誰もいないはずなのに声が聞こえる待合室
田舎の古い駅、夜の待合室にて
「ねえ、知ってる?」
「なに?」
「この待合室の噂」
「噂?」
「誰もいないはずなのに声が聞こえるらしいんだって」
「何それ」
「昔ここで殺人事件があって、その被害者になった女の子の声が聞こえるんだって」
「ふーん、なんて言ってるの?」
「大抵は楽しそうに笑ってるらしいよ」
「それ、おかしくないかしら?」
「でも、殺された恨みつらみを言っていたり、助けを求められたりするよりも、怖くなくていいんじゃない?」
「殺されてるのに笑ってる方が怖いでしょ。意味が分からないもん」
「気づいてないのかもよ、殺された事を、だから無邪気に笑ってるのかも」
「殺されて一人幽霊になって寂しくないのかな、その子は」
「笑ってるって事は寂しくないんじゃない?」
「……なんか、その幽霊を見てきたような言い方ね」
「さあ、どうでしょう?」
「え、アンタ霊感があったりするの?」
「……実はね」
「ちょ、冗談はやめてよ」
「これが冗談じゃないのさ。実は、私は子供の頃からこの世のものじゃない何かが見えるんだよ」
「嘘よ。今まで一度だってそんな事言ってなかったじゃない」
「ずっと隠していたからね。バラして変な目で見られたくはなかったから」
「じゃあ、本当に見えるの?」
「うん」
「じゃ、じゃあ、なんで急に私にそのことを言うつもりになったの?」
「心してきいてくれよ」
「な、なに?」
「さっき言った女の子幽霊がね。ずっと――君の肩に乗ってるんだ」
「えっ!」
「わぁ!!」
「きゃーー!!??」
「あっはっは! 引っかかった! 引っかかった! きゃーだって!」
「だ、騙したの!?」
「あはは。ちょっと涙目になってるじゃないか。そんなに怖かったのかい?」
「そりゃ怖いわよ! もう……最悪……」
「ごめん、ごめん。ちょっと脅かしたかったんだよ」
「最近で一番の悲鳴を上げたきがする……ん?」
「ん? どうしたの?」
「あ、いや、別に。というか、じゃあアンタがさっき言った話、全部嘘だったって事?」
「いや、あれは――」
『あははは……』
「ひっ!?」
「ど、どうしたんだい?」
「い、いま、女の子の笑い声が聞こえなかった?」
「なに? さっきの仕返しでもしようとしているのかい?」
「違うの、本当に聞こえたのよ!」
「いいって、分かったから」
「本当だって――」
『あはははは』
「「――――っ!!」」
「聞こえたでしょ?」
「……聞こえた」
「さっきより声が大きくなってた……」
「こっちに近づいてきてる?」
「早く逃げましょっ!!」
「ちょっと落ちつ――」
『あはははは!』
「ひゃあ!!」
「お、おい!」
「逃げ……あ、あれ? ドアが開かない! 何で!? どうして!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてって!」
『あはははは!!』
「また声が大きくなってる! もうすぐそこまで来てるのよ!」
「落ち着いて! 大丈夫だから! 外をよく見てよ!」
「え? あ」
『あはははは! それで? うん、うん』
「ふ、普通の女の子?」
「そうだよ、ただの女の子が電話してるだけだって」
「…………良かったぁ」
「どれだけ怖がってるんだよ」
「そりゃ、あんな話をされた後だったら誰だってビビるでしょ!」
「あ、そうそう、実はあの話に続きがあって」
「も、もういいから……」
「実は犯人もその場で――」
「あの、本当に許してください……」
「あはは、君がそこまで言うのは珍しいね」
「もうメンタルがボロボロなのよ……て、あれ? さっきの女の子は?」
「走ってどこかへ行ったよ、きっと先客がいたから場所を変えたんだよ」
「走って……? まあいいか――そういえば、なんでドアが開かなかったんだろ?」
「古い町だからね。取ってつけが悪いんだよ。焦って無理に開けようとすればするほど開かなくなるさ」
「なるほど、間抜けもいいところね」
「今日の君は本当にそうだね」
「フォローしなさいよ」
「あっはっは! 全く、君といると退屈しないよ。いつまでも、この待合室で話していたいぐらいだね」
「冗談じゃないわよ。そんな事ができるわけないでしょ」
「もちろんそうなんだけどね、だから――君が気付くまで」
「え?」
「いや、なんでもないさ……そういえば、こんな話があるんだけど――」
それからも、女の子二人の笑い声が、無人の待合室から聞こえるのであった。