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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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六二話 気になる凶器

 発電所の入り口で合図を送ると、コヅチさんたちはすぐにやって来た。


「アロ、終わったのか。……ベレスは?」


 その問い掛けに首を振ると、コヅチさんはそれ以上の事を尋ねなかった。

 僕とベレスに対立以外の道が無かったのは、コヅチさんも良く知っている。

 それでも『もしかしたら』という思いで、聞かずにはいられなかったのだろう。


「発電所に部隊はもう居ません。まだ軍の兵士が残っていますが、彼らに抵抗の意思は無いようです。素直に武装解除して一室に集まってくれました」


 コヅチさんだけではなく、子供たちにも聞こえるように現在の状況を語った。

 子供たちは立入禁止である発電所に足を踏み入れた事で不安そうにしていたので、彼らを安心させる必要があったのだ。


 実際、僕の言葉は真実だ。

 部隊の敗北を遠方から見ていた影響なのか、兵士たちは驚くほどに従順だった。


 彼らの恐れの視線がカーラに向いていた事からすると、カーラの持つ『スコップ』が関係していそうな気がしないでもないのだが……そう、スコップだ。


 僕がベレスを打倒した直後、カーラは少しだけ近くの建屋に姿を消していた。

 その時には『トイレかな?』と思っていたが、なぜか戻って来た時には血塗れのスコップを手に持っていたのである。


 カーラも知人の死に思うところがあったのだろう、気を利かせて遺体を埋める為のスコップを調達してきてくれた事は分かる。

 しかしそのスコップが血に濡れている理由が分からない。分かりたくない。


 しかもカーラはスコップが気に入ってしまったのか、遺体の埋葬が終わった後もスコップを手放す気配がないのだ。……もう穴掘りの機会はないのだが。


 ……いや、些事を気にしている場合ではない。

 僕は血生臭い現実から目を逸らしつつ、コヅチさんへの現状報告を続ける。


「コヅチさんたちを呼ぶ前に所内は軽く探索済みですが、あの建屋――終末炉のある建屋だけは、まだこれからです」


 子供たちを招く前に危険を確認しておくべきだろうという事で、僕は無抵抗の兵士たちを一箇所に集めつつ、ざっくりと所内の探索を済ませている。


 ただ……入り口が厳重に施錠されていた建屋だけは足を踏み入れていない。

 兵士たちの話ではそこに終末炉があるとの事なので、他の建物と比べてセキュリティが厳しくなっているようだ。


 もちろんその気になれば侵入は難しくなかったが、ここまで来たらコヅチさんたちと合流してからでも遅くはないと判断したのだ。


 終末炉を目前にした子供たちの反応は様々だ。

 年少組は一様に不安そうな様子であり、年長組の一部は不安を見せつつも建屋に懐疑的な視線を向けている。……年齢によって反応に差が生じているのは、洗脳教育を受けた期間の差によるものなのだろう。


 だが、もはや彼らに疑われようとも関係ない。

 あとは自分の目で確かめてもらうだけだ。


 ――――。


 ――ヒュッ。

 僕はカーラから借りた剣を振るった。

 その狙いは、固く閉ざされた扉と枠の間だ。


 たとえ堅固な鍵であろうとも、魔力を流した剣なら切断するのも難しくはない。ピッキングで解錠するには難儀そうな鍵だったので、手っ取り早く力技で解決だ。


 わざわざカーラに剣を借りずとも死亡した部隊員からゲットすれば良いのだが、剣は使用頻度が低いわりに嵩張るので適時カーラから借りる事にしているのだ。


「はい、剣を返すよカーラ。……もうスコップは要らないんじゃないかな?」

「えぇ〜〜、使うもんっ」


 剣を返却しつつさりげなく危険物の撤去を試みたが、カーラは血塗れの凶器を手放そうとはしなかった。どうやら本当にお気に入りになっているらしい。


 鞘に収納されている剣と比べるとスコップは剥き出しの凶器だ。

 子供たちも怖がっているので奪取しておきたいのだが、流石に本人が気に入っている物を強引に奪い取るのは気が引ける。


 ……こうなれば仕方がない。

 カーラがスコップしないように、僕が目を光らせておくしかないだろう。


「それじゃあ行こうか皆。気配からすると……こっちの方かな?」


 建屋の中は、壁も床も全てが白塗り。

 どこか病院を思わせるような雰囲気がある。

 いや……病院と呼ぶには無機質なので『研究所』と呼んだ方が的確だろうか。


 なにしろ建屋の入り口には、受付もなければ案内板の一つもないのだ。

 僕たちが招かれざる客なのは承知の上だが、訪問者に対して不親切極まりない。

 人の気配が感じられるので迷うことはないが……しかし、違和感がある。


 終末炉では、高魔力保有者が生きたまま燃料にされているという話だった。

 毎年のように施設から人が送られている事から、終末炉には数十人の同胞が囚えられているものと予想していた。


 そして建屋内には確かに人の気配があるが――()()()()()()()()()()

 僕の感じ取れている気配は僅か十人だ。


 おかしい……これはどういう事だろう?

