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影使いと反逆の王 ~相棒は黒いモヤ~  作者: 覚山覚
第三部 神都炎上

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六一話 因縁の決着

 おそらくこれが最後の衝突だ。

 もう仕切り直しはない。それは相手側も同意見のはずだろう。


 ベレス以外は残り三人だが、ここまで減らせばベレスとの対決を邪魔される事もない。能力が割れている三人なら、ガウスが抑えられないはずがないのだ。


 ガウスは僕とベレスの最期の会話に口を挟むことはなかったが、僕たちの闘いに介入するような無粋な真似はしないし、第三者に介入させたりもしないはずだ。


 僕は慎重に彼我の距離を埋める。

 ベレスは常に棒の先端をこちらに向けているが、やはり射程距離がそれほど長くないのか攻撃は飛んでこない。


 先に動いたのはベレスだ。

 棒の先端をこちらに向けたまま、僕の方へ一息に踏み込んできた。

 自分から距離を詰めて射程距離に捉えようという魂胆なのだろう。


 しかしベレスの棒の射程距離に入る直前、フェリが動いた。

 フェリは不甲斐ない僕を守るかのように――前面にモワリと展開する。


「……っ」


 急にマフラーが気体に変化して広がった事で、ベレスは射程距離を目前にして制止した。予測が難しい変化だったはずだが、ベレスは表情を大きく崩していない。

 事前に異性体と伝えていたので型破りな変化への動揺が少ないのかも知れない。


 しかしフェリは止まらない。

 暗黒の気体は押し包むようにベレスに迫る。

 漆黒の闇に呑み込まれれば為す術はない――が、流石にベレスは甘くなかった。


 ベレスは棒を前に構えて、そのまま器用に高速回転させる。パフォーマンスの棒回しとは比較にならない回転速度。


 これは、()()()()だ。

 いくらフェリであっても、これに触れればただでは済まない。咄嗟の判断でフェリの苦手な攻撃を選択するあたり、部隊の総長を務めているだけの事はある。


 だが、フェリは充分な仕事をしてくれた。

 フェリのおかげで、最大の問題だった棒の伸縮攻撃が制限されているのだ。

 最大の攻撃であり最大の防御であった固有能力は、フェリによって封じられた。


 ここまでお膳立てを整えてもらえれば、後の事はそれほど難しくない。


 棒を高速回転させたところで、その守りに隙がない訳ではないのだ。

 僕は迷わずフェリの中に飛び込み、黒い靄の中から蹴りを繰り出す。

 もちろん狙いは――回転の中心部。 


「ッ……!」


 迂闊に触れれば砕かれそうな回転であっても、回転の起点となっている箇所については無防備だ。それを暗闇の中から急に攻撃されて躱せるはずがない。


 棒を持つ手を蹴り砕いた手応え。

 それでもベレスは動じることなく棒の先端をこちらに向けようとする――が、既に僕は最期の蹴りを放っていた。


 僕の上段蹴りが――刃の突き出た靴が、ベレスの側頭部に突き刺さった。

 ベレスはがくりと崩れ、僕は避けることなく自然にベレスの身体を受け止めた。


 ――――不意に、思った。

 僕たちが最期に交わした会話。


 ベレスは『昔からお前が嫌いだった』と告げたが、あれは考えてみれば無駄口を叩かないベレスには珍しい言葉だった。

 もしかするとベレスは……わざとそんな事を言ったのではないだろうか?


 初見の固有能力で仕留め切れなかった時点で、ベレスの勝ちの目は消えていた。

 その事実は、当のベレスが誰よりも理解していたはずだ。実際のところ、棒の一撃を凌がれてからベレスには死を覚悟していたような雰囲気があった。

 

 だからこそ……僕が気兼ねなくベレスを倒せるように、あえて僕を突き放すような事を言ったのではないだろうか?


 ……いや、それは都合の良い思い込みだろう。

 どんな綺麗事を並べたとしても、僕が友人を殺したという事実は変わらない。

 この結果になる事は、神国と敵対すると決めた時から分かっていた。


 だから……僕は、後悔などしていない。

 これから先も知人と闘う機会があるだろうが、僕は立ち止まったりしない。

 

「…………」

「ありがとうフェリ、助かったよ」


 僕の前で揺らめくフェリに感謝を告げると、フェリは静かにマフラーへ変化して僕の首に巻き付いた。……もうこの発電所で擬態する必要はないはずだが、僕に拒絶する理由はないので何も言わない。

 ただなんとなく……いつもより少しだけ強く巻き付いているような気がした。


「……そっちも終わったか」


 ガウスもまた闘いを終えていた。

 足元には部隊員が倒れ、ガウスは五体満足で怪我らしきものは見られない。

 それでなくとも強いガウスをシュカがサポートしているので、必然の結果だ。


「うん、まぁね。子供たちを呼ぶ前に死体を埋めるから手伝ってよ」


 神国では一般国民が死亡しても墓に入れて(とむら)うような習慣はないが、一定の階級以上――部隊員であれば、国葬の対象となる。


 だが僕は、彼らを国葬などにしたくはない。

 ようやく彼らを縛るものが無くなったのに、この上更に縛り付けるような真似をするのは御免だ。死者たちはそんな事を望まないだろうが、ここは勝者の権利として勝手に埋葬させてもらう。


「……ったく、仕方ねぇな」


 ガウスは面倒そうな声を出しながらも、僕のお願いを断らなかった。

 終末炉には今も仲間が囚えられているはずだが……あと少しだけ、友人を埋葬する時間だけ、待ってもらいたいと思う。


明日も夜に投稿予定。

次回、六二話〔気になる凶器〕

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