第十六話 早く帰ってきてください。旦那様?
――――目を覚ましたら、一人だった。
また、泣きながら目を覚ましたのに、私の涙を拭ってくれる人がいない。
拭ってくれる人なんていないと、諦めたままでいられたら、たぶんこんなに悲しい気持ちにはならないのに。
知らなければよかった。そう言い切れない自分に戸惑う。
すべて諦めてきた。諦めた方が楽だから。
「旦那様……」
その時、ドアを叩いて侍女のリンが中に入ってきた。
「リン……」
「返事を待たずに入ってしまった無礼をお許しください。でも、やっぱり泣いていましたね。奥様……いえ、ルティア様」
小さいころから、一緒に育った大事な友人でもあるリン。
リンには私の行動なんてすべてお見通しだ。
「ルティア様が、何かを抱えているのは知っていました。でも、ルティア様が探していた相手は、旦那様ですよね? どうして素直にならないんですか」
「リン……」
素直になるなんて許されない。
「ルティア様が、何かにずっと苛まれていたこと、知っています。でも、もういいのではないですか。実在なんてしない何かのせいで、今のルティア様が苦しまなくっても」
そうなのかもしれない。
幼馴染の笑い顔、そしてお腹を抱えて笑ったリーフェン公爵。
私が、二人のためを思ってしていたことは、二人の顔を曇らすことしかできなかった。
それなら、私がしていたことはもしかしたら、間違っていたのかもしれない。
「そうね……。ありがとうリン。じゃあ、旦那様が帰ってきた時に、お迎えできるようにもっと庭園を花でいっぱいにしないとね!」
「え……、そっちの方向に行くんですか? ルティア様」
「え? だって、たくさん花があった方が華やかで楽しいでしょう?」
私は花が大好きだ。たぶんそれは、幸せな毎日の中で「こんなふうに花がたくさん咲いた場所で笑うアンナをずっと見ていたい」ってキースが言ってくれたその日から。
花は好きだったけれど、その日からもっと好きになった。
我ながら、私は単純だと思う。
幼馴染との幸せな時間、いつも私の毎日はキースを中心に動いていたのだから。
「……私、旦那様にもっと笑っていてほしい」
「私は知っていますよ。どうしたら旦那様がもっと笑ってくれるのか」
「そうなの? 教えてほしいわ」
「ルティア様が、もっと幸せになれば、旦那様も自然と笑顔になりますよ」
リンは力説してくれるけれど、そんなのずいぶん私にとって都合のよい展開だ。
でも、きっと私のことを真剣に考えてくれて出た言葉だから、素直に受け取っておくことにした。
「しばらく帰れないって、どのくらいかしらね?」
――――早く帰ってきてください。旦那様。
そう願っていたのに、まるで私の願いをあざ笑うように、戦争が始まりリーフェン公爵の率いる軍は最前線へと向かったという知らせが、花壇作りに精を出す私に届けられた。
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