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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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六五話 新たな同行者

 高速で飛んでいく景色。

 現在の僕たち一行は、馬車ならぬ『牛車』に乗って移動していた。


 車を引くのは真っ黒な巨体を持つ牛。常軌を逸したパワフルさを持っているだけあって、当然の如く普通の牛ではない。


 この黒牛は生物型の影であり、この牛車の同乗者が召喚した影である。


「かぁーっ、一時はどうなる事かと思ったぜ。まったく嬢ちゃんには足を向けて寝られねぇってもんだ。この借りはきっちり返させてもらうかんよ」


 カーラに感謝を告げるのは、どことなく荒々しい雰囲気のあるお兄さんだ。

 伝法な口調だが、その豪快な気持ちのいい笑みには好感を覚えるものがある。


 そしてお兄さんがカーラに感謝している理由は他でもない、このお兄さんがカーラの治癒魔術で復活した内の一人だからだ。


 僕たちのこれからの行動に『足』があると便利だったので、お兄さんの影を利用するという提案を受け入れて神都行きへ同行する事になったのだ。

 同行者は牛使いのお兄さんだけではない。


「ふふ……。貴方、可愛いのに凄いのね」


 優しげな温かい笑みを浮かべてカーラの頭を撫でているお姉さん。

 こちらのお姉さんも、牛使いのお兄さんと同じくカーラの治療で蘇った一人だ。


 僕たちは戦力的には不自由していなかったが……この二人は同期の生き残りであり、離れ離れにするのも忍びなかったので、協力の打診を素直に受け入れた形だ。


 僕とガウスにカーラ、そして復活を果たしたお兄さんとお姉さん。

 この五人のみが神都行きのメンバーとなっており、コヅチさんや施設の子供たち、眠っていた同胞たちについては、終末発電所で待ってもらう事にしている。


 終末炉の解放後――僕は同胞たちに向けて神王打倒を宣言した。

 もちろん同胞たちには動揺の波が広がったが……しかし、事前の予想に反して同胞たちから反発の声は上がらなかった。


 実際のところ、終末炉の糧にされていた人々は騙し討ちのように囚えられたとの事で、施設の子供たちも彼らの悲惨な姿を目の当たりにしている。

 僕の神王打倒を止める人間がいなかったのは、彼らの中で神国への不信感が高まっていた影響が大きいのだろうと思う。


 むしろ僕を止めるどころか協力したいと申し出る者も多かったが、ほとんどの人たちにはお断りさせてもらっている。

 なにしろ僕たちは終末炉を停止しているのである。施設解放の時とは違い、神国は間違いなく異変を察知しているものと想定すべきだ。


 必然的に迅速な行動が求められる事から、少数精鋭での短期決戦で片を付けるべきだろうと考えたのだ。……眠っていた同胞はまだ衰弱しているので、戦闘に巻き込みたくなかったという理由もある。


 しかし考えてみれば、治療を受けたとは言えお兄さんたちもまだ病み上がりだ。

 彼らに強行軍は無理があったかも知れない。


「お兄さん、身体はもう大丈夫なんですか? この牛車は激しく揺れてますが……車酔いになったら遠慮なく止めてもらって構いませんよ」

「てやんでい! この程度の揺れなんざ揺り籠みてぇなもんよ!」


 な、なるほど……。

 同じ施設育ちとは思えない訛りは気になるが、確かにお兄さんは元気溌剌としている。強がって虚勢を張っているという訳でも無さそうだ。


「私たちなら大丈夫よ。ふふ……カーラちゃんのお兄さんは心配症ね」


 お姉さんの方にもかなり余裕がある。

 僕に答えながらもカーラの頭を撫でる手を止めていない――むしろ牛車の振動を利用して小刻みに撫でている……!


 どうやらお姉さんはカーラの事が可愛くて仕方がないらしいが、カーラも甘やかされるのが大好きなので嬉しそうだ。……カーラを甘やかし過ぎるとロクな事にならないので用心しておくべきかも知れない。


 ちなみにこのお兄さんたちは、僕やカーラとは施設で面識がない人たちになる。

 この二人は揃ってニ十年近く眠っていたとの事なので、もう完全に別世代だ。


 二人の知人はことごとく亡くなっていたという事もあって神王への恨みも強く、彼らが神都同行を強く希望したのも当然の事なのだろうと思う。


「しっかし坊主たちは二人とも異性体持ちとは大したもんじゃねえか。部隊の連中がやられるだけの事はあらぁな」


 当然、牛使いのお兄さんには僕とガウスの情報を伝えてある。

 これから肩を並べて闘う仲間なので戦力について伝えておくのは当然だ。


「いえいえ、お兄さんの影も大したもんですよ。これだけ速ければ一両日中には神都に着きそうですから」


 特に狙った訳ではなかったが、カーラが治療したお兄さんが移動向きの影を持っていたのは望外の幸運だったと言えるだろう。

 神国に異性体持ちはいないので通常の動物タイプという事になるが、お兄さんも施設出身者だけあって非常に強力な影だ。


 発電所で見つけた荷車を改造した牛車。そんな簡易な牛車に五人も乗せているにも関わらず、お兄さんの牛は軽々と引っ張って猛進しているのだ。


「あったぼうよ! オレのモウ次郎は天下一だかんな!」


 モ、モウ次郎……!

 僕が内心で衝撃を受けていると、背後のフェリが不快そうにモヤリと揺れた。

 おそらく僕が初対面で『モヤ次郎』と命名した事を覚えていて、危うくパクリネームを付けられそうになったと誤解しているのだろう。


「おっと、待つんだフェリ。確かにモヤ次郎は秀逸なネーミングだったけど、僕とお兄さんは今日が初対面だからね。決して名前をパクった訳ではないよ?」


 僕は真摯に正当性を訴えた。

 お兄さんとは偶然に感性が一致しただけであって、そもそも唯一無二の相棒にパクリネームを採用する訳がないのだ。 


「…………」


 しかしフェリの機嫌は悪化していた。

 まるで攻撃態勢に入っているかのように僕の肩に取り憑いている。


 僕のパクリ疑惑が払拭されなかったのかも知れないが、これ以上の潔白の証明は難しいと言わざるを得ない。……そう、悪魔の証明である。

 ないものをないと明瞭に証明するのは極めて困難な事なのだ。


 ならばここは別の切り口で攻めてみるか。 


「でも結果的にはモヤ次郎は止めておいて正解だったね。滑舌が悪くて『モヤゥ次郎』なんて呼んじゃったら紛らわしいからさ。はははっ……ぁぁっ!」


 軽く笑い話として流そうとしたところ――肩の強制マッサージが敢行された!

 強制マッサージで矯正してやると言わんばかりの締め付けに、僕は倒れ込んで呻き声を上げることしか出来ない。

 おかしい……完璧な作戦だったはずなのに、何がまずかったのだろうか。


明日も夜に投稿予定。

次回、六六話〔さりげない神都入り〕

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