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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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六九話 禁じられた小隊長

 神王の居住する神殿はわざわざ場所を探す必要もなかった。

 その威容な建築物は、壁を抜けた直後から僕たちの視界に入っている。

 荘厳な雰囲気のある神殿。それは僕たちの進む大通りの終点に位置していた。


 その神殿の前には三人の男が立っていた。


「――下りましょう!」


 僕が声を掛けた直後、同乗者たちは走行する牛車から迷いなく飛び降りた。

 流石に判断が早い。お兄さんに至ってはモウ次郎を止める事すらしていない。


 不測の事態が起きれば反射的に牛車を急停止させそうなものだが、お兄さんは咄嗟の判断で最良の選択をしている。

 これから発生するであろう現象を考えれば、牛車からの迅速な離脱は必須だ。

  

 ――――ドゴゴッ。


 僕の予想に違わず、それは起きた。

 唐突な地響きと共に――大通りの大地に大きなヒビが入ったのだ。

 猛進を続けていた牛車は、大きな地割れに吸い込まれるように転落する。


「モウ次郎っ……!」


 お兄さんはすかさずモウ次郎を帰還させた。

 この場合は帰還してもしなくても結果は同じだったはずだが、モウ次郎が落下ダメージで消失するのが耐え難かったのだろう。


 そして大地の崩落に巻き込まれたのは牛車だけではない。

 無慈悲な地割れは複数の建物を巻き込んでいる。大通りに面しているという立地が仇になり、幾つものお店が甚大な被害を受けている様相だ。


 不幸中の幸いと言うべきか……お店から悲鳴が聞こえてはいるが、気配的には地割れに落ちた人はいないようだ。


 しかしそれでも許される事ではない。

 神都の一等地にあったお店。まだ家のローンだって残っているかも知れない。

 住んでいない家のローンを払い続ける被災者……許せない、許せないぞ!


 被災者の気持ちを考えると地割れの犯人を許せない気持ちが溢れてくる……!


 ――そう、()()()()()()

 この地割れは自然災害などではなく、人為的に起こされた災害だ。

 もちろんこんな人並み外れた真似が出来るような人間は限られている。

 

「部隊か……フザけた真似しやがって」


 ガウスは義憤を感じさせる声で呟き、前方に立つ男たちを鋭く睨みつけた。

 神殿の前に立つ三人の軍服の男。

 その中の一人が杖を大地に突いている――この地割れは、あの杖の固有能力だ。


「ちょっと貴方、非常識ですよ!」


 部隊員を厳しく叱りつける僕。

 施設出身者には非常識な人間が多いが、無辜の民に迷惑を掛けるような振る舞いは看過できない。人的被害が出ていなくとも許し難い暴挙だ。


「そうだよーっ、非常識だよーっ!」


 僕に乗っかるようにカーラも非常識を咎める。

 なにやら胸の奥に引っ掛かるものがあるような気がするのは気のせいだろう。


「――どこの命知らずの阿呆かと思えば、どこかで見た事のある顔が多いな。特にそこの二人、お前らは『肥やし』にしたはずなんだかな」


 僕とカーラの叱責を受けても部隊員に反省の色はない。

 リーダー格らしき男などは、僕の言葉が聞こえていない様子でこちらを値踏みしている。……施設出身者にはコミュ症が多いので仕方ないと言えば仕方ないが。


 男が首を捻りながら凝視しているのは、終末炉に囚えられていた二人だ。男が『肥やし』などと口にしている事からも、お兄さんたちとは顔見知りなのだろう。


「てやんでい! おめぇ、よくもノコノコと顔見せられたもんだな!」


 やはり部隊の男と面識があったらしく、お兄さんは怒りの声を上げている。

 お兄さんたちは部隊に騙し討ちを受けて終末炉に送られたとの事なので、もしかしたらこの男が関与していたのかも知れない。


 ちなみに男が顔を見せたと言うよりはお兄さんが豪快に訪問した形なのだが……それを指摘するのは野暮というものだろう。

 そしてお兄さんと因縁がある相手という事は、この人も無関係ではない。


「きゃぁぁぁっ!」


 急に叫び声を上げるお姉さん。

 もしかしてトラウマのある相手なのだろうか? と心配したのも束の間、お姉さんは挨拶代わりに火弾を放った!


