第三十二話 魔眼に魅入られたんですか。旦那様?
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観劇から帰ってきて、ようやく一息つく。
リーフェン公爵と離れて、黒いローブを脱いだ。
途端に鏡の前には美しく着飾った公爵家の奥様が現れた。
「せっかく着飾ったのに。少し勿体無いわね」
そんなことを呟いてくるくると鏡の前で回っていたら、侍女長のマリーと侍女のリンが現れて無言のまま私をバスルームへと連れ去る。
さっさと綺麗なドレスが脱がされていく。もう少しだけ着ていたかったような気もする。少し残念だ。
「あれ? お出かけはもう終わったのよ?!」
「これからが本番です!」
なぜか私は、磨き上げられる。
香油まで、いつものよりさらにランクが上の最高級のものだ。
そして、部屋着に着替えさせられてさらに黒いローブを上に被せられ、夫婦の寝室に押し込まれた。
――――ご飯も食べていないのに?
そう思ったけれど、不思議なことに寝室には軽食が用意されていた。
「ルティア……。魔眼の、いや聖なる瞳の乙女の加護を俺にくれ」
――――心から、せめて魔眼に魅入られし者の方でお願いしたいと願いながら、おずおずとリーフェン公爵に近づいていく。
「ところでルティアは、魔眼の力を相手に与える方法わかっているの?」
「え? そういえば知らないわ」
「やっぱり……。俺としては、そんな理由でこんなことになるのは納得いかないんだけど」
「え?」
なぜがどんどん距離を詰めてくるリーフェン公爵。魔眼の力を抑えるローブをまとっているからか、リーフェン公爵に全く遠慮が感じられなくて戸惑う。
「魔眼の力のためなんかじゃない。俺が望んでいるんだって……これだけは覚えていて?」
「え? 魔眼のためじゃないって」
魔眼の力を渡すのと、リーフェン公爵の望みは、なぜか一致するらしい。
「好きだよ。ルティア。この後、俺の名前をたくさん呼んでね?」
名前を呼ぶことと、魔眼の力を与えることには、どうも関連があるらしい。
その意味がわかった時には、すでに私は逃げられない状態になっていた。
その夜、私は一生分かと思うほど、リーフェン公爵の名前を呼ぶ羽目になった。
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二章完結です。
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