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騎士長とお出掛けしてきますね。旦那様?



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 最近、王都では黒いフード付きのローブが流行っているらしい。


「えっ、冗談でしょ?」


「いいえ、本当です奥様。だって、昨日街に買い出しに行ったら、黒いローブの女性で溢れていましたもの」


 そんなことを言う侍女のリンは、なぜか誇らしそうだ。

 聖なる瞳の乙女シリーズの大ヒットにより、なぜが流行ってしまったらしい黒いローブ。

 おしゃれのためにしているわけではないのだけれど?


 ――――あれ? でもこれって。


 私は、あふれ出す欲求を抑えることができない。だって、黒いローブが流行っているということは、私が街に出ても目立たないということだ。


「そう……。あ、そういえば明日、神殿から呼び出しを受けているの。黒いローブとドレスを用意しておいてね?」


 これは嘘ではない。聖なる瞳の乙女として、神殿に招待されているのだ。

 むしろ今まで、魔女なんて言われて討伐対象だったのが嘘みたいだ。


 リーフェン公爵は、どうしても外せない用事で、一緒に行くことができないらしい。今回は、ミスミ騎士長が護衛についてくれる。


 ――――旦那様が一緒だと、目立ってしまうけれど、ミスミ騎士長なら普段着を着て貰えば目立たないはずだわ。


 もちろん、ミスミ騎士長は、物凄くかっこいい。でも、その瞳や髪は亜麻色の一般的なものだ。少しくらい、羽を伸ばしたっていいだろう。


 ――――明日、騎士服ではなく通常の服で来てくれるようにお願いしよう!


 しかし私は、そんな気楽な考えが甘かったのだと思い知ることになる。幼馴染の私に対する執着について、認識が完全に甘かったのだ。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎




 なぜが、当日現れたミスミ騎士長は、黒いローブを着ていた。


「あの。どうしてそんな格好?」


「えーと……、いや。お揃いがいいかと」


 ミスミ騎士長が不思議なことを言う。


「そ、そうですか?」


 ミスミ騎士長まで、謎の流行に乗らなくてもいいのに。私は不思議に思ったが、それ以上気にすることはなかった。


「ところで、少し声が聞き取りづらい気が? 風邪でも引いたんですか?」


「いや……。ゴホッ。少し?」


 ミスミ騎士長の様子が少しおかしい。風邪を引いているからだろうか?


「えっと、無理しないでください? 神殿の用事終わったらすぐ帰りましょうか」


 とても残念だけれど、ミスミ騎士長の体調の方が大事に決まっている。


「あっ。いや! ぜひご一緒したいです! ご一緒させてください」


「そう、ですか? 無理したら嫌ですよ? また機会はあると思いますから」


「いえ……。一緒に行きたいです。行きたいですよね? いや、あとが怖いのでご一緒させてください」


「――――? そうですか?」


 とりあえず、付き合ってくれると言うなら、街歩きはぜひしてみたい。

 生まれ変わってからというもの、まだ街に出るという経験をしていない私としては、なんとしても出かけてみたいのだ。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 神殿では、ミスミ騎士長が全部対応してくれた。

 ミスミ騎士長と一緒に別室に行って、戻ってきた時、神官の顔色がとても悪かったのは、気のせいだったのだろうか?


「さ、行きましょうか?」


 相変わらず、少し聞き取りづらいミスミ騎士長の声。


「あの、全部任せてしまってすみません。大丈夫ですか?」


「大丈夫です。俺は何も……。うん? ゴホン!」


 やっぱり、少し様子がおかしいミスミ騎士長。

 それでも、私と一緒に街に出かけると言う意志は固いみたいだ。


「行きましょうか」


 私は、神殿から出てからの半日を満喫した。

 ミスミ騎士長は、リーフェン公爵からお金を預かって来たらしい。

 次々と私に色々な物を買い与えてくれた。


 ――――私とリーフェン公爵の瞳の色をしたお守り。リーフェン公爵へのお土産にしよう。


「――――えっ。可愛い。なに? どうしてこんなに可愛いんだ?」


「え?」


 お守りを買った直後、なぜかリーフェン公爵の声がした。こちらは、なぜかとてもはっきりと聞こえる。


「あの……。今、旦那様の声が聞こえたんですが」


「――――そうですか?」


 ミスミ騎士長の声は、やっぱり何かを通したように聞こえにくい。


「くっくく!」


 やられた。幼馴染の私に対する執着を甘く見ていた!


 ミスミ騎士長だと思っていた人の黒いフードをめくると、中から出てきたのはリーフェン公爵だった。


「――――どういうことですか。これ」


「まったく気がついてくれないから、ミスミ騎士長をどうしてくれようかと思っていたところだ」


「えぇ……。どうして」


「だって、初めてのルティアのお出掛け。間近で見る以外に選択肢なんかない」


 困ったことに、ミスミ騎士長だと思っていた人は、リーフェン公爵だった。


「通信の魔道具……使ったんですか」


「ごめん。でも、ルティアの初めてのお出掛け! これだけは譲れない」


「そうですか。……旦那様と一緒に出掛けているってわかっていたら、もっと楽しかったのに」


「え? うそ。そんな可愛いこと言うの?!」


 なぜかうなだれてしまったリーフェン公爵と私は、屋敷に帰る。

 巻き込まれた、ミスミ騎士長には申し訳なかったけれど、とても楽しい一日だったのは間違いない。


 



最後までご覧いただきありがとうございました。


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