 ――ボッ、ボッ、ボッ。


 火弾は部隊の数に合わせて三発。

 リーダー格の男は辛うじて回避したが、しかし全員が回避に成功した訳ではない――杖を持つ男が火弾に触れてしまった。


 急速に燃え盛る炎。全身にまとわりつく火を消そうと転げ回る男。依然として悲鳴を上げ続けるお姉さん。……うむ、悲鳴を上げたいのは相手の方である。


 そして炎上しているのは部隊員だけではない。

 二人の男が回避に成功しているが、そのまま火弾が消えた訳ではないのだ。

 火弾は彼らの背後にあった物へ命中した――そう、神殿が炎上している……!


「クソッ、イカレ女がっ!」


 リーダー格の男が毒づいているが、これは僕も擁護しにくいものがある。

 お姉さんは燃える神殿にリラクゼーション効果を得たのか、今度は「アハハハッ……」とご機嫌な様子で哄笑しているのだ――情緒不安定すぎである……!


 火災を消火する為に神殿の人間が消火活動に駆けつけて来たが、しかし放火お姉さんの火を消せずに手こずっている。

 彼女の炎は簡単に消えないので無理もない。


 だがこれはまずい……。神王を倒す為にやって来たはずなのに、このままでは焼死体の中から神王を探す破目になりかねない状況だ。

 こうなってしまった以上、一刻も早く神殿に突入して神王を倒すしかない。


「お兄さん、お姉さんを抑えておいてください。僕があの人たちを片付けます」


 炎上拡大への対策を講じつつ、僕は有無を言わさず部隊の打倒を宣言した。

 幸いにも先の火弾で火石は消滅しているが、また放火アイテムを再召喚されては堪らないのでお姉さん対策は必須なのだ。


「へっ、しゃぁねぇな!」


 部隊の男はお兄さんにとっても因縁のある相手だったはずだが、わだかまりを感じさせない気持ちの良い笑顔で了承してくれた。

 実際のところ……お兄さんたちは実力的には申し分無くとも実戦のブランクが長いので、部隊と正面からやり合うには不安が残るのだ。


「お姉ちゃん、カーラに任せといてよ!」

「――いやいや、カーラも後ろにいてね」


 放火お姉さんの大活躍に触発されたらしいカーラを(いさ)めておく。

 カーラは「え〜っ」と不満そうな声だが、わざわざ妹分に危ない橋を渡らせたくはない。僕はカーラをあやしながら剣を借り受け、部隊の二人に向き直る。


「……部隊も舐められたもんだな。おい、とっとと片付けて火を消すぞ」

「はい、小隊長!」


 リーダー格の男は小隊長という立場のようだ。

 部隊の序列は知らないが、男がベレスより格下に位置している事は間違いない。

 実際、この男にはベレスと対峙した時のような怖さが感じられないのだ。


 それでも油断せず部隊員たちに近付いていくと――不意に、身の危険を感じた。


「お兄ちゃん危ないっ!」


 カーラの声が耳に届いた時には、僕はサッと横に飛び退いていた。

 僕が立っていた場所を飛来する乳白色の石――そう、カーラの治癒石だ!


「……ごめんなさいお兄ちゃん」


 咄嗟に後ろを振り返ると、カーラはいつになく反省している様子で謝罪した。


 この状況からすると、戦闘に参加したい気持ちを抑え切れずに治癒石を投擲してしまったという事のようだ。そして気が逸りすぎてうっかり手元が狂ったのだろう……危うく〔カーラ被害者の会〕の入会資格を得てしまうところだった。


「いいのよカーラちゃん」


 なぜかお姉さんが勝手に許しているのが気になるが、僕としても悲しそうなカーラを強く責める気は起きないところではある。

 それに……僕は無傷で済んだが、他に深刻な被害を受けた者が存在している。


「……ぁ、ぁっ」


 僕がブラインドになっていた事もあって、治癒石は小隊長に命中していた。

 しかもどうやら治癒石の尖った部分が腹部を掠めたらしく、男のお腹から小隊長が『たるんどるぞ!』と顔を出している。


 ……いや、現実から目を逸らすのは駄目だ。

 あれは小隊長ではなく――――小腸!

 そう、たるんでるのは貴方ですよ……!


明日も夜に投稿予定。

次回、七十話〔突入する神殿〕

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