表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第一部 消失する日常
7/73

七話 影召喚

 影の召喚を行う予定の部屋は、物々しい警備体制が敷かれていた。

 まるで軍事施設であるかのような雰囲気だが、あながちそれは間違いではない。


 影の持つ力は強大であり、その能力も多岐に渡っている。そして国民の影は、国の国力に直結することにもなる。


 国直轄の機関である学園。

 そこでの影召喚が軍によって厳重に管理されるのは不思議ではないだろう。


 そう、管理だ。


 国として国内に存在する影の能力を把握しておきたいと考えているのか、影の召喚後には能力を国のデータバンクへ登録することが義務付けられている。


 しかし、軍に管理されることを窮屈(きゅうくつ)だと文句を言うわけにもいかない。 


 なにしろ若い学生が急に大きな力を得ることになる訳だ。影を得たばかりの学生が暴走してしまえば重大な事故を招きかねないので、それを防ぐ為の力は事前に準備して然るべきだろう。


「影の召喚、楽しみだね」

「あ、ああ……」

「う、うん」


 僕が友人に話題を振ると、モブ君とメガネ君からぎこちない応えが返ってきた。

 決闘を経て友達になったばかりのモブ君は仕方がないとして、心なしかメガネ君との心の距離が広がっているような気がする。


 もしかしたら……モブ君の父親扱いした事が尾を引いているのだろうか?


 僕は童顔なので老け顔のメガネ君が羨ましいくらいなのだが、本人が気に病んでいたとしたら申し訳ない事をしてしまった。

 かといって話を蒸し返すのも悪手なので、ここは触れないようにすべきだろう。


「ガウスなんかは並外れた影が出てきそうだよね」

「そ、そうだね。ガウス君なら生物型の影とか出てくるかもしれないね」


 ちなみにガウスは僕たちの輪にはいない。

 ガウスはクラスの人気者なので級友たちに取り囲まれているのだ。


 友人が少ない僕たちは、部屋の隅でひっそりと身を寄せ合っているのである。


「生物型かぁ……うん、珍しいけどガウスなら有りそうだね。僕は何でもいいけど、やっぱり戦闘向けの影が欲しいなぁ」


 影のバリエーションは豊富だが、生物の形を模したものは珍しい傾向がある。

 もっとも生物型とは言っても、基本的には影が生物の形を形作っているだけであって、召喚者の意思通りにしか動かない代物だ。


 それでも生物型は、道具型などと比べると有用な力を持っているものが多い。

 数ある影の種別では〔当たり〕に分類されるものと言えるだろう。


 僕としては道具型でも生物型でも構わないが、将来の目的の為には戦闘で役立つような影が望ましいところである。


「ぼ、ぼくは普段の生活に役立ちそうな影がいいかな」


 メガネ君は堅実な性質をしているだけあって、無難な影を望んでいるらしい。


 戦闘に特化した影を得ても日常生活では役立つ場面はないので、メガネ君の希望も理解出来るところだ。仮に武器型のような戦闘特化の影を手に入れたとしても、軍や警察などの荒事を要する仕事以外では活躍の場がないのだ。


「モブ君はどんな影が欲しいと思う?」

「オ、オレは、武器型だ」


 なるほど、ナイフを所持していただけあってモブ君は武器が好みのようだ。

 影の種別には召喚主のパーソナリティも影響するらしいので、攻撃的なモブ君なら武器が召喚される可能性は充分にあり得るはずだ。


「そっか、モブ君は僕と同じだね。僕も武器型なら嬉しいんだけど……全く武器型が出てくるイメージが湧かないなぁ」


 影の希望が同じであることをアピールして親近感を得ようと画策しつつ、自分の影について思いを馳せる。


 僕は生まれ育ちの影響で戦闘行為が得意ではあるが、取り立てて好戦的な性質ではない。むしろ身体を動かすよりも本を読んでいる方が好きなくらいなので、僕に武器型の影が召喚される可能性は低いと考えざるを得ないだろう。


 そして友人たちと和やかに話しながら待っていると、ようやくその時は訪れた。

 軍の人間によって、影召喚に必要な〔道具〕が部屋に運ばれてきたのだ。


 学生たちは期待と興奮に包まれているが、軍人たちが放つ空気は対照的だ。


 彼らは一様に緊張した面持ちであり、全体的にピリピリした雰囲気を漂わせている。金銭には代えられない貴重な道具を取り扱っているせいか、彼らはひどく警戒しているようだ。


 床に敷かれた衝撃吸収材の上に置かれたのは――()()()()()


 占い師が使う水晶玉のような大きさであるにも関わらず、その球体を見ていると全身が吸い込まれそうな錯覚に囚われる。

 世界に十個も存在しないこの球体の名は〔解放玉〕。


 その名の通り、人間の潜在能力――影を解放すると言われているものだ。


 解放玉(かいほうぎょく)に関しては素材から製法に至るまで全てが不明のままだが、影持ちを生み出すというその効力の絶大さは折り紙つきだ。


 影という存在は、あらゆる分野でこれまでの常識を覆している。

 世界各地の遺跡で発見された解放玉。

 かつてその所有権を巡って、各国が戦争状態に突入したこともあったほどだ。


 今は世界の主要大国が保持することで一定の均衡状態を保っているが、解放玉の取り扱いに軍が神経質になるのも当然の事だろう。


 そして影の召喚は一人ずつ始まった。


 それは、召喚と呼ぶよりは身体から引き()り出すといった印象を受ける儀式だ。

 影の召喚は、意味不明の呪文を唱えて『出でよ、影!』などとやる訳ではない。

 召喚者は解放玉に触れるだけで終わりだ。


 生徒が触れても解放玉に変化は無いが、突然(かたわ)らに〔影〕が現出するのだ。


 級友たちの影を見る限りでは、やはりと言うべきか道具型が圧倒的に多い。

 生み出される道具は本人のイメージに左右されている面もあるのか、ペンやバッグなどの身近な物が中心となっている。


 それらの道具は一見すると普通のペンやバッグと遜色ない物だが、もちろんただの道具などではない。道具型の影ともなると、その道具は例外無く特殊な力を有しているのだ。


 クラスメイトの影を例に挙げれば――ペンは視認した光景を自動筆記で描き起こすものであり、バッグは外見の数倍以上の物を収納可能とするものだ。

 バッグに関しては、召喚者が影を消すと収容物が溢れ出てしまうといった欠点はあるが、影の恩恵はどれも人知を超越したものだと言えるだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、八話〔プライスレス〕

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