第十七話 騎士長に密命ですか。旦那様?
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「騎士長、今回はついてくるな」
「――――我が主。俺は……」
「守ってやってほしい」
確かに、第二の主ルティアは基本的には人畜無害でとてもおとなしいのに、一度火がついてしまったら何かやらかしそうな雰囲気がある。
――――リーフェン公爵が戦場に行っている間に、何か事件を起こしそうな予感しかしない。
「しかし……、だれが主の背中を守るのですか」
たしかに、リーフェン公爵は鬼神のように強い。だが、その背中はいつも、ミスミ騎士長が守ってきた。だから、一人で戦うことには慣れていないはずだ。
二人で戦うことに慣れた人間が、一人で戦った時、その結果が良い方に転がらなかったなんてことを、戦場慣れしたミスミ騎士長は何度も見てきている。
「たしかに、騎士長がいないのは大きな戦力ダウンだな。だが……。魔眼の利用方法が知れ渡ってしまった場合には、ルティアが危険だ」
リーフェン公爵は、まったく譲る気配がない。
おそらく今のリーフェン公爵にとって、自分の安全よりもルティアの安全の方が優先順位が高いのだろう。
――――まるで違う人間になってしまったみたいだ……。
だが、すでにミスミ騎士長すら、ルティアの安全を守りたいという気持ちが、何にも負けないくらい強くなっていることを否めない。
――――不思議な人だ。
だからこそ、普段であれば決して譲らないだろう主の背中を守るという役割を、ミスミ騎士長は手放した。その結果どう転ぼうとも、今回の選択を後悔することはないだろうと確信して。
「――――仰せのままに」
「頼んだ。……まあ、騎士長とルティアが組んだら、最強じゃないのか? 俺でもたぶん敵わない」
確かに魔力が使えない代わりに気を使って戦うミスミ騎士長の戦い方。周囲の魔力を吸い取って無効化しながら、永久に近いほどの回復が可能なルティア。二人の戦場での相性は、最高に良いものに思える。その予想は間違いないと思われた。
おそらく、誰も敵わないくらい強いだろう。
あの時のように……。
思い出せないようなもどかしさとともに、魔力を持たずに生まれた自分が、どうしてここまで力を求めてきたのかの答えは、そこにあるような気がした。
少しの不安とともに、いつもは隣に立つ主の背中を、ミスミ騎士長は見送った。
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そして、屋敷に戻って早々に、ミスミ騎士長はルティアに詰め寄られていた。
「分かっています。戦場に行く前に私と会ったりしたら、魔力が減ってしまって旦那様の身が危ないということ」
「奥様……」
「でも、せめてお守りくらいはお渡ししたかったのに!」
「……奥様っ!」
ルティアの願いは、とてもかわいらしいものだった。魔眼の姫なんて二つ名は、この人には全くふさわしくないとミスミ騎士長は思う。
――――ましてや純真無垢なこの少女に魔女の二つ名なんて……。
一瞬浮かんだ魔女という言葉。やっぱり、ルティアにはこれっぽっちも似合わない。
なぜそんな単語が思い浮かんだのかと自分自身に戸惑いながら、ミスミ騎士長は首を軽く振った。
それでも、戦場でルティアとミスミ騎士長がともに戦う姿は、あまりに生々しく、決して避けることができない未来のようにすら思えてくる。
「――――約束通り、お守りします」
それは、主として敬愛するリーフェン公爵との約束なのか、それとも他の誰かといつかした約束なのか……。
その答えはわからないまま、それでもミスミ騎士長は、心に強くそれを誓った。
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