小人の勇者、ガヴェイン 2
朝起きると、やはり女の姿は消えていた。
幻想だったか。少し残念というか当然というか。僕は薄く笑みを浮かべた。メガネをかけて、スマホに目をやると一件のメールが着信していた。神奈涼太は、僕と小学校からの付き合いにあたる、旧友だった。件名に、「おめでとう」と書かれていた。内容を見て、「ああ、そういえば昨日は僕の誕生日だったな」とつぶやいた。
『ありがとう。最近風が強いし、身体に気を付けて』と送り返すと、すぐに返信がきた。涼太は、『こっちは元気だよ』という文章のあとにかわいらしく顔文字を付けて、一枚の写真が送られてきた。金髪にピアス穴の開いた青年と、まるで兄妹のように小柄で可愛らしい少女が、並んで写っていた。
涼太の恋人である、朱璃だ。二人はいつも一緒にいて、互いに互いのことを常に考えている。悲劇を抜いた、「ロミオとジュリエット」のような二人組なのだ。
僕は思わず笑みを浮かべると、ロフトから降りて、窓を開けた。久しぶりに日差しを浴びた気がした。
「ふう……いい天気だな」
こういう日は――
黒いものを殺したくなる。
そんな衝動が、僕の中に駆け巡った。
今、僕はどちらかといえば、赤色に属していると思う。なぜかそんなことばかりが頭に浮かんで、思わず吐き気がした。
胃酸によって口の中が酸っぱくなった。昨日出会った気のする少女の笑顔、いや、彼女の語られていないはずの記憶。
そして世界の仕組みが、なぜか解る気がしたのだ。
五十三枚のカードのうち、自分は五十三枚目で、どちらかと言えば赤い。
どういう意味だ? 解るようで、解らない。彼女に会いたい。彼女の名は――『グリムロッテ・ヴァルシュタイン』で間違いない。
枕元に置かれたのは、彼女の靴であろうか? 童話、シンデレラのように、ガラスで作られた靴ではない。真っ赤なヒールだった。
手に取って解る、これが合う人物はただ一人なのだと。
僕は急いで外に出た。
「殺さなきゃ」
そして、見つけなきゃ。グリムロッテを。彼女は――僕の姫だ。
この世界は、赤と黒で分かれている。
赤の世界に属するのは、「グリム童話」「伝説の竜」。
黒の世界に属するのは、「ウィリアム・シェークスピア」「円卓の騎士」。
どちらの世界にも属さない、そしてどちらかの色に属する妙な存在を、『戯札』と呼んだ。