第二十二話 魔眼の姫と結婚したのはなぜですか。旦那様?
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リハビリを兼ねて、ようやく外に出られるようになった。
日傘に用意された水分に、見張りのように私の後ろに立つミスミ騎士長。
見張られている気がしないでもないが、少しずつ日常を取り戻していく……。
戦場を久しぶりに見て、しかも前世の悪夢に近い状況を体感してしまった私は、やっぱり夜になるとうなされているらしい。そんなときは、リーフェン公爵がそっと起こして抱きしめてくれる。
ここに来たときに、植えた花壇の花が今日咲いた。それは、リーフェン公爵の瞳の色に近い、美しい金色にも見える黄色の花だった。
「ねえ、ディル様」
「はい、奥様」
「――――ディル様?」
「えっ」
ミスミ騎士長を振り返ると、露骨に目をそらされた。
やっぱりと、私は最近疑っていたことが事実であったことを確信する。
「約束……今まで守っていてくれたんですね」
「あの後、キース殿には世話になりました。それも含めて、まだ守るという約束が果たせたとは思えません」
「いつ思い出したんですか」
「――――ずっと、違和感は覚えていました。奥様にお会いしてから。そして、我が主に見出された日から」
……偶然なのか、運命なのかわからないけれど、ディル様はあの時の約束の通り、ずっとリーフェン公爵のことを守っていてくれたらしい。
「時々、俺のことを仇を見るような眼で見ることがあるのが不思議だったのですが、合点がいきました」
「仇……? そんなに信頼し合っているのに?」
「あなたのことを取られたと思ったのでしょうね? さすがに名前で呼ばれていたら、俺の命は危なかったと思います」
「ライト様と?」
ミスミ騎士長は、その名前を口にすると本当に困ったとでも言うように笑った。
「それに、あなたの噂を耳にしてからの我が主の行動力は信じられないほどでしたから……。何かあるのだとは思っていました」
「私の……噂?」
「ええ、王宮に幽閉されている姫の瞳は、魔女と同じ赤い瞳。そして、かつての魔女と同じように魔眼の持ち主だと言う噂ですよ」
そう。王宮の奥深くに私が隠されていたのは、魔眼を持った者が王家に生まれたことを隠すため。それと同時に、魔眼の持ち主がその秘密を知った人間に利用されないため。
「姿絵すら、出回っていなかったと思うけど」
「まあ、公爵家の諜報力ですから。……俺もいますし」
ミスミ騎士長は、しれっと自分の有能さをアピールしてきた。そういうところ、ディル様にもあったわ。私は思い出し笑いをする。
「――――聞きたいわ。どうして私が、公爵家に降嫁することになったのか」
私としては、破竹の勢いで力をつけて行くリーフェン公爵の足かせとして私の降嫁が決まったものだと信じて疑っていなかった。
でも、もしかしたらもう一つの噂、リーフェン公爵の強い希望で私の降嫁が決まったというのが事実なら。
その方が、はっきり言って色々と説明がつく。
私の大好きだった花で彩られた、以前は殺風景だったという庭園も。なぜか、長期間かけて集められていた、魔力を持たないかつ優秀な公爵家の人材も。
なぜか、アンナが好きだったパステルグリーンが随所に取り入れられている公爵家のインテリアも。
もしも、リーフェン公爵が魔眼の姫を迎え入れるためにずっと用意していたのだとしたら。
「そうですね。主には怒られてしまうかもしれませんが、俺の知っている限りであれば」
ミスミ騎士長が話してくれたのは、少し頭が痛くなるような、赤面するような私が降嫁するまでの出来事だった。
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