第十五話 戦場の魔女と呼ばれています。
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隣国との戦争は、和平が結ばれたと言ってもまだ水面下での争いは続いている。それは、前世から変わらない。あの時、ひと時の平和が訪れた。そのことだけが私の唯一のよりどころだったのに。
生まれ変わって、初めてまだ戦いが続いていることを知った時、絶望した。
「しばらく帰れそうもない。ミスミ騎士長を残していくから……。無茶なことはしないで」
「旦那様こそ、怪我したらダメですよ」
「はは……。同じこと言うんだな。――――今日の話は保留だ。だけど、ルティアのこと妻として愛するという誓いはもう変わらないから」
「旦那様……」
「覚悟しておいて?」
そんな言葉を残して、旦那様は行ってしまった。
私は、一人では広すぎるベッドに横になる。
こんな夜中にリーフェン公爵が呼び出されるなんて、私の持っている情報の中から、たった一つしか理由が浮かばない。
――――また、隣国との戦争が起こるのだ。
なかなか眠ることができずに、それでも私は明け方になって眠りに落ちた。
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――――幸せな夢の中とは対極だ。
私は、戦場に立っていた。私の周りで魔法が使われることはない。ただ、行われるのは血で血を洗う白刃の戦いだけだ。その中心にいつも私は立っていた。
私はいつしか戦場の魔女と呼ばれるようになっていた。
私がいる場所では、魔法を使うことができない。それは、敵だけではなく味方も同じ。
今の戦争では、高火力の魔法で戦うのが主流だ。
だが、高火力の魔法を使うことのできる高位の魔法使いであればあるほど、私の魔眼の前では無力になる。敵味方の区別なく。
そして、魔眼の力で吸い取ってしまった魔力で、私の周りの魔力を持たない騎士たちは、永遠とも言える力で回復魔法を受け戦い続ける不死身の軍団になっていた。
「ごめんなさい……ディル様」
「どうして謝るんですか、アンナ」
「戦えば戦うほど、あなたの隊は王国内ですら魔女の手先のように見られていくわ」
「――――あなたの活躍を妬んだ一部の人間が流した噂にすぎませんよ」
優しいディル様はそう言ってくれるけれど、ずっと最前線に立たされて、手に入れるものが名誉ではなく心ない二つ名だなんて……。
「お願いがあるの」
「…………」
「もし私が味方からすら、すべての魔力を奪うなんてことが起こってしまったら……。魔女をあなたが殺してくれる?」
「――――アンナ、あなたは本当に残酷だ」
その瞬間、ディル様に強く抱きしめられていた。
「俺は、あなたのことを敬愛しています。魔力の無い者にも惜しみなく回復魔法を使い、戦場でも俺たちに活躍の機会をくれた。貴族であっても、誰も魔力の無い俺に期待なんてしなかった。たとえ心無い二つ名であったとしても、何も持たなかった俺にとっては何よりも大事なものだ」
「ディル様……そうね、ひどいことを言ったわ」
「そんなこと、起こりません。もうすぐ戦争は終わります」
「そうね……」
魔女なんて呼ばれることで、私は少し正常な判断ができなくなっていたのかもしれない。
たぶん、もうすぐその場面が訪れる。そんな予感は消えないけれど。
それでも、自分が引き起こしたことの幕引きをここまで私を守ってくれた恩人にさせようなんて、本当に私は残酷で恩知らずだ……そう思った。
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