第二十七話 寄り道ですか。旦那様?
そのあと、再び馬車に揺られて降りたところは、王宮……ではなかった。
そこは、なぜか既視感があるデザインの建物。高級そうな料理店だった。
「あの、旦那様?」
「朝ご飯まだだったからここで、食事をしてから行こう」
「えっ、でも」
軍服姿のいかにも高貴な旦那様と、魔女みたいな黒いローブをまとった私。
普通の店に入ったら、浮いてしまうに決まってる。
「心配しているの? もちろん貸切だよ」
すべてリーフェン公爵は計算している。幼馴染も、そういうところがあった。
――――それにしても、この店は公爵が通うような店ではないですよね?
「この店は、古いレシピからインスピレーションを得た料理を提供するのが売りだ。……今食べてみると、ルティアが作る料理によく似ている」
「え?」
出てきた料理は、確かに懐かしい味がした。
アンナとキースの故郷の料理を模しているのは間違いなさそうだ。
「たしかに。私が作っていた料理よりもずっとおいしいけれど、懐かしい味がしますね?」
「ルティアが作った料理とは比べ物にならないけれど。……前は良く来たから」
「――――確実にこちらの料理の方がおいしいですけど?」
リーフェン公爵の味覚が少しだけ心配になる。素人が作った料理と、これだけの美味しい料理を比べるなんて……。
そんな風に思ったけれど、食べれば食べるほどここの店の料理は私が作る料理にどこかよく似ていた。味付けも、使っている食材も。せっかくだから、弟子入りしてもう少し料理の腕を上げたいくらいだ。
――――良くこの味を覚えておこう。
真剣に味わって食べ始めた私を、リーフェン公爵が見つめる。
その瞳が何かを思い出したのか、次の瞬間伏せられる。
「戦場から帰ると、なぜかこの店に来たくなるのが不思議だった」
「――――旦那様?」
「こんなにも、アンナの料理に似ていることに気づかないふりをして、それでも戦場から帰る度に来ずにはいられなかった」
伏せたままの瞳で呟く言葉は、リーフェン公爵が味わってきた、どこまでも続く孤独を表現しているみたいだった。
「――――私、ここの料理気に入りました。また連れて来てくれませんか。旦那様?」
「そうだね……。これからは一緒に来よう」
二人の思い出は、悲しい色が多いけれど、それも優しい色に塗り替えていければいい。
手をつないで店を出る時には、二人とも笑顔になっていた。
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