続編を企画します。旦那様?
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私は、密かに計画している。
リーフェン公爵の願いを叶えてあげようと思うのだ。
そう、それは『聖なる瞳の乙女』続編!
「ハンス?」
「はい、姫様……じゃなかった、奥様」
「観てきたわ。あなたの脚本は素晴らしいわね?」
「ありがとうございます。姫様!」
本当に嬉しそうなハンス。
――――私、ハンスがおだてに弱いの知っているんだから。
まあ、内容がちょっと、私にとっては恥ずかしかったけど、脚本は本当に良かったと思う。
「ぜひ、続編が観たいの」
「早速書き始めます!」
今回のタイトルは『聖なる瞳の乙女の加護を受けし者』にさせてもらう。
前回、省かれてしまった、キースの幼少期と騎士団に入ってからの活躍を、余すところなく盛り込んだ続編を!
そして、ディル様と共に戦う姿も!
戦場で、ディル様とキースが見つめ合う感じとか!
前回は、物語の大筋は、事実に基づいているにもかかわらず、なぜが私のセリフは全て「キースのこと大好きっ!」て感じに脚色されていた。
――――うん。もちろん好きですよ。旦那様?
でも、それを人前に晒していいのかどうかは、別問題なのだ。
「前回は、旦那様……じゃなかった。キースの活躍が少なかったように思うの。多分ご婦人たちの需要は多いと思うわ。だから、お願いね? あと、ディル様の活躍も観たいわ」
――――ふふふ、これで完璧。
しかし、そう思って喜んでいた私が甘かった。甘かったのだ。
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「聖なる瞳の乙女の続編を観に行こう!」
ある昼下がり、なぜかここ数週間機嫌がとても良かったリーフェン公爵に誘われた。
――――いよいよ、復讐を遂げる時が来たわ。
「ええ、今日が初日ですね。楽しみにしていたんですよ。『聖なる瞳の乙女の加護を受けし者』」
「え? ……そのタイトル?」
リーフェン公爵が、その動きを止めた。
そう、これからリーフェン公爵も羞恥心で悶える時間が始まるのだ。
「さ? 行きましょう。旦那様?」
「えっ、聞き間違いかな? え?」
今日も完璧にオシャレした私と、今日も素敵なリーフェン公爵。
もちろん私は、ドレスの上に黒いローブを被ったけれど、ローブの中はお揃いなのだ。
そして、今日も私たちは、劇場の一等席から舞台を観ることになった。
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「ひぃっ!」
結局私は、両手で顔を覆い、羞恥心に耐えていた。
『アンナ、大好きだ。大きくなったら僕と結婚しよう?』
「えっ、幼少キース可愛すぎ……」
『騎士になったのは、アンナのためだ。愛している。……俺を選んで』
「ひゃ?!」
『やっと会えた……。アンナ! もう離さない』
「ど、どうして。どうして、主役の二人の名前、キースとアンナなのぉっ?!」
私は失念していたのだ。キースの恥ずかしいセリフをたくさん盛り込んで、リーフェン公爵に羞恥心を与える計画だったはず!
でも、そのセリフの相手はアンナだった。
隣のリーフェン公爵は、時々私を見て、意味深に笑い、その後また素知らぬ顔で観劇している。
なぜ、私ばかりが恥ずかしがっているのだろうか。
「ね? ルティア」
「なっ、なんですか旦那様」
「少しキースの台詞の甘さが足りなくない? 俺だったらこう言うな」
そのまま、リーフェン公爵は内緒話でもするように、私の耳元にその唇を近づけてきた。
「ルティア………………」
「――――っ? ――っ?!」
結局、今回も私はリーフェン公爵に勝てなかった。




