第十四話 選んでください。旦那様?
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そして、私たちは食卓に着いた。リーフェン公爵が用意した小さなテーブルにあふれかえる食事。ちょっと気合いを入れて作りすぎたかもしれない。食べ切れるかしら。
「懐かしい……俺の好きなものばかりだ。覚えていて、くれたんだ」
「忘れられないくらい、作らされましたからね」
「そうだったな……」
そして、リーフェン公爵はすごい勢いで食べ始めた。そういえば、キースもよく食べる人だったとぼんやりリーフェン公爵が食べる様子を眺めながら思いを馳せた。
「むぐ!」
思いを馳せていたら、口の中にグラタンが押し込まれた。
「ほら、ちゃんと食べる」
気が付くと、スプーンを手にしたリーフェン公爵が私の口に食事を運んでいる。
――――ちょっと、新婚の夫婦じゃないんだから。
――――新婚夫婦だったわ。
それでも何とか断ろうとしたのに、食べ終わって言おうと口を開いた瞬間、今度はトマトの冷菜が押し込まれる。恥ずかしいじゃないか。
「むぐむぐっ……」
私は、非難してますよ! という気持ちを込めた目でリーフェン公爵をにらむ。にらまれた上に、また魔力まで吸いとられたくせに、リーフェン公爵はお腹を抱えて笑い始めた。許すまじ。
「もうっ。食事中にふざけるなんて、本当に怒りますから!」
「ルティア、これは夫婦のコミュニケーションというものだ」
「――――え?」
夫婦と言った。
私のことを憎んでいたのではなかったの。
「ルティア……ごちそうさま。少しだけついてきてほしい」
手を引かれて連れていかれた先は、星の瞬くバルコニーだった。涼しい風が二人の間を吹き抜けていく。私の目の前に立った、リーフェン公爵が手の甲にそっとキスをした。
「ルティアを妻として愛すると誓うよ。……でも、それだけではだめだということはわかっている。どうしたら、ルティアは俺のものになるの」
「本当に……いいんですか」
たぶん、この方法を聞いたらリーフェン公爵は嫌悪感をあらわにするかもしれない。私の魔眼は……ある方法を使えば、リーフェン公爵にとって力になることができる。
「――――私は悪い女です」
「ルティア。そんな言葉にはもう騙されないよ」
「これから言うことは、この国では禁忌です」
「……まさか」
そう、魔眼を持った人間は、一部の人間にとっては喉から手が出るほど欲しい存在なのだ。
それを知らなかったアンナは、その人生を終える直前、出会った魔術師にその事実を告げられた。
――――魔眼に魅入られた存在。それは、王国で秘匿されている。そして忌むべき禁忌とされている。
「でも、公爵家の人間である旦那様なら、もう知っていますよね」
「――――俺はそれを望まない。ルティアを利用する気はない」
「私のこと、愛してくれて妻としてそばに置いてくれるなら、私はそれでいいです」
その方法を取れば、私の魔眼は少なくともリーフェン公爵にだけは害を与えない。
だから、その方法をリーフェン公爵が選んでくれれば、私はずっとあなたのそばに。
「ルティア! 俺は」
その時、ミスミ騎士長がひどく慌てた様子でバルコニーに駆け込んできた。
基本的に、この場所に誰かが来るなんてことはあり得ない。
――――緊急事態。
そのことはさすがの私にも、理解できた。
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