第三十四話 囚われの魔女。
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幸せな夢から目が覚めた。
「あの金色の瞳の中に、私が映っていた」
そこで私は、キースと同じ金色の瞳をした人を、真っすぐ見つめていた。
キースの瞳の中に、私が映っているのを見るのが好きだった。
もう、私には叶わない……どんなに願っても。
目覚めた場所は、冷たい床の地下牢だった。
敵からも味方からもすべての魔力を奪った結果、軍法会議で私は魔女であると糾弾された。
そして、そのままこの場所に捕らえられた。
――――それでも、戦争は終わったらしい。
そして、キースとともに戦争の終結に尽力したディル様とその部隊は、キースとともに英雄として凱旋したという。そのことだけは、私を捕らえた騎士の一人がそっと教えてくれた。
「良かった」
心から、そう思った。
ディル様たちが、もしも私と一緒に処罰されてしまったらと、それだけが不安だったから。
内臓に鈍い痛みが走る。たしかに、あの瞬間、キースのことを回復できたはず。
でも、キースはあの致命傷が回復した直後から、再び戦いに身を投じたと聞いている。
――――どうして、そんな無茶をするの。
回復魔法の限界点を越えて、生き残っている人の話は聞いたことがない。
「生きて……幸せになってほしい」
戦場で、私を守るために最前線、それも魔眼の及ぶ範囲で戦っていたキース。
目が合った瞬間、自分が危険に晒されるのがわかっていて、その瞳を逸らすこともなく私に微笑みかけたキースが、この場所に私が捕らえられたことに黙って何もしないなんて考えにくかった。
その時、錆びた錠を開ける音がして振り返る。
そこには、魔術師を表すローブを纏った男性が立っていた。
「お久しぶりですね。アンナ嬢」
「――――あなたは?」
「お会いするのは二度目ですよ? ……あなたの魔眼の力を貰い受けに来ました」
「……魔眼の力を?」
魔眼の力を……貰い受ける?
意味が分からずに、その人の顔を見つめる。それに、初対面ではないと言った。
「あの時の……魔術師」
思い出したくなかった、あの15歳の日。私の瞳が魔眼だと告げた魔術師。
「あれから、魔眼についてずっと調べていたんですよ」
恍惚とした表情のまま、私のことを見つめてくる魔術師の男。
以前はあんなに恐れていた私の魔眼が、その魔力を吸い取っているというのに、そのことを今は気にもしていないみたいだった。
「あなたの魔眼は、魔力を持つ者から魔力を奪い去る。しかし、例外があることが分かったんです」
「例外?」
「そうですよ? 魔眼に魅入られた存在。それは、この王国では忌むべき禁忌とされている。それでも、その力は絶大だ」
魔術師の男が私の傍に近づいてきた。
魔力が吸い取られているにもかかわらず、私の瞳を見つめ続ける姿に恐ろしさを感じた。
「私の妻になると良い。貴女をこの場所から、助け出してあげましょう」
「妻に……?」
強く手首を掴まれて、小さく体が震える。
私は、あの人以外の妻になんてなりたくない。
「――――残念。そろそろ、魔力の限界が近いみたいです。近いうちにまた、お会いしましょう?」
そう言って去っていく魔術師の姿をぼんやりと見つめる。
まるで、思考に霞がかかってしまったようにうまく考えがまとまらない。
もしも、本当に魔眼の力を相手に与えるすべがあると言うのなら。
もし、それがこんな風になる前に分かっていたなら。
また一人になった地下牢の中で、私は再び回復魔法の過剰な行使のせいで、ひどく痛む体を横たえた。
「キース……」
――――もう一度、あの夢の中であなたと同じ金色の瞳を真っすぐ見つめたいな。
少し朦朧とする意識の中、ただそれだけが浮かんで消えていった。
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