廊下を綺麗にしよう
前回のあらすじ
大掃除の宣言をした
朝食のパンを齧りながら、掃除の順番について話をした。
「この家ってどんな構造なんだ?」
「あーっと、二階建てで一階にはリビングとキッチン、お風呂、トイレ、寝室があるよ。階段を登って2階には2部屋あるかな。天井裏に小さなスペースもあるよ」
「いい家だな」
「ふふん、由緒正しき家だもん」
「ゴミしか見えないからわからなかった」
アポロは咳き込んだ。
「それじゃあ、まずは廊下から掃除するか」
「廊下…?そんなに汚れてないよ?」
「汚れてるわ!」
廊下にはゴミと段ボールが散乱し、足の踏み場もなかった。床が全く見えない。
「まずは、ゴミの処理か」
「はあ、面倒くさい」
僕はアポロをジロリと睨んだ。
「こういうのはまとめて終わらした方がいいんだ。まずは昨日のゴミを出して、その後廊下のゴミを分別するぞ」
僕はパンを口に押し込み、立ち上がった。
燃えるゴミ、燃えないゴミ、燃えないゴミ、燃えるゴミ、燃えるゴミ、燃えないゴミ、燃えるゴミ…
「もう分別飽きたー」
遠くから声が聞こえるが、僕の思考は研ぎ澄まされている。一心不乱に目の前の乱雑なゴミをまとめ上げていく。
「昨日からずっとこれじゃんー」
そう、ずっとこれだ。というか本来は毎日ずっとこれを繰り返していかなければならないのだ。
「もう単純作業やだー」
「うるさいな!邪魔!」
アポロは泣く泣く作業に取り掛かった。単純作業が嫌いな彼女に取って、地獄の時間なのかもしれない。僕には考えられないけど。単純作業最高。
昼過ぎには、やっと廊下の床が見えてきた。思ったよりもずっと長い廊下だ。そんなこともわからないほどゴミが溜まっていた。
「やったー!終わった終わった!」
アポロが飛び跳ねている。
「終わりな訳ないだろ!ここからが本番だ」
僕は雑巾を取り出した。異世界に転生する前に、鞄に入れてあったものだ。いつでも、どこでも綺麗にすることができる様に掃除道具は常に持参している。
「え、そんなの持ち歩いてるの。怖」
アポロはドン引きしている様だが、気にしない。僕からしたらこんな家に住んでいたことの方がよっぽどドン引きだ。
雑巾を濡らし、地面に四つん這いの状態になった。廊下の雑巾掛け、開始だ。
「うおおおおおおおお」
僕は中学の時の雑巾掛け競争で一番を取ったこともある。掃除はスピーディーに、正確に。それが僕のモットーだ。
「へえ、早いわね」
「見てないでアポロも手伝え」
「ふ、見せてあげるわ、勇者の力を」
アポロはそう言って雑巾を取り出すと、雑巾掛けのスタイルをとった。
「はあああああああああ」
何というスピードだ。勇者の名は伊達ではない。
「これは、負けてられないな」
僕も彼女の反対方向から雑巾掛けを始めた。アポロはこちらをちらりと見て、笑った。
「おやおや、私のスピードについてこられるかしら?」
「上等だ、こちとら雑巾掛けなんか毎日やってんだよ!」
僕たちは自然と競争をしていた。そして二人して廊下の奥のゴミの山に突っ込んでいた。
雑巾を絞ると、真っ黒な水が出てきた。どれだけ汚れていたんだ。
「最後にこれをかけとくか」
僕はカバンからワックスを取り出した。
廊下の奥から、慎重にワックスをかけていく。この時順番を間違えてしまったら出ることができなくなってしまうのだ。
「何この白くて臭い液体」
後ろを振り返ると、アポロがワックス液をドバドバとかけていた。
「バカタレ!!!」
僕は何とかジャンプすることで、ワックスを足の裏につけることは回避することができた。しかし、彼女に手伝ってもらうと疲れてしまう。
「じゃあワックスが乾くまでお昼にしよう。また買い出しに行くか」
そういうと、アポロは僕に向かって手を突き出した。
「ここは私が行くわ。ちょうど今、新しい奇跡が目覚めたの」
「おお、早速か」
「一度使ってみないといけないし。ちょうどいいわ。行くわよ。風の通り道!」
長いな。そう思った瞬間に、アポロの姿が消えた。そして10分ほどして、袋を持ったアポロが戻ってきた。
「どう?この奇跡。超高速で移動できるのよ」
「パシリに最高の能力だな」
「あなたいい加減バチがあたるわよ」
ワックスが乾くまでの間に、僕たちは簡単にサンドイッチを作って食べた。彼女が買ってきたトマトとチーズを挟んだり、ハムを挟んだり。
食べ終わる頃には廊下はすっかり乾いていた。
うむ、ピカピカのすべすべだ。アポロがこけていたが、特に気にすることはなかった。
やはり、綺麗にした後は気持ちが良い。僕はこの時間が大好きだ。