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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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六八話 止まらない暴走

 神殿へと続く広い大通り。

 僕が現実逃避している内に、牛車は大扉を抜けて大通りに入っていた。

 

 日中であるにも関わらず、神都の大通りは賑わいもなく閑散とした様相だ。

 周囲の気配から察するに、街の人々は家の中に避難しているような空気がある。……おそらく凶悪な放火お姉さんの活躍が伝わったからだろう。


 なにしろ神都の大扉は炎上している。

 お姉さんは部隊衆を燃やしただけでは飽き足らず、神都の出入り口である大扉にもノリノリで火を点けてしまったのである。


 僕たちは正義を為しに来たはずなのだが……なんとなく凶悪なテロリストのようになっている気がしないでもない。


 僕が自分の在り方について悩んでいると――すぐに次の障害が視界に映った。

 人の居ない神都の大通り。そんな場所を慌てた様子で走ってくる人間がいるのだから、遠目でも気付くのは当然だ。


 当然、お兄さんも人の姿には気付いている。専用道路の如く牛車を爆走させていたが、お兄さんは人の姿が見えた直後には速度を緩めていた。


「向こうからやって来る集団、あの人たちは部隊衆みたいですね」


 僕の優れた視力は、彼らの胸元のバッジをしっかりと捉えていた。

 血相を変えて走っている五人の男、彼らは紛れもなく部隊衆だ。

 そこで動きを見せたのはお姉さん……って、いかん! いかんですよ!


「ちょまぁーっ! ま、待ってください、街中で火魔術はいけません!」


 放火お姉さんから火魔術の気配を感じたので慌てて制止する。

 炎が視界から消えた影響で落ち着きを取り戻してくれたお姉さんだったが、まだ彼女の一挙一動を注視していて正解だった。


 なにしろ街中で放火活動に励もうものなら民家に延焼してしまう可能性がある。

 僕は神王を倒して歴史に名を残したいとは思っていないが、このままでは稀代の放火魔集団の一員として名を残すことになりかねない。


「あらそう? ふふ……それは残念ね」


 一応は矛を収めてくれたが、まだお姉さんは両手に火石を抱えたままだ。

 彼女の朗らかな態度に騙されてはいけない。凶器は……狂気は、そこにある!


 というか、この火石は一個でどれだけの火魔術が放てるのだろうか……?

 神都民の為にも早く消えてほしいものだ……。


「どうでしょうお兄さん。ここは例の()()をお願いしてもいいですか?」

「よしきた、お安い御用でい!」


 間近に迫りつつある部隊衆への対応は、お兄さんに一任する事とした。


 ここで僕が言う『アレ』とは他でもない――黒牛の固有能力だ。

 モウ次郎はこんな場面にうってつけの固有能力を有しているのだ。


「――そこの牛車、止まれッ!」


 大通りの向こうから部隊衆の怒鳴り声が届く。


 彼らは大扉の騒ぎを聞きつけて駆けつけたものと思われるが、僕たちの牛車が炎上事件に関与していると考えたようだ。

 人通りのない道を爆走しているのだから疑われるのも当然だろう。


 牛車を待ち構えるように銃を向ける部隊衆。

 対するお兄さん操るモウ次郎は、大きな口を開き――声なき咆哮を上げる。


「――――」


 黒牛が口を開いた直後、部隊衆は一斉に頭を押さえて膝を突いた。

 もちろん偶然に集団頭痛が発生した訳ではなく、これがモウ次郎の固有能力だ。


「おおっ、これが()()()()ってやつか」

「どうよ、大したもんだろ?」


 ガウスの感嘆の声に、お兄さんは得意げで誇らしげな笑顔を見せている。

 お兄さん自慢のモウ次郎が感心されているのが心から嬉しいようだ。


 実際、この音波攻撃はかなり使い勝手が良い。

 牛車で走っている最中という事もあって空気の振動すら感じ取れなかったが、部隊衆は外傷らしい外傷もないのに苦悶の声を漏らしている。


 強力な音波を浴びると人体に悪影響が出るとは聞いた事があるが、影の固有能力で音波を出す個体は非常に珍しい。

 高魔力保有者である僕たちには通じないだろうが、一般人への非殺傷攻撃としては極めて優秀なものだと言えるだろう。


 だが、ここで一つ誤算があった。


「ひっ、やめっぁぁ!」

「た、たすけっああ!」


 牛車は無力化した部隊衆を()いていた……!

 満足に動けなくなっている彼らは、黒牛の巨体に為す術なく踏み潰されていく。

 運良くモウ次郎の足から逃れた者も、荷車の車輪によってドコドコと無惨に踏まれていった。……五人を乗せた荷車に踏まれようものなら致命傷だ。


 一体なにが起きているのか……?

 大通りの道幅は広い。倒れている部隊衆を避けて走行するのは難しくなかった。

 せっかく非殺傷攻撃で無力化しておきながら、なぜわざわざ彼らに止めを刺す必要があるというのだろうか?


 これでは確実に轢き殺す為に動けなくしたようなものではないか。

 しかも今回のこれは、僕のお兄さんへの依頼が発端――そう、僕が残虐行為の依頼者みたいになっている……!


「お兄さん、なぜ彼らを轢いていくんですか!?」


 当然、お兄さんを詰問せずにはいられない。

 これでは非殺傷攻撃を頼んだ意味がないのだ。


「ハハッ、かてぇことは言いっこなしだぜ!」


 僕が頭の固い人間みたいになっている……!

 信じられない、まさか僕が石頭と言われる日がやって来るなんて……。


 僕は柔軟な思考を持っていると自負していたが、ただの勘違いだったのか?

 ……いやいや、そんなはずがない。

 おかしいのは僕ではなく、轢き逃げお兄さんと放火お姉さんだ……!


「施設はこんな奴しかいねぇのかよ……」


 現にガウスも盛大に引いている。

 自分の乗っていた車が人を轢いた訳なので、ガウスが引いているのも当然だ。

 ガウスにとっても他人事ではない、法的にはガウスも立派な共犯者である……!


 しかし……カーラも大分アレな子だと思っていたが、一見まともそうに見えたお兄さんたちもしっかり狂っていた。


 罪深きは施設の教育。僕は早期に脱走したから救われたが、彼らと同じようになっていたのかも知れないと思うと恐ろしさを感じる。

 将来的に武国へ恐ろしい逸材を引き込む事になると思うと罪悪感があるが、僕が責任を持って彼らを真人間に導いてあげるしかないだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、六九話〔禁じられた小隊長〕

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