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【完結】そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?  作者: 氷雨そら
望まれない結婚ではないのですか。旦那様?
24/43

第二十四話 本当のことを話してください。旦那様?



 私は衝撃を受けていた。


 つまりのところ、私が魔眼の姫なのにアイシュタール公爵家に降嫁されたのは、リーフェン公爵の足かせとしてではなく強い希望で……ということ?


 ミスミ騎士長を窺い見ても、「あとは本人に聞いた方が良いのでは?」と素知らぬ顔で言うばかり。


 ――――これ以上教えてくれるつもりはないみたいね?


 でも、それなら出会った直後の冷たい対応……。

 いくら寝言のせいだからって、翌日からの溺愛への豹変。まったく意味が分からない。


 少しばかり不可解なリーフェン公爵の言動に、私は疑問を深めていく。


「うん。本人に聞くのが一番いいわ」


 アンナは、悩み悩んだ末にキースから離れることで問題を解決しようとした。

 でも、その方法では一時問題から離れることはできても、問題を解決することはできないということを今の私は知っている。


 それは、今も変わらず私に笑いかけてくれる、リーフェン公爵のおかげだ。

 そして、少し意地悪なミスミ騎士長の。


 私は、今日もリーフェン公爵の好物をたっぷり作りながらその帰りを待つ。

 今日は、特別に肉汁が切った瞬間にあふれ出す特製のハンバーグだ。

 完成品を見たケイル料理長が、土下座する勢いで私に教えを乞うてきた。


 ――――逆じゃ、ないですか?


 私は、公爵家の門外不出だと言うスープストックのレシピと引き換えに、特製ハンバーグの作り方を教えた。涙を流す勢いで料理長が喜んでいたけど……奥様である私を立ててくれたんだよね?


 そうに違いないと無理に納得しつつ、今日もリーフェン公爵との食卓に向かう。


 食卓に座ったリーフェン公爵は、わかりやすく瞳を輝かせた。

 本当に、この表情が見たくて料理しているようなものだ。


 ――――いけない。絆されてしまうところだった。今回は真相を追及するんだから。


「旦那様? 実はお話が」


「うん。そう言えば、俺も贈り物と話がある」


「え? 宝石箱一杯の宝石とかだったらお断りですよ?」


 そういえば、後日あの宝石箱一杯の私の瞳と同じ色の赤い宝石は、ネックレスやイヤリングなど一揃いのアクセサリーになって私の手元に再度届いた。


 ――――社交界にも出られない公爵夫人には必要ないのでは? むしろ少し重いです。


 そう思った私は、そのネックレスやイヤリング一揃いを宝物庫に再びしまい込んだ。


 ただ、その箱にそっとおまけのように入っていたリーフェン公爵の瞳の色と同じ色の石だけは、ネックレスに仕立ててもらい毎日愛用している。


「あれは、やりすぎたかもしれないけど。戦場の高揚感とか……。ああ、でもそのネックレスつけてくれているのは俺の色だから?」


 ちょっとうれしそうに聞いてくるリーフェン公爵。図星だけれど、そうなってくると認めるのも悔しい気がしてくる。


「そう……ですけど?」


 悔しいけど、リーフェン公爵の反応が見たいからそう答えてみる。


「――――っ。本当に? うれしいな」


 輝かんばかりの笑顔! まぶしいです。 美形はそんな風に笑顔を安売りしたらいけないんですよ!

 悔しいけれど、その麗しさ、完全に私の方が負けている気がする。


「くっ……」


「あ、そうそう。贈り物だけど」


 目の前に広げられたのは、見慣れた黒いローブだった。


「え……これ」


「これがあれば、一緒に出掛けられるよ?」


 宝石箱一杯の宝石の購入資金なんてこれに比べれば、お小遣いのようなものだ。

 もちろん、王族であってもめったに手に入れられないレベルの一揃いのアクセサリーよりも、価値があること私は知っている。


 私の魔眼の力を、一時的に抑えてくれるローブ。

 たった半日その効果を発揮するために、稀少な素材を惜しみなく使い、多くの魔方陣が編み込まれ、たくさんの魔法使いの手によって魔力が注がれている。


 え? お出掛けのためにこれを用意したように聞こえたけれど。


「あの……。お出掛けに使っていいようなものではないですよね?」


「これはどちらかというと材料費が高いんだよ。俺が集めてきたからそこまでかかってないし、あと五着くらいは作れるくらい材料はあるから」


 最近忙しそうにしていると思ったら、そんなことをしていたんですか?

 公爵家当主としての仕事は? 出仕しての王宮での職務は?


「陛下に詰め寄ったら、公爵家秘蔵のワインと交換に作り方を教えてくれた」


 陛下相手に、なんて取引しているんですか。いくら娘婿だからって、私でも遠慮してそんなお願いできませんよ? 雲の上のお方なんですよ?


「ルティアのことも、心配していたよ」


「――――え?」


「俺が、結婚の打診に行った時も、涙を流して『娘を頼む』って言ってたから。ルティアの性格は陛下に似ているのかな」


「へ?」


 信じられなかった。私のことなど、魔眼を持っているから王家の恥だくらいに思っていると……。


「今なら、そのローブを纏っていれば聖女として堂々会いに行ける。それにその魔眼なんて名称も気分が悪いから聖なる瞳に変えてもらうよう神殿に頼もう」


「ひっ?! 恥ずかしくてそれこそこのお屋敷から出られなくなるので、魔眼のままで結構です!」


 魔眼の姫なんて名前だけでも、羞恥心でいっぱいなのに、まさかの聖なる瞳の姫なんていう称号なんて貰ってしまったら、部屋の奥にこもって二度と出て来られなくなりそうです!


「あの、やめてください!」


「え? いい案だと思うんだけど」


 そんな風に、リーフェン公爵に翻弄され、本題に入ることができなかったことに気が付いたのは、いってらっしゃいと、魔力返還の儀式をして見送った後だった。



騎士長「うまくはぐらかしましたね」

公爵「あまり俺の秘密を話すな」

騎士長「一番大事なことは言ってないですよ」

公爵「――――勘弁してくれ」


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