第二十八話 王宮についちゃいました。
✳︎ ✳︎ ✳︎
店から出るといつのまにか、馬車は公爵家のものに入れ替わっていた。リーフェン公爵のエスコートで乗り込む。先ほどの馬車よりも、格段に豪華で座り心地も良かった。
「王宮に行くのがもったいない気がするな……。このまま二人で、逃げてしまおうか」
「……魔力のない人たちが住む村にですか? でも、旦那様は魔力があるから、公爵家にいるのとあまり変わらないです」
そう、リーフェン公爵が用意してくれた環境は、本当に過ごしやすい。幼馴染と過ごした、あの懐かしい故郷を思い出すほどに。
「旦那様……。本当に感謝してるんです。私、とても幸せです」
「……そう言ってもらえて嬉しいけど、まだこれからもっと幸せになるんだよ。ルティアは」
「――――旦那様も、一緒にですか?」
「……本当に可愛いな?! なんであの時に攫ってしまわなかったのか、自分の馬鹿さ加減を呪いたくなる」
そう言ってリーフェン公爵は、私のことを強く抱きしめてきた。
たぶん、始めからキースに伝えていれば、何とかして一緒にいられる方法を探してくれたに違いない。たとえそれが、どこかに連れ去ってしまうという方法なのだとしても。
「――――それも良かったのかもしれないですね」
「ルティア、今からでも」
耳元でささやかれる誘惑は、何物にも代えがたいほどの魅力的な提案。
でも……。公爵家で待っていてくれるルティアを囲むたくさんの笑顔、信頼、愛情……。もう捨てるなんて考えることができない。
「――――今はもう、幸せいっぱいなので、攫わないでくださいね」
そういうと、リーフェン公爵はなぜかかなり残念そうな顔をした。
――――攫いたかったのだろうか?
「王宮に行けば、ルティアまで巻き込まれる」
「――――旦那様」
「誰の目にも触れさせずに、幸せな屋敷の中でただ幸せに過ごしてほしかったのに」
それは、ずっと心のどこかで願い続けていた願望。
それと同時に、もっと強く願っていたことがある。
「私も、旦那様のことを守りたいんです。今度こそ」
「すでに、毎日救われているよ。ルティアに」
そして、馬車は王宮に着いた。
ずっとここで過ごしてきたのに、なぜかもう自分の家だとは思えない。
今すぐ公爵家に帰りたい、心に重苦しいほど厚い雲がかかっていく。
「ほら……。幸せに過ごしていることを、周囲に知らしめて」
「――――わかりました。旦那様」
旦那様が、優雅に差しのべた手に、私は手を重ねる。
その瞳はただ私を優しく見つめていた。
最後までご覧いただきありがとうございました。
『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。
 




