第三十八話 最強か戦力ダウンかどっちですか。旦那さま?
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リーフェン公爵から、魔眼の力について説明を受けた。
どうして、そういう大事なことを、実行してしまう前に言わないのか。
元幼馴染の暴挙に今日も頭が痛くなる。
「――――俺が、魔眼の力が欲しかったからだって思わないで」
それなのに、とても不安そうに瞳を揺らして私のことを見つめるリーフェン公爵の心配は、やっぱり少しずれていた。
――――あんな目で見つめられて、あんなに甘い言葉をささやかれたら、むしろ魔眼のためだけだって思うなんて難しいように思うのだけれど。
どんどん熱を持ち始めた頬を隠すように、リーフェン公爵の胸に顔を埋める。
魔眼に魅入られた存在は、魔眼を介し、周囲全ての魔力を自分の力として行使することができる。
――――剣技も一流のリーフェン公爵は、名実共に最強だ。たしかに、聖なる瞳の乙女の加護を受けし者って名乗っても、恥ずかしくないのかもしれない。いや恥ずかしい。
そして、同時に魔眼に魅入られた存在は魔眼を持つ存在からいったん離れてしまえば、自身の魔力を持たない。だって、私の中にリーフェン公爵の魔力はあるから。
つまり、私と一緒にいなければ、リーフェン公爵はもう魔法を使うことができない。
その一流の剣技をさらに高次元のものとしていた、身体強化も。すべての魔法や攻撃を防ぐ絶対防御とも称される魔法障壁も。
「戦力ダウン甚だしいです。旦那さま?」
「大丈夫。ルティアと一緒にいれば、今までよりもずっと強いから」
「――――そういう問題ですか?」
「すぐ俺のことを思って離れて行ってしまうルティアを縛るのには、それくらいがちょうどいい」
そんなことを言ったのは、リーフェン公爵なりの冗談だったのだろうか。
冗談とは思えないほどの、良い笑顔をするリーフェン公爵を見ていると、本気で言っているように思えてしまう。
あの朝から私の中で、リーフェン公爵の魔力と私の魔力が混ざってしまっているように感じていた理由がようやく理解できた。
「……私が裏切ったらどうするんですか」
「裏切られたら? こんな制約があってもなくてもルティアと離れてなんて、もう生きていられないから何ひとつ変わらない。そもそもルティアは俺のことを裏切ったりしない」
――――それは! 絶対に裏切ったりしませんけど!?
「それより、俺が戦う時にそばにいてもらう必要がある。――――そうか、勝手に決めて悪かった。安全な場所にいてくれた方が良いな。まあ、俺が魔法なんか使わなくても最強なことルティアなら……うぐ?」
口で言っても伝わらない、悪い口は塞いでしまうに限る。
「私のこと置いて行ったら、永遠に許しません」
「そうか、それは怖いな」
リーフェン公爵は、少し笑って私のことを強く抱きしめた。
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