瞳の色の腕輪に口づけを。
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「これ、受け取ってくれないかな」
幼馴染の美しい金色の瞳は、太陽がとてもよく似合う。光を受けると、もう一つの太陽みたいにきらきらと輝くから。
「もうすぐ十五歳になるから……。誰かに先を越されると困る。本当は成人の儀でどんな力を持っているのか調べてもらってから渡すのが決まりだけど」
そういって、キースがアンナに差し出したのは、金色の石がはめられた腕輪だった。
自分の瞳の色の装飾品を相手に渡すのは、求婚の意味を持つ。そして、15歳の時に、自分の能力を調べてもらった後、愛しい人にこの腕輪を渡すのが習わしだった。
村中の人間が、キースが私に腕輪を渡すだろうと言っていた。
「アンナは可愛いから、狙っている人間が多いんだ。でも、俺にはアンナしかいない。だから、少しズルいけど抜け駆けさせて」
「――――っ」
「アンナ……受け取って、くれないかな」
私の赤い瞳から、透明な滴が流れ落ちる。
「――――本当に、私でいいの?」
キースは剣の腕が高く、もしかしたら魔術師からの判定を受けてさらに能力が高いことが分かれば王都の騎士にだってなれるって言われている。対して私は、少し回復魔法が使えるだけ。
たしかに、この村には魔法が使える人間がいないから重宝されているけれど、王都に行けばもっと力を持っていて、もっと美しい女性がたくさんいるに違いない。
「アンナしかいない」
幼馴染の気持ちがうれしくて、大事に腕輪をもつと、左の手首にそっとはめた。
「――――もう絶対に外さない」
「――――うん。外さないで」
二人は笑顔で向かい合う。それは、二人がまだ大人になる前の二人だけの秘密の約束だった。
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その言葉通り、アンナはその腕輪を外すこと、それだけはどうしても出来なかった。
そして、夢から覚めた私はそんな思い出に少しだけ胸を痛めながら、そして少しだけ頬を染めながら小さな小箱を手にする。
あの時、本当はアンナも赤い色の石がはめられた腕輪を用意していたのだ。15歳のあの日。儀式が終わった時に渡そうと心に決めていた。
その腕輪は、ディル様と共に村を離れる時に置いてきてしまったのだけれど。
今、そっくりに作ってもらった腕輪は私の手の中にある。
――――喜んでくれるだろうか。
でも、それについては自信を持ってしまっている少し傲慢な自分に笑う。
リーフェン公爵は、確実に喜んでくれるに違いない。
「旦那様」
「――――ルティア? 嬉しそうだね。どうしたの」
「誕生日ですから……贈り物を用意したんですよ」
箱から出した腕輪を、そっとリーフェン公爵の腕にはめる。
「以前にもひとつ用意していたのですけど、もう手元にはありませんから」
「――――ありがとう、渡していいものか悩んでいたんだけど、実は俺も用意していたんだ」
誕生日の贈り物なのに、なぜかリーフェン公爵は執務室の机から小箱を持って戻ってきた。
「別々に作ったはずなのに、あの時と同じデザインだからお揃いになっているね」
そう言って眉を寄せて少し瞳を潤ませたリーフェン公爵が、私にも腕輪をはめてくれる。
私とアンナが用意した腕輪二つとも、キースがくれた腕輪のデザインを模したもの。
そして、リーフェン公爵が用意してくれていたのは、キースがくれた腕輪のデザインと同じもの。
ずいぶん時間が掛かったけれど、私たちはようやくお互いの手首に約束の腕輪をはめることを叶えた。その腕輪に込めた願い事は、すでに叶っているけれど。
その幸せに感謝して、私は金の石に以前のようにそっと愛をこめて口づけた。
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