 かつて反乱を目論んだサクさんの情報に誤りがあったとは思えない。実際、部隊員たちもその事実を暗に認めていた。

 

 ここには終末炉を管理している職員も存在しているはずなので、尚更に人の数が合わない。まさか……部隊が敗北した事で高魔力保有者を処分したのだろうか?


 ……いや、それは流石に考えにくい。

 彼らは神国にとって貴重な資源だ。

 現場の一存でそんな真似が出来るとは思えない。


 胸中で疑念と不安を抱きながら進んで行くと――その部屋を見つけた。

 階段を上がって二階にある大きな部屋。人の気配があるのはこの中だ。

 子供たちが付いてきている事を確認して、僕はノックもなく扉を開ける。


 事前に察した通り、十人の男。

 一見すると研究室のようなそこには、白衣を着た男たちが存在していた。

 

 彼らは突然現れた集団に目を見張っている。

 しかし僕は彼らの反応を気にしていない。それよりも目を引く存在がある。

 部屋の奥はガラス張りになっており、ガラスの奥には巨大な物体が見えていた。


 ――――終末炉。

 教えられなくとも、名称が記載されてなくとも、それが終末炉だと分かった。


 それをひと目見ただけで嫌悪感が湧いた。

 事前に『忌まわしい存在』という先入観があったのは否定できないが、予備知識がなくとも言い知れぬ不快感を覚えていたような気がする。


 その外見は決して不快感を煽るような奇抜なものではない。

 十メートル程度の黒い球体。終末炉を一言で言えば、ただそれだけの物だ。


 その球体に電力ケーブルらしきものが接続されているという飾り気のない代物だが、僕は自分でも不思議なほどに強い生理的嫌悪感を覚えていた。


 そして、ガラスの向こうに見えているのは終末炉だけではなかった。

 この部屋からは俯瞰する形で階下も見えている。終末炉の傍らには『棺』のようなものが等間隔に並んでいた。


 ケーブルが接続された棺。

 その棺は上部が透明になっており、ここからでも棺の中が明瞭となっていた。


 その棺には――()()()()()()()()()()()()


『姉ちゃんっ!』

『そんな……』


 それに気が付いたのは僕だけではなかった。

 子供たちもまた、棺から覗いている顔が見知ったものだという事に気付いた。


「――姉ちゃんに何してやがるッ!」


 これはいけない……。一人の少年が激昂して職員に掴み掛かっている。

 施設の子供の一人だけあって、職員の顔色が青くなるほどの濃密な殺気だ。


「待った! 君の気持ちは分かるけど、ここはもう少しだけ待たなくちゃ駄目だ。……お姉さんを救けたいならね」

「っく……」


 実際、彼の気持ちは痛いほどに分かる。

 棺の中で眠る人たちは男も女も衣服を身に纏っておらず、無色透明の液体に全身が浸かっている。彼らは一様に血色が悪く、遠くから生命の気配を感じ取れなかったほどに衰弱した状態だ。


 だが、間違いなく――()()()()()()()()


 身体が液体に沈んでいるが、口元には呼吸用らしき器具が取り付けられている。

 不安になるほどに生きている気配が希薄だが、よくよく気配を探れば僅かな脈動は感じられるのだ。……とても人間に対する扱いとは思えないので少年が激怒するのも当然だ。


 僕自身も憤りを覚えつつ、努めて平静さを意識しながら少年に言い聞かせる。


「おそらく皆は仮死状態に近いはずだ。強引に器具を破壊して取り出すと身体に影響が出るかも知れない。……歯痒いだろうけど、職員の手で蘇生してもらおう」

「……ぅ」


 僕が少年を制止した理由はそこにある。

 終末炉を管理する職員を守りたいとは思わないが、激情に身を任せて皆殺しにするような真似はマイナスにしかならない。


 現状では数十人もの仲間が仮死状態となっており、彼らの蘇生は素人の僕たちでは難しいと言わざるを得ないのだ。

 単純に機器を停止するだけでは彼らに悪影響が出るかも知れないので、ここは終末炉を管理している職員に蘇生措置を行ってもらうべきだろう。


明日も夜に投稿予定。

次回、六三話〔禁じられたスコップ〕

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