた後に、お湯も頂くよ。ありがとう、ルティア」


「いえ……これくらいしか役に立たないですから」


 私は社交界に出ることもできない魔眼の持ち主だ。公爵家の夫人としての役割を半分も果たすことができない。そうだ、これからはせめて書類仕事くらいは出来るようにしよう。幸い計算も帳簿つけも得意な方だ。


「それから、今度から食事は一緒に摂るようにしよう。できるだけ早く帰るから待っていてほしい……」


「え? そんなの旦那様の負担に」


「魔道具さえつけていれば問題ない。――――もう決めたことだ」


 ――――うん。こうなった時は幼馴染は絶対に譲らない。普段は『君が決めたらいい』と優し気に微笑みながら言うだけなのに。特に私のことになると、時々とても頑固だった。


「わかりました。では、朝食と夕食は一緒に食べましょう」


 そう言うと、リーフェン公爵は破顔した。その笑顔は幼く見えて、まるで幼馴染が目の前にいてあの幸せな時間に戻ったように錯覚した。



最後までご覧いただきありがとうございました。


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