第十話 旦那様がお出かけになります。
リーフェン公爵と一緒に食べた朝食は、豪勢とはとても言えなかったけれど、むしろ公爵家としては本当に質素なものだと思うけれど……。おいしかった。
「久しぶりに、味があるものを食べた気がする」
なぜか、うれしそうに笑ったリーフェン公爵が、よくわからないことを言う。誰よりも富も名声も力も魔法も持っているのに、味があるものを食べてないなんて、戦場の携帯食料ばかり食べているとでも言うのかしら。たしかに、戦場にいることが多かったと聞いているけれど。
それでも、私もそう思った。久しぶりに、幸せな気持ちで食べたご飯は、いつもよりも豪勢さはなくてもずっとおいしかったから。
たぶん、リーフェン公爵と意味は違うと思うけれど。
「喜んでもらえてよかったです」
でも、おいしかったと素直に言ってくれた方がうれしいけど? つまり、微妙な味だったから、味があるなんてそんなことを言ったのだろうか。
――――よく考えれば、それは褒め言葉ではない。
「そんな目で見て……。また、なにか勘違いしてる。すごくおいしかったに決まってるから」
リーフェン公爵は、私の心でも読んでいるのだろうか。
いや、幼馴染は私の心をいつも的確に読んでいた。私が隠そうと本気になってしまわない限りは。
私に魔眼なんてなければ、こんな風にずっと一緒にいられたのかもしれない。
「さ……そろそろ行かないと、王城から迎えが来てしまうな」
「えっ……大変」
「悪いけど、魔力を返してもらえるかな」
「――――はい」
面と向かって言われると、恥ずかしさが先に立ってしまう。
覚悟を決めたのに、なぜか唇に傷をつける前にキスされた。
「……え? なんで」
「あまり、痛い思いはさせたくない……。それに、魔力を返してもらうためだけにこういうことするって思われるのも味気ない」
その意味が初めのうちはわからなかった。でも……。
私と……普通にキスしたいって、思っているってこと?
――――まさか。
顔がみるみる赤くなっているのを自覚する。
「うんっ?」
わかった瞬間、もう一度キスされて、しかも噛みつかれた。
離れた唇、獰猛に微笑んだ顔で、ぺろりと血が付いた唇をなめているその姿。
私の知っている幼馴染とは、全く違う大人の男性がそこにいて私は固まってしまう。
あまりのことに、魔力を返しそびれてしまった。
「あれ? 魔力が戻ってこなかったな。やり直しだね?」
意地が悪い笑顔でリーフェン公爵に見つめられた。
私は、羞恥心のあまりプルプル震えながら、もう一度リーフェン公爵にキスをした。
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